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第4章 ダンジョンから出たけれど、やっぱりお家に帰れません。

やあ、どうも俺です。

佐藤慶太郎、30歳独身、恋人いない歴生まれてから。

この度山中で事故りまして、宇宙人と名乗るちっさいおじさんにモルモットにされました。

で、惑星エニウェアって星の山中に放り出されまして、紆余曲折の果てに宗教裁判にかけられて処刑執行中です。

いい加減このダンジョンにも飽きてきたというか疲れてきました。

出口はまだかなぁ。


――……――……――……――


人形の部屋は行き止まりだったので、引き返して下に進む道を歩いています。

暑い。

暑いな。


”地熱の影響ですね。”


うん、分かってるんだけどね。

ここってあのトカゲたちが出てきた場所だよね。

本当にこっちが出口なんだろうか?


”ここでダメなら、入口近くに戻って、地下湖を渡るしかないでしょう。”


凍えそうだな。


”地下で体温を奪われるのは、死に近づきます。”


しゃあなし。

どうかこの先が出口でありますように。


――……――……――……――


長い長いトンネルを抜けた先は戦場だった。

ってなにこれ。

下り坂を道なりにエンヤコラエンヤコラとやってきた先では、おばさん高司祭がしてた首飾りと、同じ模様を刻んだ盾を構えた騎士たちがトカゲの怪物と乱闘中だった。

どうやらワニの怪物から逃げてた一団が戻ってきたようだ。

そういや緑の悪魔とか呼ばれてたっけね。

なるほど、あのトカゲは敵か。

トカゲの数は15匹、騎士は大体20人。

見る限り騎士たちのほうが劣勢だ。

あ、また一人尻尾で叩かれて吹っ飛んだ。


”ですが敵の敵であるところの騎士は、味方とは限りませんよ。”


そりゃわかってるよ。

ベッケラートみたいな奴もいるしね。

でもさぁ、善良なる小市民であるところの俺としちゃ、人間が怪物に喰われそうになってるのって見過ごせないんだよ。

自衛隊とかお巡りさんとかいたら通報するんだけど。


”むしろあの騎士たちが治安維持組織では?”


ぶっちゃけ勝ち目はあると思う?


”このまま放置しておけば、騎士たちは全滅、爬虫類の食料になるでしょうね。”


俺が加勢したら?


”75%程度の確率で無傷で勝利するでしょう。”


負傷を許容すれば?


”敗北する可能性はまずありません。”


じゃ、参りましょうか。

ほらあの兄ちゃん足齧られてるしさ。


――……――……――……――


突如洞窟の奥から現れた黒衣の剣士は、瞬く間のうちに同輩の足に食いついていたリザードマンの首を叩き落とした。

返す刀で背後から近寄る一頭の腕を落とし、流れるように太ももを両断、絶命させる。

その上半身が揺らめいたかと思うと、刀身が閃光を放ち、遠方の一頭を穿つ。

騎士たちを襲うリザードマンを的確に一頭一頭屠るさまは、まるで死と夜の精霊の使いかと思うほどだ。

その表情に余裕はない。

されど緊張もない。

よく出来たゼンマイ時計が時を刻むように、的確に淀みなく弛むこともなく、15のリザードマンを屠り尽くした。

私は、情けないことに初陣で身を竦ませ、無様に転がされた私は、何をすることもできなかった。

そんな私に、黒衣の剣士が目を向けた。

この地方では珍しい黒い髪に黒い瞳。

不意に頬を緩めた彼は、私に手を差し伸べこういったのだ。


「よく頑張ったな、偉いぞ。」


――……――……――……――


疲れたなぁ。

本当に、疲れたなぁ。


”でも息は切らせてませんよ。成長しましたねぇ。”


まぁねぇ。

数は人形より少なかったし、ワニのバケモノよりは弱かったし。

と言うかこの剣よく切れるね。

むしろワニとか石の塊が硬すぎたのか。


”戦闘行動の最適化も進みましたし、ナノマシンの進化も順調に進んだ結果だと思われます。”


道理で騎士の人たちが苦戦してる割に弱いと思ったよ。

ちなみに俺ってどのくらい強いの?


”彼ら騎士たちは、平均的な地球人の5割増し程度の能力を持っていますね。

ですから計算の上では騎士たちの3倍程度の肉体能力を持っていると思われます。”


ああ、そりゃ大分違うはずですわ。

あ、なんかすっ転んでる人がいる。

こういう時って凹むんだよね。

みんなからも注意されるしさ。

どれ。


「よく頑張ったな、偉いぞ。」


なんかガクガクしながらありがとうって行っちゃったな。

ひょっとしてビビらせちゃった?


”感謝と憧れ、そして過度の緊張の感情を感じ取りました。”


おお、そうか俺ってヒーローに見えたってことかな。

へへへ。


”そうニヤニヤしては格好悪いですよ。キリッとしましょう、キリッと。”


おう、キリッとね、キリッと。

にへら~。


”これはいけませんね。”


ホルモン調整はやめろと言うに。


――……――……――……――


トカゲの化物、なんでもリザードマンというらしいんだが、これを倒し、騎士たちを救った俺は丁重にもてなされた。

なんでも彼らは本来この洗礼の洞窟の出口を警備する部隊らしい。

ところが、ワームというらしいあのワニの怪物に追われたリザードマン部族の襲撃を受けてしまう。

あまりに突然のことだったのと、今回は俺の洗礼の儀があって注意が洞窟に向いていたこともあり、思わぬ苦戦をしたという。


”苦戦というか、壊滅しかけてましたよ。”


社会人にはいろいろ事情があるんだよ。

察してあげよう。

ともあれ、俺は無事洗礼の洞窟をクリアし、晴れて背教者から一般市民に格上げされた。

やったぜぇと言っていいものかどうか。

とにかく皆さんの俺を見る目が、これまでの珍獣を見る目から英雄を見るものに変わったのは非常に気分がよろしい。

まして実際に壊滅を免れた騎士団の皆さんからは、恩人として下へも置かぬ有様である。

にへら~。


”これは……”


やめい、ホルモン調整はやめろ。

キリッとすればいいんだろ、キリッと。


クスクス。

あ、百面相してるから、笑われちゃったじゃん。

あれ、可愛い子だな。

茶色の髪の毛を短くしてて、あ、瞳が青と緑だ。


「綺麗だなぁ~。」

「え。」

「あ、ごめん失礼でしたか。

あなたの瞳があまりに綺麗だから。」


って俺は一昔前のトレンディドラマの俳優かっつーの!

ほうら彼女もドン引き……


「あ、あの、ありがとうございます、黒衣の剣士様!」


あれ、顔真っ赤にして行っちゃった。


”あー、彼女はリザードマンを倒したあとに声をかけた騎士ですよ。”


おお、あの時のコケてた子。

第一印象が良かったからかな。

あのくさいセリフにドン引かれるかと思ったよ。

いや良かった良かった。


――……――……――……――


綺麗だ、綺麗だって言った……

父上も、母上も、呪われたといって忌み嫌った私の瞳を見て。

あの、ものすごく強くて、怜悧な剣を振るう黒衣の剣士が。

そう言ってニッコリ笑ってくれた。

彼のあの子供のような純粋な笑顔を思い返すだけで胸が高鳴る。

生きるために家を捨て、女を捨てて、剣に専念してきた私は、その高鳴りをどうして良いかわからず、ただただ戸惑った。

それは初陣での失態を咎められ、修行のやり直しを命じられた私にとって、ただひとつの救いとなった。

もし、もしももう一度あの方に会うことができたなら、私の名前を知っていただこう。

そしてあの方のお名前を教えていただこう。

そして私ことブリュンヒルデは大きな失望と小さな誓いを胸に神殿を後にした。


――……――……――……――


騎士団に連れられ、あの白くて大きな神殿に戻った俺は、おばさん高司祭に涙ながらに迎えられ、非常に困惑した。

あとからおばさん高司祭に聞いた話では、俺が持ち帰った剣が『真なる栄光』という大変貴重な宝物とかで、限られた英雄にのみ扱えるシロモノということだった。


”正確にはサイコメトリーが使える人間にしか扱えないというだけですね。”


まぁそんなことだろうと思ったよ。

ともかくも俺の背教者という嫌疑は晴れ、英雄として扱われることになった。

ちなみにあのいけ好かないベッケラートの野郎は、


「洗礼の洞窟の試練を超えたか、おめでとう。」


ととても良い笑顔で祝福してきたので、殴りたくてたまらない。


”どうやら同じ宗派になる様子です。

暴力沙汰を起こしては今後の活動に不利になりますよ。”


おのれ副脳くん、君は一体どちらの味方だ。


”一日でも長く生存する戦略をお勧めしているだけです。”


ちくしょう。

覚えてろよベッケラート、お前に殺されかけた事実は忘れんからな。


”仕方ないですね、備忘録に加えておきましょう。”


ちなみに残念ながら俺の持ち物は処分されてたんだが、幸いアンネマリーってお嬢さんが謝礼として金貨100枚を包んでくれたんで当座の衣食住には困らない。

困らないってのは良いんだ。

だけど俺としちゃ、早くおうちに帰りたい。

ブラック企業とはいえ愛着もある会社だし、首になるはちょっとね。


”まずはここで生き抜くことを考えましょう。”


まぁとりあえずはね、とりあえずは。

はぁ。

誰か俺を地球まで連れてってくれないもんかね。


4話完結の最終話です。

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