第3章 ダンジョンを潜ってたら、温泉が湧いてました。
やあ、どうも俺です。
佐藤慶太郎、30歳独身、恋人いない歴生まれてから。
この度山中で事故りまして、宇宙人と名乗るちっさいおじさんにモルモットにされました。
で、惑星エニウェアって星の山中に放り出されまして、紆余曲折の果てに宗教裁判にかけられて処刑執行中です。
”かぽ~ん。”
うん、そういうのって漫画でもよくあるよね。
でも何の音を示してるのか、未だによくわからないんだ。
まぁこの音が出てるってことは、温泉に入ってます。
唐突すぎる?ああ、俺もそう思うよ。
でもあるんだからしょうがないじゃん。
風呂があれば入る、日本人の本能でしょう。
”どうもここは火山性の洞窟だったようです。
深部に入るほど暑くなり、地熱で暖められた地下水が溜まって温泉になったようですね。”
俺の副脳は、俺の知ってる範囲でどんな質問にも答えてくれるすごいやつです。
最近ボケるということを覚えました。
”褒めても化学物質しか出ませんよ。”
ホルモン調整はやめなさい。
それに褒めてません。
しかしまぁあれだね。
俺ってこんなに筋肉質だったっけ。
我ながら惚れ惚れするぞ。
”ナノマシン注入により人体が強化された影響でしょう。
それに先程の刺激に対応して、ナノマシンが自己進化を進めました。”
さっきの刺激って?
”剣を抜こうとした時の刺激です。
あの不快さに抵抗する必要性を感じ、ナノマシンがさらに人体を強化しました。
具体的には筋力、知力、器用度及び生命力が25%増になったようですね。”
……なんか人間離れしてるね。
”何を今更。”
確かに今更か。
うーん、見た目があんまり変わらないのは、ナノマシンてやつのおかげ?
”そうなりますね。
脳に腹脳がついているように、人体内の各器官にナノマシンがくっついて補助器官を作り出しています。
これにより見た目は通常の人間同様ですが、より優れた能力を発揮するわけですね。”
……ねぇ。
ちなみにHとかはどうなのかな。
”生殖能力は変わりませんよ。健康体そのものです。”
そっかぁ、いや良かった良かった。
”これまでの経験から推測すると、無駄な機能ではないかという疑問があるのですが。”
やめなさい、凹むから。
しかし腹が減ったな。
”蛙がいますよ。”
食えというか。
”今の消化能力なら、生で食べてもそうそう当たらないでしょう。”
……最後の手段な、それ。
さて、洗って岩に貼り付けていたパンツも乾いたし。
俺も少し体を乾かして移動しようか。
”幸い地熱の影響で、ここなら風邪を引きません。
食料もあるし、キャンプにするにはまずまずです。”
どうしても蛙を食えというのだな、君は。
”カロリーとタンパク質です。”
だから最後の手段だそれは。
よし体も乾いたし、行くべ。
――……――……――……――
暑い。
くそ暑いですぞ。
”地熱の影響ですね。”
ああ、せっかく風呂に入っていい気分だったのに、汗でベタベタじゃないか。
腹も減ってるし、ストレスが貯まりますな。
”ホルモ……”
それはいらんちゅうの。
おや分かれ道だな。
”下の方から動体反応が感じられます。
先日遭遇した爬虫類に類似していますね。”
あの化け物かぁ……
”タンパク質ですが、食べられるかどうかはわかりません。”
いや食おうと思ってないです。
ま、普通に避けていきましょ。
”動体反応が激しくなりました。やってきますね。”
見つかった!?
やべぇ隠れろ!
ドタドタドタとけたたましい音を立てて、トカゲの化物の一団が通り過ぎていく。
何だろうかと思ってしばらく隠れて見てみると、ズシンズシンという地響きとともに体長3mばかりの怪物が現れた!
見た目は足の長い鰐に似ていて、全身にけばけばしい鳥の羽が生えている。
その大きな口と牙、何よりちょろっと見えてるトカゲの手足から見て、肉食動物だというのはまるわかりだ。
そいつが急に立ち止まり、何やらクンクンと鼻を鳴らしている。
”これは臭いで見つかりましたね。”
さっき風呂入ったばかりだよ!
って、そんな意味じゃねーよな、わかってるよ!
あ、目があった。
――……――……――……――
んなろっ!
ブンッ!
じゅ~
てぇい!
ブンッ!
じゅ~
さっきからマヌケな音を立ててますがこれでも俺は必死です。
鰐の怪物に対し距離を取りつつ、黄金の剣の熱線で攻撃してるんです。
効いてないはずはないと思うんだけど。
”効いてますよ。”
そう、よかった。
”対象のアドレナリンが増しているらしく攻撃が激しくなっています。”
それって効いてても、ピンチがマシマシって言いませんかねぇ!?
一人でボケとツッコミを繰り返しながら、延々ちまちまと熱線を撃ってます。
なんか目眩がしてきました。
ああ、これで死ぬのか、俺。
”まだMPが尽きそうになってるだけです。
HPは満タンですから頑張りましょう。”
ゲームと現実一緒にするな言うたんは、君じゃないのか。
”大丈夫。これまでの行動で対象の行動パターンは把握しました。”
おお流石だよ、副脳くん!
”大体7割で勝てます、突撃です。”
ちょっと待て、それは3割死ぬじゃないか!
――……――……――……――
ヒーヒーフー、ヒーヒーフー
”ラマーズ法とはリズムが違いますよ。”
誰が赤ちゃん教室の若いお父さんだ。
疲れきって息が切れとるんだ。
ふうしんどい。
”苦しいのは生きてる証拠です。よかったですね。”
せやね。
はぁ。
結論から言えば、俺はワニの怪物に勝った。
ワニの怪物は図体こそでかいものの、鈍重で、小回りがきかない。
そこで有効な戦法は、ヒットアンドアウェイの繰り返し。
単純明快なんだけど、失敗=即死というプレッシャーが半端ない。
副脳の分泌する化学物質の助けがなければパニック起こしておじゃんだったろう。
そういう意味では、副脳に感謝すべきなのだろうが。
ジー。
なんだかワニの怪物の死体から目が離せませんぞ。
待て、ちょっと待て。
カエルよりはたしかにマシだが、あれ怪物だぞ。
”死ねばタンパク質ですよ。
それにワニは白身魚に似てるとか鳥に似てるとか。”
ふむ……焼けば旨いかも。
ちょ、ちょっとだけ切り取って、剣の熱線で焼いてみようかな。
――……――……――……――
ゴチでした。
いや味付けは何もなかったけど、実に美味かった。
こう言うの野趣っていうのかね?
”空腹は最高の調味料といいますからね。”
何か人として大切なモノを落っことした気がしますが、とにかく歩く元気が出てきました。
良いことです。
”大丈夫、今更なくして困る人間性なんてそんなに残ってないです。”
そういうツッコミは傷つくからやめなさい。
しかしあれだね。
裸だね。
”慣れてきましたか?”
慣れません、慣れませんが、こうしてみるとコナンになった気分だね。
シュワちゃんの方。
半裸のマッチョが剣を片手に歩く感じ。
”パンイチの若い男が抜身をぶら下げて歩く……通報案件ですね。”
なんかしょぼくなるだろ、やめなさい。
妄想くらい好きにさせてくれよ。
”客観的な評価こそが生き抜く上で大切なのです。”
実際君には助けられてるからね、文句は言わんけれども。
もう少し手心を加えて欲しいな。
”痛くせねば覚えませぬ。”
だからそういう芸はいらんと言うに。
――……――……――……――
おや、扉だ。
上の方へ進む道をしばらく歩いていると、石扉が立ちふさがっていた。
何やら文字らしきものと剣士らしき姿が浮き彫りにされているけどよくわからん。
”サイコメトリーが使えたら良いんですが。”
使えないものは仕方ないね。
えっとMPはどの程度回復してる?
”80%程度でしょうか。”
それなら大丈夫か、さて入ってみましょ。
ずらりと並ぶ、人形、人形、人形。
目も口もないのに鼻だけあってなんだかユーモラスだ。
どうやら全部石で出来てるみたいだけど、ところどころ欠けてるな。
”首、鎖骨、心臓、喉、肝臓、両太ももの大動脈……人体の急所ばかりが欠けていますね。”
ガシャン。
あ。
扉が勝手にしまった。
”閉じ込められましたね。”
あ~分かっちゃった、このパターン!
俺が頭を抱えると同時に、ガチャガチャと音を立て動き始める人形たち。
案の定襲ってきますよねぇ!?
”大丈夫です。先程の大きな生物との戦いで、戦闘時の最適行動を学習しました。”
ほう、流石に頼りになるな!
”見れば急所に命中打を当てれば止まる様子。
大体66%程度の確率で無傷で勝てます。
突撃です。”
やっぱり1/3近く怪我するやないかい!?
――……――……――……――
ひぃ~ひぃ~ひぃ~
”日本語を話しませんとわかりませんよ。”
うるへぇ、今度ばっかはマジ死ぬかと思ったわい。
何ぞあの数!
前から後ろから右から左から、俺を殺す気か!
”だから入口近くで戦いましょうと、アドバイスしたでしょう。”
やろうとしてやれたら世話ないわい!
”できたじゃないですか。”
できてなきゃ死んでたからね!
しかし40体もの人形との死稽古なんて無茶苦茶だぞ!
ここから生きて出るなんて無理じゃないのか!?
”だからみなさん処刑と同じ反応を見せてたのでしょうね。”
くそう、なんか腹立ってきた!
何が何でも生きて帰ってやる!
”決意は結構ですが、パンツがぼろぼろでは様になりません。”
君は、本当に人の気分に水さすの得意ね。
”ありがとうございます。”
褒めてねぇよ!
――……――……――……――
人形の部屋は行き止まりだったけど、何やら黒い布の服の上下とブーツがおいてあったので、これ幸いと着替えさせてもらった。
ウム、サラサラとしてなかなか肌触りがよろしい。
おや、ベルトもあるな。
ベルトについてる、これなんだろ?
”剣帯ですね。長い剣を背負うためのものです。”
ちょうどいいや、これも使わせてもらおう。
うん、勇者っぽい格好になったなぁ。
”状況は背教者ですがね。”
仕方ないだろ、日本人は宗派聞かれても無宗派って答えるよ。
外国旅行するときは、無宗派はダメだな。
ちゃんとブッディズムって言わないと。
”この星には仏教って無さそうですが。”
多分人類に似てるんだったら、なんか多神教っぽいのがあるでしょ。
大抵の地域で生まれてくるんだしさ。
はぁ~そうだよなぁ、宗教はもうちっと気をつけて話すんだったわ。
”無事出られたら、高司祭と呼ばれていた人に相談してみましょう。”
そうね、無事出られたらね。
4話完結予定の第3話です。