第2章 無宗教だって言ったら、宗教裁判にかけられました。
やあ、どうも俺です。
佐藤慶太郎、30歳独身、恋人いない歴生まれてから。
この度山中で事故りまして、宇宙人と名乗るちっさいおじさんにモルモットにされました。
で、惑星エニウェアって星の山中に放り出されまして、トカゲの化け物を倒して旅人を救ったら、何故か白くて大きい立派な神殿の中庭に連れてこられてます。
めっちゃたくさん観覧者がいますよ。
どゆこと?
”どうやらこの星の文化圏では、聖職者でないものが超能力を使用するのは罪とされるようですね。”
さいですか。
つまりいわゆる魔女裁判?
”そのようです。困りましたね。”
何やら立派な白い服を着て、綺麗な首飾りをしたふくよかなおばさんがやってきた。
「ケイタロウ・サトウ。」
「は、はい!」
「貴方には傲慢の罪の嫌疑がかけられておりますが、これは間違いではありませんか。
あなたは、こちらのベッケラート審問官に対し、『無宗教だ』と答えたそうですが、古の神々の間違いではありませんか?」
「あ、えーと……」
おばさんに答えようとした俺を遮るのは、あの美形の兄ちゃん、ベッケラート。
「お待ち下さい高司祭様。かのものは間違いなく、『神に興味はない』と答えました。
そうですな、アンネマリー様。」
「そ、その……」
「ここは神聖なる神の館、虚偽は許されませんぞ!」
「は、ハイ……そうおっしゃったと思います。」
いらんこと言わせんな兄ちゃん!?
おばさんもなんか困っとるじゃないか!
”高司祭と呼ばれた女性は、助け舟を出そうとしていたようですが、ベッケラートに邪魔されましたね。”
言われんでもわかっとるわい。
おのれベッケラート、俺になんの恨みがあって……
”いわゆる狂信者のようですねぇ。”
「ベッケラート審問官、神を知らぬというのであれば、彼に洗礼を施し改宗させてはいかがでしょうか。」
「なりませぬ。かのものは神より奇跡を与えられながら、傲慢にも神を否定しました。ここは焚刑こそがふさわしいかと。」
おいぃぃ、これでも俺は君の命の恩人ですよ!?
ベッケラートの野郎、おばさん高司祭の再度の助け舟を否定し、火炙りにしろと言い出しやがった。
どよめく聴衆。
やめろよ、そんなキラキラした目で見んな!
こら、人の命がかかっとるんだぞ、ハロウィンパーティーとは違うんだぞ!!
「お待ち下さい!」
お嬢さんが必死の表情でおばさん高司祭にすがりつく。
「この方は私達を緑の悪魔から救ってくださいました。決して悪い方ではありません、なにとぞお慈悲を!」
お嬢さん良い人だなぁ!
「なりません。罪は罪です、ここは焚刑を。」
ベッケラートはお嬢さんの爪の垢でも煎じて飲めよぉ!
「なるほど、よくわかりました。確かに罪は罪、なれど善行はまた善行です。
彼には洗礼の洞窟へと赴いていただきましょう。」
苦渋の表情を浮かべるおばさん高司祭。
絶望を顔に浮かべるお嬢さん。
紅潮するベッケラート。
再びどよめく聴衆。
これ、どう考えても処刑の一種です。
”本当にありがとうございました。”
そんな芸はいらんのよ、副脳くん。
――……――……――……――
というわけで連れてこられましたのは、何やら古めかしい洞窟です。
入り口に狛犬みたいなもんが飾られてますね。
ハックション。
ああ失礼、何しろ下着一枚にされたもんで。
いい加減ゴムが緩み始めたトランクスの他には、黒光りするブレスレットだけってパンクな衣装です。
”おや、アンチサイの効果があるようですよ。”
つまり超能力は使えないってわけですか。
準備万端だなチクショウめ。
「ケイタロウ・サトウ。」
おばさん高司祭が済まなそうな顔で近寄ってくる。
「絶望してはなりません。
一度しかないとはいえチャンスは有るのです。
最後まで諦めず生きて帰ることを望んでいますよ。」
そのチャンスとやらについてもう少し詳しく!
「オホン!」
畜生、またベッケラートが邪魔しやがった。
ところでなんですかね、そのごつい弓は。
”毒矢を用意しています。どうやら処刑する気ですね。”
おいぃぃぃ!?
”ご心配なく。軌道なら計算できますから、回避は容易です。”
ホント頼りになるね、君!
――……――……――……――
ゼーハー、ゼーハー。
ああ、マジで死ぬかと思った。
本気すぎるだろベッケラート!
どんだけ連射してるねん!
”驚くべき弓の名手でしたね。”
副脳くんのサポートなきゃ死んでたわい。
サンクスな。
暗闇にピカピカ光る奇妙な苔でいっぱいの洞窟を歩いていると二股に分かれてますな。
どれ両方見てくるか。
”右は剣、左は泉ですか。”
あれだよね、アーサー王の聖剣みたいな感じ。
キンキラキンに輝く剣が突き刺さってたね。
ああいう黄金て、暗闇で見るとすごい神秘的だな。
”剣自体が発光していたようです。”
そうだねぇ。
やっぱ剣をもうちょっと見ておこうかな。
抜けるんなら武器になるしさ。
”剣術の心得はないようですが。”
ないねぇ。
まぁバットみたいなもんでしょ?
”そんな無茶苦茶な。
私がサポートしますから、もう少しマシな扱いをしましょうよ。”
そう?
ま、期待しているよ。
――……――……――……――
綺麗だねぇ。
”綺麗ですね。”
それは精緻な彫刻の施された美しい大剣だった。
長さは俺の身長ほどもあろうか、剣自身が光を放っている。
そして剣から伸びる黒い影。
影すらもなお美しいから恐れ入る。
ん?
変じゃないか?
なんで発光物の影が映るのさ?
ゴソゴソと探ってみると、影は実体を持っていた。
そう、ここには二振りの剣が納められていたのだ。
チャンスは有る、って言ってたよね、おばさん。
じゃ、いっちょ抜いてみようか!
まず手に掛けるのは、見た目の美しい金の大剣。
だがこれを手にした瞬間、落雷でも浴びたかのように痛みが全身を走る!
腕がしびれる、足がしびれる、体中が熱く、腸が焼けただれる。
ズルリズルリと引き抜く度にその痛みは激しくなり、あと数センチというところでついに俺の根は尽きた。
『絶望するにはまだ早かろう』
どこからともなくそんな声が響く。
さよか、こっちは絶望ってわけね。
絶望するな、最後まで諦めんな、そうだったよね、おばさん。
続いて手にするのは、本命の黒い剣!
スラリと滑るかのように引き抜かれる美しい剣。
それは長さ1.5m程度、仮初に纏っていた黒い装束を脱ぎ捨て、本来の美しい金の輝きを放ち始めた。
それはあくまでも柔らかく、暖かく、俺に力を与えるかのようだった。
『自らの罪を雪ぎし汝に、真なる栄光を捧げよう!』
どこからともなくそんな声が響く。
ありがとさん。
でも正直言えば、服がほしい。
――……――……――……――
ふんふんふん~♪
”ごきげんですね。”
やっぱ剣て言うのは男の子の根源的欲求を満たしてくれるのよ。
こんな綺麗でかっこいい剣が手に入ったら気分も良くなろうってものさ。
”少し落ち着きましょうか。事情はあまり改善されてませんよ。”
そうだけどねぇ。
もう少しこの達成感に浸っていたいっていうかぁ。
”ホルモン調整を。”
やめい。
え~と、ここはこのまま行き止まりで、もう一方は先の見えないくらいでかい泉だったね。
”あそこまで大きいと地底湖と言っても良いかもしれませんね。”
流石にパン一で泳ぐのはやだなぁ。
かと言ってここは行き止まりか。
開けゴマ~なんて言ったら秘密の出口とか開きませんかね?
”おや動体反応が。”
マジすか?
”でも元に戻りました。キーが違ったようですね。”
ん~隠し扉があるっぽいのは間違いないのか。
開けゴマじゃないとなんだろうな。
そもそもここってどうやったら出られるんだ?
”高司祭と呼ばれた女性は、洗礼の洞窟と言っていましたね。”
じゃ洗礼を受ければ、か。
やっぱり水かぶんのかなぁ。
でも洗礼って確か、原罪を雪ぐためにあるんだろ?
俺この剣抜いた時、俺って罪を雪いだって言われなかったっけ?
罪のない俺に扉を開け。
”あ、また動体反応が……戻りました。”
おお路線としてはこれでいいっぽい?
それじゃさぁ……
――……――……――……――
連想ゲームを繰り広げること数時間。
”1時間28分43秒でしたよ、早かったですね。”
あ、そ。
ようやく隠し扉が開きました。
ちなみにキーワードは「原罪なき我に道を示せ」でした。
大体合ってたじゃんねぇ。
それにしてもよくここまで、ヒントのない連想ゲームに付き合ったもんです。
エライぞ俺。
”それは私のホルモン調整による化学反応です。”
さいですか。
君たまに人の気持ちに水さすね。
”注入してるのは化学物質ですよ。”
上手いこと言ったつもりか!?
などと言いつつしばらく歩いてると、出くわしました。
”第一村人発見。”
ボケようったってそうは行かないぞ。
ていうかなんですかね、あの黒光りするテカテカした姿。
長い触覚。
いかにも追い詰めたら飛んできそうで。
”まさにゴキブ……”
言うなよ。
気づきたくないんだから。
てか体長2mのゴキって何さ?
ここまで気色悪いとは思わんかったぞ!?
”落ち着きましょう。カサカサ動いてこっちにきますよ。”
ウワァ来るなぁっ!?
ブンッ
じゅわ~
はい?
何が起きました?
まだ接触してなかったよね?
”どうやら脅威を感じて振り回した剣から、熱線が照射されたようですね。”
ビーム砲かよ!
かっけぇな、おい!
”数値にして5%程度ですが、精神的疲労を感じます。”
数値化することでわかりやすくしようと言う努力は認めるけど、却ってよくわからん。
要は魔法使ったら、MPが5%減少したということね。
”まるでRPGですね。現実とゲームの混同は良くありませんよ。”
宇宙人のモルモットにされた現実より、ゲームの中のほうがまだましだわい。
4話完結予定の第2話です