第1章 山の中で事故ったら、宇宙人に助けられました。
死にかけていた。
誰が?
俺が。
ようやく取れた一月ぶりの休日を利用して、山中の秘湯にツーリングに出かけ、見事に転んで首を折ったらしい。
らしい、というのも体が全く動かないからだ。
なんかベタベタする。
何だ、俺の血か。
思えばつまらない人生だった。
平凡なサラリーマンのうちに生まれ、普通の高校を出て普通の大学に入り、普通にブラック企業に就職し、気づけば30。
恋人はおらず、いた事もなく、温泉巡りとツーリングだけが趣味の平凡な男の終わりとしては、実に見事な地味っぷりだ。
あ、夜なのになんか眩しい。
何だあれ、あんな緑の光見たことねぇぞ。
と思ったあたりで俺の意識は途切れた。
――……――……――……――
どうも皆さん、俺です。
なんかよくわからないんですけど、生きてるみたいです。
首から下はないけど。
っていうか。
ぶっちゃけ脳みそだけなんですけど。
へぇ俺の脳みそ意外に白いなって、なんで目玉ないのに見えてるんすかねぇ?!
いやおかしいでしょいろいろと!
感覚器がなかったら感じることなんてできなくて考えるだけでしょ?!
”ソレハオマエニ副脳ヲ与エタカラダ。”
どこからともなく……いや、ガラスらしきものの向こうからちっちゃいオジサンがこちらに話しかけてきた。
ていうか、副脳?
”ソウESP能力ヲ与エル機関ダ。”
へぇ、なんでまた……って、あなた誰?
”:@+*@%&@><;ダ。君達ノ言葉デハ宇宙人トイウコトニナロウ。”
すいません、なんかイメージだけは伝わるんですけどわかりにくいっすね。
もうちとわかりやすく話せません?
”調律終了。これでどうだ。”
おっけーおっけー!
”よし、なかなか君はサンプルとして優秀なようだ。じゃ、実験を続けることにするよ。”
へ?
”君は死にかけていた。むしろ脳の一部以外は死んだ。だから我々が回収し、こうして治療を行っている。”
それはありがたいですけど、実験て?
”人体強化実験だよ。この星の住人は我々とDNAがよく似ており、生体実験には持って来いだからね。
外宇宙に植民する際に施す、人体強化手術が有効かどうか、調べるために君を使わせてもらおう。”
いや、ちょっと待とうか!?
”大丈夫、安全性は確認している。後は有効性を調べるだけだよ。”
ああそれは一安心……じゃなくてぇ!
”じゃ、元の場所に元の通り戻そうか?死ぬよ、君”
それは、その……
”そう難しいことはない、君は治療が済んだら実験場で好きな様に生きればいい。私たちは観察するだけだ。”
いや、家に帰りたいんだけど……
”それはできないね。諦めなさい。”
じゃあねぇと手をひらひらさせながら、その小さいおじさんは姿を消した。
――……――……――……――
それから何日かたちました。
”71時間43分25秒です。”
あ、そう、ありがとう。
今のは誰だって?
俺の副脳です。
ちょっとした疑問とかはこいつが教えてくれます。
まるで小さな秘書ですね。
大体3日ってとこですか。
俺の回収された体は修復され、隣のガラスポッドの中でプカプカ浮いてます。
なんか前よりガタイが良くなって、細マッチョって感じになってますね。
おや顔もなかなか整ってる。面影は残ってるけど。
小さいおじさんの説明によれば、ナノマシンってブツを俺の体にぶち込んで修復すると同時に強化したんだそうです。
後はもう一度俺を俺の体の中に移植するんだそうな。
それにしても人間てすごいですね。
こんな異常事態にも慣れてきました。
”それは私のホルモン調整による化学反応です。”
さいですか。
ま、ともかく体に入るのを待ってましょう、暇だし。
”地上の電波を拾って映像でも写しましょうか?”
もう飽きたから良いや。
それじゃおやすみなさい。
――……――……――……――
どうも俺です。
いやぁいいですね動く腕、動く足、冷たい空気。
ペタペタ自分の顔を撫で回したりしてみます。
96時間って言うから4日後ですか、すっかり元通りになりました。
むしろ前より良い男になってますね。
「そうかそうか、もっと感心してくれて良いんだぞ。」
出たな諸悪の根源。
「君達の言葉で言うところの命の恩人だぞ、私は。
まぁそれはさておき、君の筋力、知力、器用度、生命力に精神力は全て君達この星の住人の平均値の2倍程度になっているはずだ。
それはこれからも成長していくし、副脳によるESPやPKも成長に応じて強力になっていく。
ありがとうと言ってくれて良いんだぞ。」
いやそんなことよりおうちに返してよ。
首になったらどうするんだ。
「何を言うんだ、実験はこれからが本番じゃないか。
じゃ、実験場へ行くからご飯を食べて休みなさいね。」
物腰柔らかいくせにこっちのことは聞く気ねぇな。
”実験動物の扱いというのはそういうものです。”
補足説明をありがとうよ、クソ。
――……――……――……――
飯食って寝て飯食ってを繰り返すこと7日間。
俺は新天地に送り出された。
なおこれまで数限りなく脱出を試みたが、小さいおじさんにはまったくもってかなわず、無力化されて寝かされて終わり。
最もその過程でESPやPKの使い方を少しづつつ覚えていったから良しとしよう。
”それが目的の訓練だったと思いますよ。”
あーうん、そうね。
気づきたくない現実に気づかせてくれてありがとう。
で、いつもの様に無理やり寝かされて、気づけばどこかの森のなかのようだけど、どこよここ?
”実験場とされた惑星エニウェア、その北半球の大陸の中ほどです。主街道のそばですね。”
ホント便利ね、お前さん。
しかしまぁ、どうしたもんかねぇ……?
その時だった、俺の耳がかすかに響く悲鳴を聞きつけたのは。
――……――……――……――
はい、善良なる小市民であるところの俺。
見捨てるのもなんか気まずいというわけで、やって来ました森の中。
見てみると、何やら黄緑色の苔みたいな肌のでかいトカゲが4匹馬車を襲って、馬喰ってます。
うへぇグロい。
なんかおっさんだったであろう物体も喰われてます、グロすぎです。
その割には、恐慌状態とかならないよね、不思議。
”それは私のホルモン調整による化学反応です。”
そっか、本当に便利ねあんた。
なんか脳みそイジられてて不気味な感じがするけど。
”実際イジってるといえますよ。解説しましょうか。”
いらんいらん。
で、副脳くん、あれは何かね。
”緑の肌のヒューマノイドは現住生物ですね。爬虫類から進化した生物でしょう。
ちなみに捕食されているのはどちらも哺乳類から進化した生物で、ウマとヒトに近い生物だと思われます。”
あれ、こっちに気づいたら襲ってくるよねぇ。
”空腹は十分に満たされていないかと思われますので、83%程度の確率で攻撃されるでしょう。”
あ、動き止めた。
なんか鼻先動かしてる……
”どうやら臭いで気づかれたようです。先制攻撃をお勧めします。”
言われんでも!
「バイロキネシス!」
あれ、パイロだったっけ?もうなんでも良いや。
とにかく火をおこす能力だよ、発火能力ってやつ。
そのまんまだよね。
ともあれ、俺が起こした局地的な大火災で、4匹の化物とついでにおっさんと馬の死体は黒焦げだ。
せめて成仏しておくれよ。
「もしもーし、だれかいますか-?」
おっかなびっくりで声をかけて見る俺。
あれ、そもそも日本語通じるのか?
”適当にテレパスで翻訳してますよ。大丈夫。”
至れり尽くせりだね、君。
ん、ちょっと待て。
テレパス使えんなら、誰か居るかどうか分かるんじゃね?
”わかりますね。現地人が二人ほど虫の息です。”
それを先に言いなさいよ――!?
慌てて馬車の残骸に近寄って覗き込むと、なんだかやたら豪華な絹の衣装着た男女が、腹から血を流して倒れてました。
どう考えてもやばいです。
救急車、救急車!
”この星の文明レベルでは救急制度はまだ発達してないようです。”
じゃ、どうすんの!
流石に人間(に見える)者ほっといて死なせるのは気分悪いってレベルじゃねーぞ!
”まず透視で内臓の破損状況を調べ、ヒーリングで傷を塞ぎましょう。
感染症とか、出血量などの問題はありますが、それくらいしかできることはないです。”
あいよ、分かった!
うわぁ、美形の兄ちゃんだけど透視したらグロいな?
内臓だらけじゃねぇか。
えと、おお、この血管が破けてるな。
ヒーリング、と。よしよし。
で、こっちのお嬢さんはと……あれ腹じゃないな、出血してんの。
太ももの大動脈か。
こっちも、ヒーリング、と。
オッケーオッケー。
……綺麗な人だなぁ。
”治療が終わったら透視を切りましょう。紳士的じゃないですよ。”
す、すまん!
――……――……――……――
「この度は窮地をお救い下さりまして、誠にありがとうございます。
私はクロイツゲーティン伯アダルベルトの娘、アンネマリーと申します。」
「ベッケラートだ。褒めてとらせる。」
「どもども、ケイタロウ・サトウです。」
どっちも美形だけど態度には雲泥の差があるなぁ……
”女性の方は感謝を、男性の方は苛立ちを感じているようですね。”
感情までしかわからないのって不便じゃね?
”思考まで全部読んじゃうと、人間不信になりますよ。”
「それにしても見事な奇跡の技ですこと。サトウ様は何処の宗派でいらっしゃるの?」
「あ、宗教は興味ないんで。無宗派です。」
「え!?」
「なんだと!?」
あれ……
なんか空気が一変しましたよ?
これってあれですかね、外国人に宗教聞かれたらブッディズムとか答えとけというお約束?
”非常に危険視されたようですね。”
……おう。
4話完結予定の第1話です。