愛の導師アクアリウス!!
「ごめんな。ちょっと忙しくて相手してられないんだわ」
「どっかのお稚児さんなんだろ?面倒事になるから黙っておくよ」
「寄り道せずにかえれよー」
「にゃーい・・・」
ま、あれだ。小さいとはいえ領主の館。正門を堂々とくぐったらそりゃ摘まみ出されるわな。ゲームじゃないんだから。
エミリオきゅんのスキル、特殊魅了で番兵どもが息子か孫でも見るような目付きをしていなければ即お縄。背徳美少年の出来上がりであった。
オレの普段着には特殊なスキルが付いてないからな。捕まったらなにもできん。
ゲームじゃあ気にしなかったが、このクサビ形文字の集合体のようなワンピース水着的普段着は防犯どころか犯罪を助長しそうですらある。しばらくは封印かな。
「さてエミリオきゅんの本領発揮にゃ」
お決まりの決めポーズ。オレの脳内設定が活きるなら、特に急いでない時はポーズと掛け声が超重要。
声かけとポーズが大事。実に政治的な・・・あ、まあいいや脱線するのも面倒くさい。
「フィジカルちぇーんじ!!」
烈迫の気合いとともに全身が光に包まれる。目の前には半透明で浮かぶ衣装たち。その中から真っ黒 な一式 を選択する。
「暗纏」
今度は衣装個別のポーズと掛け声によってエミリオきゅんのまわりに闇が染み出してくる。
黒ずくめの中で唯一鈍色に光るナイフに自身を映すと、そこには毛並みまで黒く変貌したエミリオきゅんが冷徹な眼差しでこちらを見返していた。げへっかっこかわいい。
「主君がための唯一振り。エマリウス・ナイブズ。御前にて」
最後に決めポーズと口上を述べて変身完了だ。そのままナイフを鏡がわりにスキルを見る。
《鑑定》
エマリウス・ナイブズ ♂ Age:14
スキル
特殊魅了
イベント外状態異常無効
にゃんでも鑑定眼
天下猫吉
天使
寝子悪魔
俺嫁補正
装備スキル
一振り
影遁術
猫足
銀猫
装備
あさしゃんナイフ
闇の護紋
遮光カーテン(改)
殉嬢・前掛け(改)
陰魔の熱下履き
陰魔の長地下足袋
防音のネックレス(黒)
そよ風の指輪(黒)
ジェルリング(黒)
技巧のしっぽ
体力のしっぽ(黒)
装備スキル《猫足》は効果を見る限り、本来この装備の組み合わせで発動するスキル《忍び足》と、オレの脳内設定スキル《キャットウォーク》が統一されたものだろう。
うん。公式通りが2つ、公式と脳内の設定が混ざったのが1つ、完全脳内設定が1つか。
スキルが4つ、本来なら3つだけ、というのは物理近接型としてはやっぱり尖ってるよな。
まあ、そういうテーマで組んだ装備だし、今回は館の侵入にしか使わないけどさ。
「はっ」
猫足でトゲトゲの鉄柵を歩き、本館の屋根を斜めに駆け抜け、人目が避けられない場所は影遁術で木陰に紛れ目的のダンジョンへ無事潜入した。ふっ。《銀猫》を使うまでもなかったな。
さて、ダンジョンに入ったからにはこの装備に用はない。暗殺特化のナイブスだと炎属性で物理防御の高いモブだらけの「エーデルヴォルフさん家の地下迷宮」でまともに戦えない。水魔法特化で攻めよう。
「フィジカルちぇーんじ!!」
烈迫の気合いと共に以下略。
「LaーLaーLaー」
手を組み合わせ祈る。空から光が降り注ぎ、服装と体毛が変わる。
今度は修道服に白無垢とウェディングドレスを混ぜたような真っ白な装備だ。外見も、白く長くなった髪を編み込んで纏め、うなじがせくすぃーなはず。やべぇ、早く見たい。
「水の母君の御心のままに。エマリウス・アクアリウス。まいります」
水魔法で即席の鏡を作り出す。穏やかな眼差しの美少女シスターが映っていた。凝視!!
《鑑定》
エマリウス・アクアリウス ♂ Age:14
装備スキル
水魔法使用可
水魔法強化・極
詠唱短縮・極
消費魔力減少
魔力回復速度上昇
猫除け
がりがりは御免被るよ
装備
水の魔印+9
水精の角隠し(改)
女神の温寵
手折ル稚児百合之依巫(改)
礼装レース編みグローブ(水仙)
ハイソサエティ・サイハイ
短詠譚
マナフィルター
マジックポンプ
オーラヒーター
魔アクアリウム(白)
鑑定表示邪魔!エミリオきゅんが見辛いだろうが。
改めて表示を消して鑑賞する。素晴らしい。ロマーン教会領の女教皇のむっちり修道服を真似て改造した自信作を、こうしてリアルで拝める日が来るとは。
全身白一色。タオル地の胴装備のせいで褐色のお尻がもう透けそうな勢いだ。罰当たりな!
ちなみに尻をメインに置くためにチャームポイントだった2つのしっぽは外してある。
装備枠2つをしっぽで潰す縛りを無くしたおかげで属性特化型の中でこの装備だけ頭一つ抜けて強力である。
何とでも言うが良い。ポリシーを棄てオシリを取ったのだ。いや寧ろ褒め称えてくれよ。絶景だぜ?
手足のように使っていたしっぽが無くなって心許ないのが唯一の欠点か。違和感に何となく服を捲ると、ぐはっ、生尻が。罰当たりな!
「でも、これからもっと罪深いことをするのです。これくらいは、我らが母君も赦してくださるでしょう」
ぬふふ。お楽しみのダンジョン攻略である。
まあ、怖くないと言えば嘘になる。紛れもない現実に、オレは血を見るかもしれない。それでも、決めたんだ。絶対ハーレムつくってやるって。だからこんな所で躊躇なんてしない。
「水魔法の深淵を、魔物たちに覗かせてあげましょう」
(〃ω〃)(〃ω〃)(〃ω〃)(〃ω〃)(〃ω〃)
熱の篭ったダンジョンの中を照らしながら、煌蝙蝠の群れがこちらに襲いかかってくる。第一階層は洞窟状の構造なので、雰囲気が超出てる。
「大丈夫ですよ。怖がらないで。見るのは一瞬。その後は直ぐに楽になれますから」
【槍水葬・玖】九条
蝙蝠達に囁きながら、魔法を発動していく。水で造られた槍の一本一本が、複数の蝙蝠達を貫いていく。
ヤバい。何がヤバいって脳内設定由来のスキル《天下猫吉》がヤバい。
本来ならモンスター2000匹に1枚の割合でドロップするレアアイテム「モンスターカード」が、10匹に1枚の割合で出る。
他の通常ドロップアイテムも1匹が10個20個とゲーム時代には有り得ない量を落とす。
これは思ったより計画がスムーズに行くかもしれん。
「ちゅちゅ~」
内心で黒笑いを浮かべつつ、アクアリウスのキャラクターなので楚々としたお上品な微笑みを崩さずに二階層への階段前まで来た。
そこでは見たことのない敵モブと、見知ったNPCが鎬を削っていた。
敵モブは真っ黒な巨大ネズミ。カピバラみたいで可愛い。やっぱモンスターのデザインが秀逸だわ。
【鑑定】
涅炭鼠
スキル
火耐性+
物理耐性
敏捷上昇
治癒血輸ドレイン
スキル数が多い。フロアボスか?
「お下がりください」
オレは情報確認後、即座にNPCに声をかける。NPCと合図を送り合い下がった所に、水魔法を叩き込んでさっさと蹴散らした。隠しダンジョンとは言えしょせん最初の街。魔法を使えばこんなものだ。
「ちゅちゅちゅちゅら~」
アクアリウス用にリデザインされたポーチ内を確認すると、石炭などのお馴染みの物とともに、やはり見たことない素材がドロップされていた。特に1つ、武器が手に入ったので名前を確認する。
『地剣・鼠々として化錬』
うむ。知らない。スキルを見るとどうも錬金術師向けの装備のようだ。
エミリオきゅんの錬金術師verにはちょっと(見た目が)合わないので少し弄る必要がある。あるが、こっちの世界でデザイン変更ってどうやるんだ?手作業だったら困るな。上手く出来るか心配だ。金多めに払って職人を扱き使うか。
「ご無事でしたか。今治療いたしますね」
もちろん内面を見せずに天使の微笑みでNPCに対応する。ていうかアクアリウスだとどう頑張ってもこういう言動になってしまう。オレの脳内設定は強力だな。
「ありがとう。その意匠、教会の、それも高位の・・・いや、しかし何故この場所に」
「我らは一心に、女神の御心のままに」
「なるほど。全てお見通しという訳ですね。いや、お恥ずかしい」
何か笑顔で誤魔化したらあっちも何か笑顔で誤解しだした。すげえぜアクアリウス。タオル生地で水魔法なんか使うから透け透けのくせして、有無を言わさぬ説得力。
なるほど。水の魔印+9が褐色の肌に絡み付く様に浮かび、全身が淡く発光する姿は、確かに侵しがたい雰囲気がでている。パンツ履いてないくせに。オレなら間違いなく侵犯しちゃうね。
「厚かましくもお願いします。シスター。最奥のボスが復活したのです。どうか 私と、ともにダンジョン攻略をしてくれないだろうか。このエーデルハイト・エーデルヴォルフ、全身全霊でもってその対価とさせて頂こう」
「わかりました。頂いちゃいます」
元からそのつもりだ。ボスも彼女もいただいちゃう予定だったのだ。
「あなたに、水の母君の祝福を、お授けいたします」
ぐぇっへっへっへ。ダンジョン攻略が楽しさ2倍だぜ!ぐぇーっへっへっへっへっへっへっ。