メイク
昼休みになり、百合子が化粧をしてくれることに。
って言うか、そんな大きなポーチいつも持ち歩いてるんだ?!
ポーチを開けると様々な化粧品が溢れ出してくる。
「化粧水とかはしてきてるんでしょ?」
百合子が聞く。
「いや、してない……」
「マジで?! じゃあトラベル用のこれを使おうかぁ」
小さくて薄いパッケージを取り出す。
「ユウ、どのくらいメイク覚えてないのぉ?」
「いや、全く……」
百合子はえぇっ! とのけぞると、じゃあ、といいながらメイクを始めた。
「まずは化粧水、たっぷりつけてあげてね。次に乳液……これは薄く伸ばすような感じで」
手際よくこなしていく。
下地を塗って、ファンデーションを乗せる。
それからアイライン。
「つけまどっちつける?」
ポーチから出して百合子が聞く。
比較的大人し目の方を選ぶ。百合子は鼻歌まじりに、説明をしてくれる。
「こーやってー、ノリを伸ばしてから、こう、つける」
なんだかわからないがわかった気分になる。
「はい、チークは可愛くねー」
そして完成した俺の顔。先程までとは天と地の差だ。
つけまなるものの影響が大きい。
っていうか、毎朝これしなきゃだめなの?
俺の素朴な疑問はそのまま解決されることもなく、その場は過ぎた。
帰り道、ミキちゃんがなにか言いたげにしているので聞いてみる。すると話をはぐらかすように、クレープ屋に寄ろうと言ってきた。
俺はクレープという未知の存在を味わってみたいと思っていたので、2つ返事で応じる。
クレープを頼んで、しばらくしてミキちゃんは話始めた。
「ユウ、百合子のことだけど……」
ん?と俺が目で聞く。
「ユウと百合子って、そんなに仲良くなかったんだよ……今日みたいにメイクしたりとか、あり得ないくらいの付き合いしかなかったんだよ」
クレープを受け取りながら俺は聞く。
「じゃあなんで、私に近づこうとしてるの?」
「そ、それはわからないよ。けど、元々仲良くなかったんだよって教えたかったから……」
「――わかったよ。ミキちゃんには心配かけてばっかりだね」
「それに、メイクだって、今まで一度もしたことなかったんだよ。リップグロスくらいはしても」
ありがとうと言いながら俺はクレープをほおばった。
百合子の狙いはなんなのか、それはわからなかったけど、とりあえず今は百合子とは距離を保とうと思った。
夕方、家に戻ってから化粧品を探したが、化粧水と乳液、それにリップグロス以外の化粧品は持っていないようだ。やはりミキちゃんのいう通りだ。
でも、毎晩毎朝、化粧水と乳液はしないといけないんだよね……女子は大変だ。そりゃ、おれだって髭そりをしないといけなかったし、でもそれは朝一回だけの話だ。
化粧水は毎晩毎朝しないといけない。わずらわしい。
髭そりで思い出したけど、女子はワキ毛とかも剃るんだよな。どのくらいのタイミングですればいいんだろう。そういや、足も毛がそってあった。これもどのくらいのタイミングですればいいんだろう?
とりあえず母に相談することにする。
母は微妙な顔をしながら、
「チクチクしだしたら、でいいんじゃない?」
と言ってきた。
「カミソリはどれを使うの?」
「これがユウのカミソリ、こっちはユキノのね」
と、洗面所で説明をしてもらった。
チクチクしだしたら……か……もうチクチクしてるから剃らなきゃだな。
シェービングクリームはどこだろう?と思い母に尋ねたが、いつもは石鹸を使っていたよ、と言われた。
夜になってお風呂の時間。
俺はシェービングクリーム並みに泡立てた石鹸を足と脇に塗りたくり、カミソリをあてた。
なんか気持ちよかった。