学食
百合子はつけまをした目をしばたかせてこちらを見てくる。
「ユウ、どのくらい記憶ないの?」
「あー……それが全く……」
「えぇー!? マジぃ、それぇ」
前世で俺と接触したやつに、こんなしゃべり方をするやつはいなかった。あ、バスの中ではそういう子もいたかな。
とにかく苦手分野だ。
「ユリのことも全然覚えてないのぉ?」
「ごめんなさい、思い出せなくて……」
「それ病院いったのぉ?」
「行ったけど異常なしで……」
「まぁいいやぁ。ユリとも絡んでよねっ! ミキばっかりじゃなくてねっ!」
結局構われたいだけなのか。
苦手分野ながら、顔くらい覚えておかないと、と思い、顔を見る。なかなかどうして、可愛い顔をしている。ちょっと化粧が濃いけど、さいきんの女子高生はこんなもんだろう。ミキちゃんがおとなしすぎるのだ。
それに、胸!ミキちゃんに負けず劣らずでかい。
声にするとバィーンって感じ。今の女子高生は発達してるのね……
百合子が言う。
「ユウ、今日はノーメイクなんだね?」
「メイク……化粧のこと?」
「やっだぁ〜、そんなことも忘れちゃったのぉ?」
「うん、実に全部、全くもってわからないんだ」
「じゃぁ、ユリが今からメイクしたげようかぁ」
「今からは授業があるから……」
「じゃぁ、昼休みにでもしたげるねぇ。今日はつけま二種類持ってきてるから、ラッキーだよん」
そんな話をしているうちに、先生が教室に入ってきて、授業が開始される。
数学だったので必死でノートをとる。意味もわからないまま、必死でノートをとる。
ホントは意味もわかっていないといけないのだが、解ける脳ミソが今の俺にはない。これはまじめに勉強ぼっち確定だ……
休み時間になり、ノートを持ってミキちゃんの席へ行く。
さっきの数式、最低でももう一度聞かないと意味がわからないからだ。
ミキちゃんは丁寧に教えてくれる。
弁天様ここにあり!と俺は思う。
「n+1が、こうなって、これで数式になる。わかった?」
「んー、わかったような、わからないような……」
ひとまず参考書でも見て自分で考えることにした。
百合子がやってきた。
「ユウ、勉強してるのぉ? 珍しいね!」
「今までの記憶がないから、一からやらないとわかんなくて……」
「そりゃ大変だ! ユリ、英語は得意だから、」
じゃあ、英語は百合子に頼もう……
そんな感じで過ごして、昼御飯。うちは母が仕事をしていていつも学食なのだと母が言っていた。
そういや、一昨日はご飯を食べることなく1日を過ごしてしまったな、と思い出す。
学食の場所をミキちゃんに聞くと、お弁当を持って一緒に来てくれた。
すると百合子も学食に入ってきた。
「ユウは今日はなにを食べるのぉ?」
「カツ丼とうどん」
「ちょっと!それ超多いよ? あとでまじつらたんになるよ?」
「そうかな……?」
前世の俺はカツ丼を飯にして、うどんは汁物として、あとは焼き魚がついてると嬉しいかな、という感じだったから、当然だと思ってた。
だが、今は女子高生の胃袋。確かにどちらかにしたほうが賢明だろう。
俺は悩みつつ、カツ丼の食券を買う。
席につくと、横に百合子がやってきた。友達二人も!連れて。
俺はめんどくさいのが大の苦手だ。百合子だけでも辟易してるのに、なぜ友達二人も……
ミキちゃんに目をやると、ちょっとひきつり笑いになっていた。いつもは一緒にいないメンバーなのだろう。
確かにミキちゃんは化粧もしていないし、彼女たちに比べれば圧倒的におとなしい。眼鏡だし、文学少女って感じだ。
俺はしかたないので一緒に飯を食った。
やれ芸能人のだれがどーした、化粧品はなにがどーだ、俺には無縁だった話である。
しかし、今は女子高生として生きるため、勉強だと自分に言い聞かせ、話題についていくしかなかった。




