ホモ……?
起き上がれるようになると、車イスでリハビリ棟まで行くようになった。歩行訓練だ。
運がいいことに、俺はほんの少し骨折をしていただけでほとんど無傷だったそうだ。おかげで今こうして歩行訓練を行っている。よろよろと立ち上がるだけだが、それにすら時間を取った。
時間はたっぷりあった。でも俺は何故か焦った。
焦ってステップを飛ばそうとして、何度も療法師さんに怒られた。
俺はいつも寝る前に祈った。
「どうか無事に坂井の元へ行けますように」
ところが、全くと言っていいほど熟睡してしまい、願いは叶わなかった。
俺は女の子だったときの記憶があるせいで、少し腰痛がすると思うと、生理きちゃったかな?とパンツの中を覗いたりしてしまった。
話す言葉も、「私」「〜なのよ」と、まるでおネエにでもなったかのような状態だった。医者はそれを記憶の混同だと言っていたが、もしかして記憶の混同であんな夢を見ていたのかな?とも思ったりする。
それにしてはリアルな夢過ぎた。痛みも匂いもあったし、なんといっても、女子の秘密を覗いてしまったような状況を、今世の俺が知るわけがないのだ。
ということは、と俺は考える。
意識を失ってしまえばあの世に戻れるかもしれない。そう思って何度も頭を壁にぶつけてみたりしたが、意識は失われることがなかった。逆に痛みではっきり今の世界だと思い知らされた。
病院食は旨かった。それまでがジャンクフードばかりだったせいか、どれも、どの味付けもいけた。ただ一ついうなら、量が足りなかった。ユウのときなら充分、いや、多いくらいの量でも俺の胃袋は満足できなかった。
体重はかつての半分以下に落ちているのに、この食欲はなんなんだ。かつての体重を取り戻そうとでもいうのだろうか。
それから面倒なことに、すぐヒゲがはえてきた。毎日毎日剃っても剃ってもはえてくる。げんなりした。
女子のときも確かに無駄毛処理をしていたが、そう苦痛に感じることはなかった。だが、ヒゲ剃りは毎日毎日面倒だ。いっそはやしてしまおうかとも思ったが、はやしてしまうとこまめに手入れが必要だとわかり、諦めた。
癖になっていることがわかったのは、無駄毛処理。母親に毛抜きを買ってきてもらい、ここぞとばかりに毛を抜いていった。足はずいぶんツルツルになっていった。その行動も、医者からは記憶の混同だと言われた。
何でも記憶の混同って言えば気が済むと思うなよ。
問題だったのは、性欲処理である。
個室だったので何をしても許されはするのだが、さすがに母親にエロ雑誌買ってきてとは言えず、持ち前の妄想力でおかずを作るしかなかったのだ。
問題だったのは更に先。
ネタに困った俺はとうとう坂井とのエッチを妄想して抜くようになった。
それが、だ。
いつの間にか坂井にサレている自分を想像してスルようになってしまった。
これは問題行動である。俺は今男だ。しかし、男に欲情している。
ホモなのか……?これはホモというのか……?
ちなみに別の男で妄想しても勃ちもしなかった。
たとえば松永がミキちゃんと……というシチュエーション。昔だったらミキちゃんに襲いかかる自分を想像してバッチリ抜けたのに、今は勃ちもしない。
自分が坂井だったら、と想像しても勃たない。
これが、俺がユウだったら、というセッティングになるとやたらハイになった。
これはホモというのか……?
そのことは毎晩俺を唸らせた。
ティッシュの数は日に日に増えていった。




