ぱふぱふ
パエリアは旨かった!俺の人生のうち、何番目かに入るほど旨かった。一番旨かったのは浜勝っちゃんのとんかつと銀しゃり処の焼き魚定食かなと思うけど、それと張り合うくらい旨かった。
『俺』は『俺』でいていいという安心感もあった。
明日からは『私』って言うけど、ゆっくり一歩ずつでいい、という母の言葉がずっしり重みをせおって、俺の心に響いた。
そう、ゆっくりやっていけばいいんだ。例え元の身体に戻れなくとも、ここでやっていけばいい。そう、自信が少しついた。
翌朝もミキちゃんが迎えに来てくれた。
「毎日一緒に通ってたんだよ」
とミキちゃんが説明してくれる。
駅ごとに「ここの駅前のクレープが美味しい」だの、「ここの駅近くの甘味処が甘くていい」だの教えてくれた。
いっぺんには覚えきれないよ……と思いつつ相づちをうった。
実は前世では、俺は全くと言っていい程甘いものには縁がなかった。
パチンコ屋で勝ったときにもらう飴か、チョコレートくらいなものだった。なんと言っても俺の人生=彼女がいない歴だったから、縁がないのは当然の話である。
たまにコンビニで買って帰ったガリガリ君というアイスはとてもお気に入りだったが、あとはそれとブラックモンブランと袋入りかき氷が旨かったかなぁ……
少し懐かしくなった。
泣けてきた。
そんな俺の様子を見て、ミキちゃんが心配する。「大丈夫だ」と言うけど、泣き顔は戻りそうもなかった。ハンカチで涙を拭く。
そういえばハンカチなんて持って歩いたのって小学校一年生のとき以来じゃなかったっけ。
俺は小銭からなにからポケットに入れて歩いていたが、ハンカチというものは久しく持っていなかった。たまに配られるポケットティッシュははいってたりしたけど。主に鼻くそいじりに使用していた。
ミキちゃんは、俺がなにか思い出したのかと勘違いして、必死で宥めてくれる。俺はそんな親友の存在にもありがたみを感じ、更に泣いた。
電車の中で泣くなんて、始めてのことだった。恥ずかしい。でも、今はこうしてミキちゃんの胸に顔をうずめて、泣いて……うずめて……ミキちゃんのおっ○い!
ミキちゃんは先日ブラの講習会をしてもらったが、かなりの巨乳だった。
その胸に、今、俺は顔をうずめている、だとぉ?!
このチャンスは逃さない!巨乳ハンターな俺様がチャンスを逃すはずがない。
ミキちゃんのおっ○いを両手ではさみ、ぱふぱふする。
ミキちゃんは驚いて身をすくめる。
俺は一気に元気になった! 一応ミキちゃんの手前、しおらしくはしていたのだが、ミキちゃんは俺にぱふぱふされたことがショックだったらしく固まっている。俺はごまかしをかけるため、自分の胸もぱふぱふさせて、
「ミキちゃんの胸大きいね!思わず元気でちゃった!」
と切り返した。ミキちゃんは微妙に納得がいかない顔をしていたが、俺が元気な姿を見て、ホッとしたようだ。
ほんとに、女子は女子同士、なにをしても許されるな、と実感させられた。いや、なにをしても、はオーバーだが。
ふざけあいながら、学校についた。俺はギリギリまでミキちゃんの席の近くにいた。他の知り合いが誰だかわからないからである。
そんな中で、俺に近づいてきている人物がいた。
「ユ〜ウ!記憶喪失だって聞いたけどホントなの?」
俺には誰だか思い出せない。思わず苦悩の表情を浮かばせると、彼女は言った。
「えぇ〜マジ?あたしのことも忘れたなんて、最悪〜」
「ご、ごめん……」
「ユウはホントに記憶喪失なんだって。そんな言い方したらかわいそうだよ」
ミキちゃんが庇ってくれる。
「しょうがないなぁ……ったく……」
そう彼女は言うと、
「あたしは百合子。渚百合子だよ。あんたと仲のよかった、ね」
俺、こんなギャル系の友達いたんだ……
ミキちゃんはおとなしい感じだから馴染みやすかったけど、ギャル系はさすがに俺の範疇を越えている。
俺はひたすら考え込むしかなかった。