表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/71

見慣れぬ、天井

 見慣れぬ、天井。


 心電図測定機のような音がピッピッと規則正しく鳴っている。

起き上がろうとしたが、腰に力が入らず起き上がれない。かろうじて腕を動かすと、毛むくじゃらの太い腕が見えた。

 あぁ、また夢の中なんだな、と思った。

 横にいる母親が

「看護婦さん!看護婦さん!」

と騒いでいる。

 看護師は急いでやって来ると、脈を取り始めた。そして

「ご気分が悪いなどはないですか?」

と聞いてきた。

「あー……頭が痛い……かな」

 その声は紛れもなく前世の俺だった。

 母親は俺の手を握ってきて、涙を流した。


「よかった、よかった」

母親は泣きながらそう言った。


「俺、状況がわかってないんだけど……」

と言うと母親が、

「あんたトラックに轢かれて一年も眠っていたんだよ」

と泣きながら言った。


 頭が冴えてくると、まず周りを見渡した。どこかの病院の個室のようだった。念のため母親に聞いてみる。

「ここって……病院?」

「そうだよ、病院だよ。よかったよ……」

 母親はまだ泣いていた。

 しばらくすると父親が入って来た。

「よかった……やっと目が覚めたな……!!」

父親も涙目でそう言った。



 これってどういうことだろう?

俺は今の今まで坂井とシていたはずなのに……

俺の下半身はどうやらきちんと男に戻っていたようだった。


 ということは、あの世界が夢……?


 夢なら早く寝ないと、坂井が心配する。

そう思って目を瞑るが、全く眠気はこなかった。

 そりゃそうだ、今の今まで寝ていたんだ、そう簡単には眠れないだろう。


 俺がトイレに行きたいと言うと、母親が尿瓶を持ってきた。

まだ俺は起き上がれないらしい。母親に頼んで、ベッドを少し起こしてもらった。

 少しだけ気分が和らいだ気がした。


 腕を動かすのも重かった。すぐにだるくなってしまう。足をばたつかせてみようとするが、思うように動かない。


「体調がいいようでしたら、明日からリハビリですよ」

と看護師が言った。



 そこへ見知らぬ人がやって来た。

「本っ当に申し訳ありませんでした!!」

と涙目で挨拶をしてくる。

 母親が、

「いいのよ、いいのよ。こうして無事意識も戻ったことだし」

と挨拶を返していた。どうやら事故の相手らしい。

 そういや、あの時歩行者用信号が赤だったような、いや、青だったかな?いや、赤だったような気がする。

そんな中を謝りに来てくれるなんて、なんていい人なんだろう、と俺はボヘーッとそんなことを考えていた。

 その人は俺の目の前来てまで謝り続けた。きっと俺が寝たきりの一年は相当つらかったのであろう、憔悴しきった様子で一生懸命に謝罪をした。


 俺はまだよく舌が回らない状態で、なんとか

「大丈夫ですよ。こちらこそ、なんか、すみません」

と答えた。


 翌日からリハビリ開始だ。

まずは起き上がるところと、腕の自由を取り戻すところからだった。

 起き上がろうとしてもなかなか難しく、母親の補助をつけてなんとか、という状態だった。

腕は比較的早く動くようになった。それでもまだ、重たく、荷物のように感じた。


 母親は毎日見舞いにきた。リハビリを一緒にしてもらう、という理由もあったが、息子の無事を確かめたいという気持ちの現れのような気がした。


 息子と言えば、俺の息子さんもずいぶん元気で、毎日のようにお漏らしをしている状態だった。お盛んなお年頃だからねっ!!

そんな下着を変えてくれる看護師さんには非常に申し訳なく感じた。

 腕が動かせるようになって初めてしたことは、自慰行為だった。腰から下の感覚はあまりないのだが、これだけは大変気持ちよく感じた。


 これって俺だけなのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ