引っ越し
三月になると、寒さも和らいで暖かい日差しの日も多くなっていた。春の日差しは柔らかく、俺たちを包み込んでいった。
卒業式。
約二年の月日を俺と一緒に過ごしてくれたミキちゃんとの別れのときがやって来た。
♪蛍の光窓の雪〜♪
ミキちゃんは県外の大学に行くので、ホントにホントにこれが最後だった。
ヒシッと抱き合う俺とミキちゃん。周りの人たちも同じように抱き合って泣いていた。
俺にこの世界のいろはを教えてくれたのはミキちゃんだった。初恋の相談も、受験の悩みも、全てを共にしてきた、いわば戦友のような存在。それがミキちゃんだった。
ミキちゃんと松永は別々の県の大学へ行く。
ミキちゃんは松永に別れを持ち出したらしい。しかし松永は
「ホントに別れようと思う日までとっておこう」
と言ってくれたらしく、大号泣の中でミキちゃんが教えてくれた。
俺と坂井はそれぞれ都内にアパートを借りて住むことになっていて、会おうと思えばすぐに会える位置にいた。
だからこそミキちゃんと松永の別れはとても悲しかったし、辛いことでもあった。
だが、二人は今、それを乗りきって結ばれようとしている。
その事がさらに俺の涙腺を刺激し、大いに泣いた。
そんな涙の中でも坂井と松永は肩をくんで蛍の光を歌っていたりした。
卒業式は滞りなく行われ、俺たちは離ればなれになった。
◇
坂井は引っ越しの手伝いにも来てくれた。自分の部屋は早々に終えたからと言って来てくれた。ホントはまだちっとも済んでいないくせに。
俺は都内の1DKのアパートに住むことになった。大学までは電車一本という立地のいい条件。ちょうど前の人が卒業で引っ越して行った直後で、真新しいキッチンに俺は大喜びした。
坂井も喜んでくれて、超嬉しかった。
坂井のアパートは大学から電車を一本乗り継いだところにある。俺のアパートからさほど遠くはないところだった。
同じように1DKのアパートで、坂井の荷物は大変少なく、それこそバッグ一つで済むレベルだった。荷物はこれから買い足していくとのことで納得した。
俺の部屋にはまず本棚が置かれた。本好きな俺は多分一年も経たない間にその本棚を埋めてしまうだろう。
次にベッドが入った。
お気に入りの布団と枕は買い足さずにそのまま持ってきた。実家に帰る日用に実家に布団を一組購入した。
枕元にはくまモスのお気に入りのぬいぐるみを置いた。これは去年、ゲーセンで坂井が必死になって取ってくれたものだ。あのときの坂井は神がかっていた……。
そのときの坂井は、ホントに神がかっていた。
まずお菓子のタワー崩しを500円で制覇し、続いてのUFOキャッチャーでもお菓子をゲット、最終的に俺が欲しいと言ったくまモスのぬいぐるみも500円で手にいれた。いやー、あのときの坂井の目はハンターの目だったね。
というわけで、その日からくまモスのぬいぐるみが俺の部屋に居座っている。
くまモスがいれば、一人でも安心できる気がした。
続いてキッチン用品。
まずは小さな水屋を置いた。
ニモリという家具屋で母親と二人で吟味して購入したものを置いた。
続けてフッ素加工のフライパンに鍋。かわいくて気に入ったお皿たち。これらは、早く使ってよ!と言わんばかりにピカピカに俺を待っていた。
え? 料理が出来るかって? 当たり前だろ。なんのために毎晩夕食作りを手伝わされたと思ってるんだ!?
一方、坂井の部屋はがらんどうだった。どうやって食べていくの?と聞いたら、とりあえず近くのコンビニで済ませると言ったので、大反対をして調理器具を一式買わせた。どうせ俺が使うことになるだろうけど。




