お正月
涙で濡れた部屋にノックの音が転がった。
「ユウ……入るぞ」
坂井の声がした。
「ダメッ! 入って来ないでっ!」
そう言ったが間に合わず坂井が部屋に入ってきた。
「ユウ……ごめんな」
坂井はまず最初に謝った。
俺は坂井に背を向けた。
「もういいって言ってるでしょっ!!」
坂井は更に続けた。
「ユウ、言い出すのに勇気が要ったと思う。その気持ちをくんでやれなくてごめんな」
俺は少し泣き止んだ。
「ただ、わかって欲しい。俺はユウを大切に思ってる。正直に言えば、嫁さんにしたいと思ってる。だから焦る必要なんてどこにもないんだ」
俺は黙ってそれを聞いていた。
「本気で大切にしたいからこそ、安っぽい流れでそういうことをしたくないんだ」
「でも、私はしたかった!」
「うん……」
「私、そんなに魅力ない?」
「そんなことはないよ、充分過ぎるくらいだ」
「じゃあ、してもいいってことだよね」
「だから、どうしてそう焦るの?」
「だって付き合って一年になるのに何もないなんておかしくない?」
「そういうのに長さなんて関係ないよ!」
「そうなの?」
「俺だって我慢してるんだよ。俺の気持ちもわかってよ!」
「我慢してる……?」
「そうだよ。キスしててもなにしてても我慢してる」
「そんなに私のことが大事?」
「うん。命にかえても守りたいと思ってる」
そうなんだ……やっと坂井の気持ちが見えた気がした。
俺は一人で突っ走っていた。坂井の手がすぐそこにあるというのに、全く見えていなかったのだ。
大切なものほど見えにくいとはまさにこういうことだろう。
俺はすっきり泣き止むと、坂井の方へと向き直った。
「ごめんね。私、表面でしか見てなかったね。ホントにごめんね」
そういうとまた涙がぼろぼろと溢れてきた。
「仲直り、ね」
と坂井が出した小指に小指を絡め、仲直りした。
次の日、朝から迎えに来てくれた坂井に、感謝するばかりだった。
◇
ユウスケのその後。
電話で近況報告を行う。
「いじめはどう?」
「おかげさまでなくなりました!」
「それならよかった!!」
「……それで、言いづらいんだけど……」
「だけど、何?」
「……俺、彼女ができちゃった」
「なんだ! いいことじゃない!」
「ユウさんには失恋するまで待ってるって言っちゃったから……」
「うちが破局すると思う?」
「いや、しないと思うけど」
ユウスケは相変わらずユウスケだ。少し安心した。
今度彼女に会わせるから、そう約束して電話を切った。
私はホントに幸せ者だと思う。
大晦日、坂井と初詣の約束をした。
自転車で行ける範囲で一番大きな三ノ宮神社に行くことにした。
寒い中、ホッカイロを背中とお腹に貼り、手で持って行くのに一つ、カイロを持った。
11時に待ち合わせして、神社についたのは11時半だった。
笛の音が奏でられる中、参拝客がそろそろと並んでいた。手と口を清め、列に並んだ。まだ人数は少ないので、割と前の列に並ぶことができた。
列はあっという間に鳥居のそばまで見えなくなり、ずっと続いているようだった。
ホントに寒くて、鼻水が出てきた。ポケットティッシュで拭いながら並んだ。
「今日は流星群が見れるらしいよ」
との坂井の言葉に俺たちは空を見上げていた。
「あっ、流れた」
「うん、見れた」
「来年はいい年になりそうだね」
「そうだね」
一日になり、
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「こちらこそよろしくね」
参拝の列が進み始める。
俺たちは五円玉を賽銭箱に投げ入れるとお参りをした。
坂井は何を願っているのだろう。
欲張りな俺は、受験に受かりますように、坂井とうまくいきますように、と2つもお願いした。




