ユウスケ、来訪
ユウスケがインターホンを鳴らしたのはその直後のことであった。
今日は客の多い日だな……
母はまたしてもハイテンションでユウスケを二階へと誘う。
俺は二階からずっと眺めていたので、それは承知していた。
「ユウ、お友達が見えたわよ」
「はいはい」
「はいは一回でよし」
「はーい」
「伸ばさない!」
「はい……」
二階へ通されたユウスケは若干興奮気味だった。
「まさか、ユウさんちにあがれるなんて……」
「何しに来たのよ」
「バイト一週間も休みだって聞いたから心配したんだよ!」
母が麦茶を持ってくる。
ユウスケが勝手に自己紹介を始める。
「猿渡ユウスケといいます! ユウさんとは恋人未満なお付き合いを……」
ボフンと枕を投げつけた。
「あら。ユウったら、ホントに隅に置けないわね!」
ほら、母が勘違いしたじゃないか!
「ユウスケとはと・も・だ・ちなんだよね!」
と言い直してやったら、シュンとなって
「はい、お友達です……」
と言い直した。
「はいはい、わかりました」
母はにこやかに立ち上がると一階へ降りていった。
「自分がはいは一回って言ったくせに」
俺は口を尖らせた。
ユウスケは物珍しそうにキョロキョロしている。
「何キョロキョロしてんのよ?」
「僕、女の子の部屋入るの初めてなんだよね。すごく感動」
「女の子の部屋入るの初めてって、今までの彼女の家には行ったことがなかったの?」
と聞くと
「今まで? 僕、彼女いたことないよ」
と天使スマイルで答えた。
「はぁ?? じゃあ、私を彼女一号にしようと思ってたの?」
「うん、お嫁さんにしたいと思ってるよ」
「なんでお嫁さんに……」
俺の顔が若干ひきつった。
「僕ね、一番最初に好きになった人をずっと好きでいるって決めてるんだ。おばあちゃんにもそう言われたよ」
いつの時代のことだよっ!!
確かに俺も、中学生くらいまでそのつもりでいた。好きな人がいないわけでもなかったが、声に出す勇気はなかった。だって俺はキモヲタだったから。小学生の頃ははっきり好きだと思う人がいたが、中学生になってからはおぼろげだった。だが、好きな人ができたら、俺も結婚をして、明るい家庭を作って……なんて妄想したりもした。
だから、気持ちはわかるんだけど、さすがに高校生になったら現実みようよ……と思う。
「――さすがに、それはちょっと行き過ぎじゃない?」
と言うと、ユウスケはなんで? という顔をして見せる。
「今の時代、それじゃうまくいかないと思う……」
「なんで?」
「一緒に過ごしてみて嫌なところとかも見えてくるじゃない?」
「ふーん、僕だったらその嫌なところとかも好きになっちゃうのにな」
そりゃ、あんたはそうでしょうよ!!
「私は何度か恋をしてからたどり着きたい」
「じゃあ、今の彼氏は布石ってこと?」
「そうじゃ……ないけど」
「でも、そういうことでしょ?」
「それは……マサユキが嫌いなことをしたら、そうなるけど」
「ふーん、あの人、マサユキって言うんだ」
俺は青ざめた。
「あんた、マサユキに嫌がらせしようとか思ってないでしょうね?!」
「別に何もしやしないよー。ただ、もし二人が別れたら僕と付き合ってくれるんだよね?」
「そんな約束はしてない」
「えぇっー。それじゃ僕、ずっと片思いじゃないか!」
「当たり前でしょ。そもそもあんたと私は友達であって、恋人じゃないの!!」
ユウスケは不満そうに膨れていた。
その時インターホンが鳴った。
今日はホントにお客が多い……
と思ったら、坂井が忘れ物を取りに来たのだ。
「ユウ、坂井くん、あがってもらうわよー」
無情にも母の声が響き渡った。