会いたい
暑い日差しが注ぐ。
先日までの雨が嘘のようにすっきりあがって、風が夏の香りを連れてきた。
俺と坂井はあの日を境目に再び仲良しカップルへと戻っていた。
邪魔するものはなにもなし。
時折バイト先にも顔を見せるようになった坂井をうっとり眺めていてお好み焼きを焼きすぎた。
宮崎さんとは相変わらず仲がいいままで過ごしていた。宮崎さんにも、坂井を彼氏です、と紹介した。宮崎さんはニコッと笑うと、少し遠い目をして
「うらやましいな」
と一言言った。
宮崎さんはまだ佐藤のことが忘れられないらしく、時々様子を聞いてきた。その度に俺は、元気でやってますよ、などと嘘をつくしかなかった。
ホントは佐藤は元気がなかった。いつも沈んでいたし、ため息も多かった。俺と坂井のことをうらやましいとも言っていたが、恋をする気力はとてもじゃないがあるようには見えなかった。それだけ心におった傷は深かったのだ。
俺は考えた。
俺が二人にしてあげられることってなんだろうと。
佐藤に聞いた。
「まだ宮崎さんのこと、好き?」
佐藤は小難しい顔をして言った。
「正直言って、なんといったらいいかわからない感じ。ただ、親からはもう二度と会うなって言われたし、哲也がそれを了承しちゃったから、会いたくても会えないし」
やっぱり。やっぱり佐藤もまだ好きなんだ。
宮崎さんに言った。
「そんなに心配するなら、自分から小百合に会いに行けばいいのに」
「向こうのご両親が納得しないさ。もう二度と会うなって言われたしね」
くーっっっ、はがゆい。
「宮崎さんはそれでいいと思ってるんですか?」
「いいも悪いも、向こうのご両親が決めたことだから」
くーっっっ、はがゆい。
「小百合は会いに行かないの?」
「私は……顔を合わせれないから……」
くーっっっ、はがゆい。
結局二人とも会いたいんじゃないか!!
それなら、と俺は思った。
「小百合、会いに行こう!!」
「えっ……でも……」
「親には迷惑をかけたかもしれない。でも、自分を偽るなんて無理だよ! 会いたいんでしょ?会いに行こう!!」
最初は戸惑っていた佐藤も徐々に覚悟を決めた顔になってきた。
「ユウ、私、会いに行ってみる!!」
「よっしゃ、私、手伝うからねっ」
その日、バイト先でこっそり宮崎さんのはや上がりのシフトを確認すると佐藤にメールした。
◇
その日、俺は一日中落ち着きがなかった。日曜日だったので、ランチタイム後からのシフト。宮崎さんと同じシフトだった。
朝から緊張のあまり早起きしすぎて二度寝をかまし、ギリギリの時間に目が覚めた。
遅い朝食をとりながら着替え、自転車をこいでバイト先へとむかった。
宮崎さんに会う。
「宮崎さん、あとで話がありますから、あがったらそのまま、自販機にきてもらえますか?」
自販機とは、休憩室から一番近くにある自販機のことで、バイト仲間には『自販機』と言うとそこだと言うくらい定番な場所だった。
宮崎さんはなんの疑いもなく
「わかったー。待ってるよ」
と言った。実はその場所で佐藤が待っているということも知らずに。
バイト中も落ち着きがなく、小さなミスをいくつもした。ジュースのエスサイズにエムサイズのボタンをおしてしまったり、食器を割ってしまったり。
副店長から、
「おいおい、しっかりしてくれよ〜」
と泣きつかれてしまったり。
あがりの時間だけは間違わずに、きっちりあがった。
先に自販機に行くと、佐藤がもう来て待っていた。
「もうすぐあがりだからね、しっかり、ね」
佐藤にそう言うと佐藤は緊張した面持ちで、
「うん、うん、あたし、頑張る!!」
と言った。
ふと見やると、宮崎さんがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
俺は「しっかりね!」ともう一度合図をすると、着替えをしに休憩室へと戻った。