エッチ
宮崎さんが、
「メッセージカードありがとうね」
と言った。俺は、
「いえ……」
としか言えなかった。
メッセージカードには、
「早くよくなってね! 宮崎さんの笑顔を早く見たいです! 宮崎さんが大好きなユウより」
なんて、調子のいいことを書いていた。勝手に恋してのぼせ上がっていた自分が恥ずかしい。
「佐藤さん、何か言ってた?」
「いえ、特には何にも」
嘘をついた。ホントは佐藤は忘れたい、忘れたいと言って泣きじゃくったのだが、それを宮崎さんに言う気持ちにはなれなかった。
ほんの少し、宮崎さんの表情が和らいで見えた。
宮崎さんは
「出来ることならもう一度やりなおしたいんだけどね……」
と言って遠い目をした。
佐藤は……どう思っているのだろう……
◇
ミキちゃんに今までのいきさつと自分の気持ちをあるがまま伝えた。
ミキちゃんは、
「浮わついてるからそんな目に遭うんだよ! もっとしっかり坂井を見てやんなよね!」
と言った。
「そうだね……私、少し周りの人のこと考えてなかったかもしれない」
「そうだね。今回のこともわざわざ小百合に言わなければ小百合も傷をえぐられなくてよかったかもしれない。だいたい、宮崎さんに秘密って言われて、なんで次の日に小百合に言ったのか全然理解できない」
「はい……」
「もっと慎重に動きなさいよ。今回のこと、坂井はまだ知らないからよかったけど、知ったらどんなに苦しんだと思う?」
「……はい」
トータルで小一時間ほどお説教をくらった俺は、立ち直るのにしばらくかかった。
翌朝、いつものように迎えにきた坂井と、少しだけ会話をした。
それは天気についての会話だったが、昔のように戻れたら、という気持ちがこもっていたことを、もしかしたら坂井はうっすらと気付いていたかもしれなかった。
「うっそぉー!!」
「マジで?」
「ちょっと引くわぁ」
昼休みにみんなと喋っていたら、エッチをしたことがあるか、という話題になり、俺は素直にまだしたことがないと答えた。付き合って半年以上経つ俺たち。いまだエッチの経験がない、と言ったらこの反応だった。
「うんうん、引くー」
「なんでシないのぉ?」
しかし、ここには佐藤がいた。
佐藤のことを言うわけにはいかない。
「いや、場所がないっていうか、時間がないっていうか……ねぇ?」
誰に話を振ってるんだ、俺。
「けど、ユウ、バイト代あるんでしょ? そしたらホテルとかガンガンいけるっしょー」
「バイト代は家にいれてるから……」
嘘をついた。こうやって嘘にまみれて大人になっていくんだろうな……とか、ふと思った。
「別に、付き合ってる=ヤるって訳じゃないんだからいいんじゃないの?」
佐藤がそう言った。
皆はシーンとした。
「そうだよね、ヤるために付き合ってるんじゃないしね……」
賛同したのは、まさかの飯田だった。飯田にはまだ彼氏はいないらしい。坂井のことをまだ好きなのか。それすらもはやわからなくなっていた。
「そっか、そうだよね……」
「うんうん、言う通りだね……」
少しずつ賛同の輪が広がっていった。
「ユウは大事にされてるってことよ」
そう言い切る飯田の表情からは未練などは感じられなかった。
でも、自分でも、少し何もなさすぎかな……とも思う。
最近はキスすらもまともにしていない。
坂井は我慢しているのかな?それとも平気なのかな?まさか俺の写真見ながら抜いてる……とか?
いらない妄想が頭をよぎる。
そういや、坂井は俺の写真を集めてたっけ……最近はどうなんだろう?
坂井の部屋にも試験勉強以来行っていないからわからない。
6月の雨はシトシトと降り注いでいた。




