恋心……?
自転車を押しながら宮崎さんを気遣う。
「やっぱり、宮崎さん先に帰っていいですよ。私も自転車で帰りますから」
「こんな遅い時間に女の子一人では帰らせないよ。危ないし……」
女の子扱いされたことにドキドキする。
「普段休みの日ってなにをしてるんですか?」
俺はスタンダードな質問を投げ掛ける。
「あぁ、休みの日って基本的にバイトなんだよね。バイトがない日はレポート書いてるかな」
「えぇー! じゃあ休みないじゃないですか!?」
「そんなこともないよ。勉強しながら音楽聞いてたりもするしね」
「音楽はどんなのが好きなんですか?」
「ラークアンシエルとか、かな」
「ラークアンシエル! 私も好きなんです! 意外だったー」
「意外?」
「V系はあまり聞きそうにないなって思ったので」
「ラークアンシエルはV系というより、ポップロックな感じかなあ……」
確かに。でも、俺と趣味が近くて、嬉しい。
「他にはどんなのを聞くんですか?」
「クリーンとかかな。明るい歌詞がいいよね」
「あ、それわかるなぁ」
「ユウちゃんはどんなのが好きなの?」
「私はラークアンシエルとかジャンヌラルクとかが好きですね」
「ジャンヌ、俺、ライブ行ったことあるよ!」
「えーっ、すごい!」
「まだ今みたいにバカ売れする前だったからね、楽勝!」
「ライブどんなでした?」
「大盛り上がりして、アンコールが二曲だったよ!」
いいなぁ……宮崎さんとライブ。楽しそうだ……
「あ、うちここなんで。今日は送って下さってありがとうございました!!」
「いやいや、こちらこそ、久しぶりに楽しかったよ」
言いながらヘルメットをかぶる宮崎さん。
今の季節、バイクは気持ちいいだろうな、とふと思う。
「じゃあ、また明日!」
宮崎さんは去っていった。
家では母が、
「今日はバイト、えらく遅かったのね」
と聞いてきたので、
「先輩としゃべりながら歩いて帰ってきたから」
と答える。
「先輩って、男の人?」
「うん。大学生の人」
「それならいいけど、あんまり夜遅くなったら危ないからね。気を付けなさいね」
「はーい」
「返事は伸ばさない!」
「はいはい」
「二度返事をしない!」
「はい」
「じゃあ、ちゃちゃっとお風呂して寝なさいね。明日は起こさないわよ」
母はそう言ったが、起こさなかった試しはなかった。
俺はゆったり湯船に浸かり、今日の疲れを癒した。
女子高生生活は楽しい。前世でやれなかったことを、全部やっていこうという気力がある。
主に恋とか、恋とか、恋。
前世では異性と絡むことはなかったし、絡むと言ってもパチンコ屋のコーヒー姉ちゃんくらいだったし、恋というものに興味が薄かったと思う。そのうち、周りから取り残されてぼっちになってしまった。
今は違う。俺は青春を満喫している。恋も勉強も、友達も、前世ではいなかった存在だ。俺は一人で生きていくと思っていたし、事実そうだった。
だから、前世では胸がときめいたり、友達としこたま笑ったり、勉強で悩んだりすることはなかった。全てがなすがままに、ながれていく感じだった。
今は違う。自分の意思で選んで、踏ん張ってきた自分の人生。
一度しかない人生、たまたま俺は二度目の人生をたまわった。
人生を、青春を謳歌することに一生懸命になっていた。
俺は宮崎さんに恋心を持った。それは昨日話していてはっきりわかった。
でも、今も坂井が朝迎えに来てくれる。
悪いな、という気持ちと、自由になりたいという気持ちが入り交じって複雑な心境になった。
とりあえずミキちゃんか佐藤に相談してみよう。そう思って今日も坂井と登校した。