部屋
「坂井くん、じゃなんだから、名前で呼びあおうか」
登校途中で坂井が言う。
「えっ……」
「俺もユウって呼ぶからさ。だから、マサユキって呼んでほしい」
「いきなり呼び捨ては……じゃあ、マサユキくん、でどうかな?」
「うん、それでいいよ!」
甘酸っぱい香りが一面に漂った。
授業中も坂井に目がいってしまう。だいぶ重症のようだ。
おっと、ノートとらないと。
期末テストが近づいていて、なんとなくピリピリする教室。俺はその空気が嫌だったので、廊下に出る。すると廊下では松永と坂井が……いちゃついていた。
ふざけあっているのだが、どこからどう見ても、キャッキャ、ウフフにしか見えない。
「お前、ここがいいんだろ?」
「あっ……やめて……」
「それともこっちもほしくなってるのかな?」
「やっ……だめだってば」
「こんなに感じる体に誰がしたんだ?答えてみろ」
「まっ……松永が……」
「えっ?聞こえんなぁ?」
「松永にされたの!!」
「もっとじっくりと味わってやるぜ……」
松永がくすぐりながら言う。
「や……やめてよ……」
坂井が妙に艶めいた声をあげる。
あの二人……案外……
と思いかけてやめた。俺はBLは好みではない。ユリは……ちょっといけるけど。
そこにミキちゃんがやって来る。
「二人とも、ホントに仲がいいのね」
「そういうそっちこそ、いつも一緒にいるじゃん」
「私とユウは、ラッブラブーなの!」
言い返して笑い合う。幸せなひとときだ。
期末テストなんかなければいいのに!!
とりあえず塾には行けているので、勉強ぼっちにはならないで済みそうだが、いくつか赤点ギリギリの教科がある。
今日はミユキちゃんちで勉強会をする。
ミユキちゃんち……つまりは坂井の家で勉強会だ。き、緊張する……
坂井に連れられて家へと向かう俺。最初のうちはべらべらとくだらない話をして楽しんでいたけど、家が近づくにつれ、無口になっていく。緊張しているのだ、お互いに。
ミユキには、旅行から帰ってすぐに付き合うことになった話をしてあるらしく、ミユキはウキウキしていたらしい。
無言のまま、家に到着する。
鍵を開け、入っていく坂井。
「おじゃましまーす……」
と小声でいう俺。
「ミユキのやつ、まだ帰ってないのか。仕方がない、俺の部屋で少し待つ?」
と坂井。
俺はボンっと赤くなった。
「そ、そういう変な意味じゃないぞ!」
と言う坂井。俺も、
「う、うん!」
と明るい返事を返す。
男の部屋か……俺は俺以外の人の部屋に入ったことがほとんどない。
しかし、男の部屋というと、なんとなく想像がつく。
ゲームがあって、本を積み立ててあって、お菓子の袋が散乱しているイメージ。
坂井が二階にあがっていく。俺はついていく。
少し待っててと言われるだろうことを予測していたのだが、そんなこともなく部屋へ通される。
そこは異世界だった。
きちんと片付いた部屋。ほこりの一つもなさそうな本棚。エロ本を隠しているとは思えないベッドの下。
今の俺の部屋なんかよりずっときれいでモダンな感じだ。
「ちょっと待ってて、茶を淹れてくる」
と言って坂井はいなくなった。
部屋にポツンと残される俺。とりあえずベッドの下を確認。なにも隠してはいない。本棚はきれいに整頓されていて、マンガの本と、文芸書がいくつも並んでいた。もちろん一番端にはブックエンドがついているという丁寧さ。
この部屋でいつも坂井は勉強してるのか……生活感が全くないんだけど。
すると、お茶のお盆を持った坂井が部屋へ戻ってきた。
「すごいね!部屋!」
「なにが?」
「整頓されてて……」
ああ、と坂井は言う。
「母さんが勝手に部屋の掃除しちゃうからな」
「その、男の子の夢の雑誌、みたいなのはないの?」
「ねーよ! 俺そんなの興味ねーし!」
健全な男子らしからぬ発言。
そしてはっと気づいた。パソコンだ。パソコンの中に入っているに違いない……
俺は黙ってパソコンの電源を入れた。




