疑惑
修学旅行最後の夜は、やはり恋バナで賑わった。
この旅行中カップルになった子も多くて大いに華やいだ。
そんな中で俺もみんなに付き合う宣言をする。飯田グループが別の部屋でよかった……
「やっぱり坂井はユウだったんだー」
「いつも見てたもんね」
「ユウももっと早く告ればよかったのにー」
「でも、私、修学旅行ほとんど一緒に回れたから、よかったんだけどね」
と言うと、みんながうんうん、と頷いてくれた。
「でも、これって飯田が知ったら……」
「そういうことのために騎士がいるんじゃない」
「そっかぁ、それもそうだよねー」
「ってか、飯田はこれで白黒ついてよかったんじゃない?」
みんな言いたい放題だ。
確かに飯田が何かしてくるんじゃ、と思うとまた怖くなる。
けれど、もう白黒はっきりしたんだし、これからは坂井に守ってもらえる。そう思うとどこか安心できた。
これも坂井のおかげかな……
そして恋バナはとどまるところを知らず、エッチな方向へと。
耳どしまな俺は、コンビニで一番エロいエロ本を見抜く技を持っていた。
役に立たないですと?
エロ本は人生のスパイス!スパイスなしの料理なんて味気ない、そんなものは俺の世界にはありえない。
そして一番エロい本を見つけ出す、それこそ秘技!シーク・ザ・エロス!!
そもそもなんで一番エロい本を見分けたなんてわかるかというと、一番から順に一巡り購入したからだ。
俺の見る目に狂いはない。
エロ本とスロットだけがお友達のあの頃……
ハッ。いかん、涙が……
しかし、女子同士のエロ話って、結構えげつないのね。
誰が黄金の指だの、なめるのがうまいだの、俺が想像してた女子像からはほど遠い発言が……
そんな中で、坂井は上手いという話が。
誰が言い出したかしらないけれど、それって、誰かが坂井とヤったってこと……
俺は少なからずショックを受けた。
そりゃ、高校一年にもなれば、ケーケンしちゃってる子もそこそこいるはずで、そこに坂井の名前が挙がったっておかしくないんだけど、俺にはショックだった。
「ほらー、調子に乗ってしゃべってるから、ユウ傷ついちゃったよ?」
すかさずフォローを入れてくれるミキちゃん。
ごめんね、今それどころじゃない状態。
言うなれば酸欠状態の金魚のようなものだった。
坂井が初めてじゃない……
決して悪いことではない。寧ろ自分とヤるときに、リードしてもらえてよいかもしれない。
無理矢理そう思い込もうとしていた。
ミキちゃんは松永との話をみんなに聞かせる。あいつ、そんなとこあったんだぁ、とか、そういう性癖か、とか思ったりしながら聞いていたが、上の空に近い感じで言葉が中まで染みてこなかった。
坂井が上手い……その一言だけで一喜一憂できるほど、俺は坂井のことを好きになっていたのだ。
改めて痛感した。
遅くまではしゃいで疲れたのか、3時を過ぎる頃にはもうシンとしていた。俺はどうしても寝付けなくてこっそり部屋を抜け出した。
自販機でジュースを購入してゆっくり飲む。
さっきのみんなの話題をまた思い出す。
誰と付き合ってたんだろう……上手いなんて話にあがるくらいだから、同じ学校の生徒かもしれない。もしかして、飯田?
付き合う手前までいったと確か言っていた。まさか、飯田か?
眠れぬ夜は更けていった。
翌日、帰りの新幹線の中で、俺はいびきをかいて寝ていたらしい。
自分の記憶にはないが、「坂井がー」「坂井はー」と寝言で言っていたらしい。恥ずかしい。
一方、坂井の方はクラスメイトとじゃれあっていた。
坂井のあの色気は、経験からきているものなんだろうか?疑う自分が醜く見えた。