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電話の主

 悩みながら眠れぬ一夜をあかして、俺はくたくたになっていた。今日は1日自由行動だ。

 昨日、トイレに行ったきりになっていたので、誰と回るかも決めていなかった。それを見透かすように坂井はやって来て、断ることが下手な俺は結局坂井と回ることになった。


 西本願寺を一番に、東福寺、南禅寺と回ることに。

坂井は昨日のことなどなかったかのように平然と俺に接触してくる。

 俺はお前に女がいるって知ってるんだぞ!と言いたくなる自分を抑えてニコニコとついて歩いた。


 知恩院を過ぎて、一旦休憩にしようという話になる。近くのコーヒーショップに入ると、俺はカフェオレを頼んだ。もちろんシロップは2つ。すると、坂井は同じようにカフェオレを頼むとシロップを2つとった。それがさも当然であるかのように。

俺は聞いてみた。

「坂井くんはシロップいつも2つなの?」

「ああ、いつも2つ……加藤も2つか」

「一個じゃ甘さが足りないっていうかね、癖」

「ああ、俺もだ」

昨日あんなことがなければこういう瞬間にきゅんとなるはずなのだが、思い出すだけで胸がズキンとなって痛かった。


 っていうか、なんで一緒にいるんだろう。断ろうと思えばいくらでも断ることができたはずなのに、それができないのは俺に勇気が足りないせい?


 直接聞いてみようか。いや、誤魔化されるに決まっている。そうこう考えているうちに飲み物は空になり、コーヒーショップを後にすることとなった。


 坂井はガイドブックを持参しており、それに沿って歩くことに決めた。


 三十三間堂などを見てあるく。途中何度か土産屋もみたが、今日は買う気にならなかった。


 いきなり坂井が立ち止まった。

「加藤、お前どうかあるのか?」

突然の質問に答えを失う俺。

「昨日の夜からおかしかったよな。体調悪いん?」

「あ……ちょっとだけ、体調が悪いかなぁ、なんちゃって……」

そう言うと坂井が振り向いて言った。

「今日は見学中止」

「ええっ?何で?今日しか見れないんだよ?」

「お前の体調のが大事だろ?」

その一言に浮かれ気味になる自分を抑えて、俺は言った。

「体調大丈夫だから、見て回ろうよ」

「お前に無理させるわけにはいかない」

懸命に説得するが、聞かない。

 仕方ないので、もう一度お茶して考えようということにする。



 俺の中ではもう諦めがついていて、今日は割りきってせっかくの旅行を楽しもうと思い始めていたので、ここまで来てなし、っていうのは避けたかった。


 俺が真剣にその思いを伝えると、坂井はわかりました、とばかりに肩をすくめた。


 東福寺で紅葉を見て、写真を撮って歩く。

途中、坂井がいきなり観光客に撮影を依頼して、ツーショットの写真も手にいれた。これが何も知らないときだったらどんなに楽しかったことだろう……


 ガイドブックに載っているお店で昼食を済ませる。

そのとき、ふいに坂井の携帯が鳴り出す。

「もしもし?」

と出ながら席を立った坂井は、人のいない場所でしゃべっている。しかし、その内容は俺に筒抜けだった。

「明日には帰るんだから、待ってろよ」

 へーへー、待ってるがいいさ。どこの誰だかも知らないけどさ。素敵な坂井くんの帰りを待っているがいいさ。


 電話を切って、坂井が戻ってくる。

「なんで、こう、女ってのは急かすかねぇ」

俺の前ではっきり口にした。

俺は我慢できずに口にする。

「かわいい彼女がいると、大変だな」

「へ?」

坂井が屁を喰らったような顔をした。

「彼女がいるのに、俺……いや、私とこうして回るのって平気なの?」

「? 俺、彼女いないけど」

「じゃあ昨日とさっきの電話、誰からよ?」

「ミユキからだけど……着信見る?」

俺はボバンと顔を赤らめた。ミユキから……そうか、辻褄が合う。

ミユキからの電話に勝手に嫉妬していたのだ。

 なんだか全身の力が抜けた。

「なんだ、女からって勘違いしてたんだ」

坂井が笑った。

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