修学旅行
クラス内の揉め事も、本人が出てきたことで終了した。
次の日からは全くいじめがない、いつも通りの風景に戻った。
体操着は買い直した。上履きはそのままだったけれど、さほど気にならなかった。
ミキちゃんが泣いて謝ってきた。
「ごめんね……私、ユウのこと何にも気づいてあげれなくて……」
泣きながら言うミキちゃんに、俺は諭すように言った。
「私もミキちゃんに相談しなかったんだから、おあいこだよ」
「でも、一月もの間、そんなひどい目に遭ってたなんて!相談してくれればよかったのに」
「ミキちゃんを危険な目に遭わせたくなかったんだよ」
「ユウ……ごめんね!ホントにごめんね!」
十一月の風は冷たかった。
ミユキちゃんにも報告する。
すると、ミユキちゃんは、
「マサユキが悪いんじゃない!謝るように言ってくる!」
と、カンカンに怒ってしまった。
「坂井には助けてもらったから、大丈夫だよ!」
と、なんとか説得した。
「でも、ユウの写真なんて、いつの間に持っていたんだろ?」
「それはわかんないけど……」
「って言うか、マサユキの好きな人ってユウ?!」
そこは否定できない。だってわざわざ写真をご丁寧に持ち歩くくらいだもん。そりゃあ、ね。
「そうかも……しれない」
「かも、じゃなくて確定じゃない!私がユウと兄弟に……」
「そこまで飛躍しない!」
おかげで妙に坂井を意識してしまう。
坂井はクラスでは目立たないが、顔立ちはいい。ちなみに成績も中の上。体育などもそつなくこなしている。友達は少ないようだが、仲が良さそうだ。
いつも睨まれていたのは、睨まれていたのではなく、見られていたということ……そう思うと急に恥ずかしくなった。
坂井の仕草、一挙一動が気になる。
教室では俺の席が坂井より斜め後ろだ。授業中、ばっちり見えてしまう。ノートをとる姿に惚けてしまうこともあった。
そんな中で修学旅行が始まる。
班行動は坂井とは別々になってしまったが、同じ屋根の下で過ごせることが嬉しかった。
そう、俺は恋におちたのだ。
同じバスの中でカラオケをみんなで回して歌う。その中には飯田の姿もあったが、もう怖くない。
修学旅行初日は長野でスキーだ。慣れないウェアに着替えると、部屋の中でみんなでポーズを作り、カメラに収めた。
スキーウェアになると、誰が誰だかよくわからなくなった。それでも、俺の目は坂井を見分けることができた。それはちょっとした仕草や体格からだ。
坂井が滑り出した。俺もあとを追って滑り出す。坂井は運動神経がいいのか、スイスイと滑っていく。それに対して俺は、ズズズズと音がするように、少しずつしか滑れない。というか、滑れていない。あとから滑り出したミキちゃんにまで置いていかれる始末だ。
俺は前世での修学旅行を思い出していた。前世では、京都、奈良の旅だった。今回も京都にはいくけど、まさかスキーがついてくるとは思わなんだ。前世の俺は適当に仏像拝んで、適当におみくじ引いて……あのときのおみくじは、そう、末吉だった。
ゲレンデの妖精になろうなんてみんなで約束したけど、ごめん、なれそうにない。完全にお荷物だ。
そうこうしているうちに、二本目を滑る坂井に追い抜かれる。
みんな、早すぎだって!
ハの字型の足でズリズリ進む俺。
そう、滑るじゃなくて、進む、だ。
みんなが二本進む間に俺は一本しか進めなかった。
その日の夕食は豪華な猪鍋だった。
俺たちは一緒に写真を撮りまくった。
プリクラに慣れてきていたおかげで、さほど抵抗なく写真に写ることができた。
俺たちは新しい思い出を、刻んだ。