夏休み、終了!
夏休みも終わり、またいつもの日々が始まる。
俺は実に満足した日々が続いている。ファーストキスを奪ったこともあるが、ここ数日はやけにミキちゃんべったりな生活が続いていたからでもあった。
俺は人を好きになることなんてないと思って生きてきた。
小学三年生のころから、三十路過ぎたいままで、本気でそう思っていた。
だから、ミキちゃんを好きな自分を誇らしくも思った。ミキちゃんという存在を得てから俺の人生は百八十度変わった。
友達も出来た。みんなと会話する楽しみを理解できるようになった。
中学の頃にはすでにぼっちで、それがかっこいいことだと思い込んでいた。
いわゆる厨二病というやつだ。
俺は『群れたりしない一匹狼なんだ』と自分に言い聞かせていたし、事実そうだと思っていた。
だから、クラスメイトがじゃれあっていても、「けっ、ガキが」くらいにしか思っていなかったし、女子が俺を悪く言うのも、俺がかっこいいせいだと思っていた。
そんな俺がぼっちに気づくまでは長い時間を要した。
三十路すぎてきて、やっと
「俺ってなんかずれてるかも……」
と思い始めた。
けれど、思い始めたときはすでに遅く、職場では女性と会話するのは仕事の内容だけ、飲みに誘ってももらえない、完全に孤立した世界を作り上げていた。
そんな感じだったから、今、まさに青春を謳歌する日がこようとは夢にも思わなかった。
放課後のティータイムや、休み時間のおしゃべり。それだけで心が潤った。ミキちゃんがいるのが一番の理由だったけど、瑞季たちとしゃべるのも面白かったし、百合子のメイク講座も面白かった。
ミキちゃんが帰り道で言った。
「ユウ、記憶がなくったって、私たちといれば平気だよね!」
まさにその通りだった。
時折する頭痛には困らされたが、それ以外はなんの心配もいらない日々が続くといいなと思っている。
頭痛は時折やってきて、ものすごい勢いで俺を打ちのめす。ズンズンというのか、ガンガンというのか、時折ツキーンとした痛みで俺を襲ってきた。だが、これも病院では異常なしだ。
母はたいそう心配して、やっぱり精神科に行こうと言ってくれたが、俺は断固断り続けた。
もし、万が一、ユウの身体に別人が入っているとわかってしまうのが怖かったせいもあった。それに、薬とか出て、今の俺が俺じゃなくなることも怖かった。
◇
俺はタバコを見つけた。親父が忘れていったものだろう。
前世の俺は筋金入りのヘビーチェーンスモーカーだった。
ふと手が伸びる。銘柄も俺が前世で吸っていたものと一緒だ。俺は自然と手を伸ばし、それを口にした。換気扇の下で吸うのは前からの癖だ。
「ごほっ、ごほっ、うえーっ」
タバコってこんなにまずいものだったっけ?それともこの子の身体が受け付けないだけ?
そう思っていると、妹が帰ってきてしまった。ビールに続き、俺も何と運が悪い男なんだろう。
妹はめざとく俺の手にあるタバコを発見し、
「お姉ちゃん、不良になりたいの?」
と威嚇してきた。
「別にそういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、その手にあるものは何?!」
「タバコ……」
「もう我慢できない!お母さんにチクってやる!」
妹はドスドス言わせて二階にあがっていく。
俺は開き直った。
言いたければ言うがいいさ。不良?上等じゃねーか。
前世で不良というものに憧れていたが、なれなかった俺にチャンスを与えてくれる訳だ。
俺はそのままタバコをふかし続けた。
母が帰ってきた。俺はいつものようにご飯の支度を手伝う。さすがにもう手慣れたもので、次々とこなしていった。
そこへ妹がやって来た。俺はてっきりチクりにきたのだと思ったが、妹は無言で支度を手伝う。
どうやらチクる気はないようだ。
どういう風のふきまわしだろうか。
俺は妹をチラ見しながら食事の支度を続けた。