ミキちゃん
リビングに入るとぎょっとした。
ユキノが誰か男の子といちゃついていたからである。俺が入ってくると同時にいちゃいちゃはやめたが、空気と状況から見て間違いはないだろう。
「お姉ちゃん、入るときはノックくらいはしてよ」
はあっ?! ここはリビングだぞ? そんなところでいちゃついているほうが間違いだろ?
「じゃ、俺はこの辺で失礼しようかな……」
「いいのよ、瞬くん、気にしないで。私の部屋に行こっ!」
「いや、俺はホントにこの辺で……」
瞬くんなる人物を見送りに出るユキノ。
俺はまだリビングで固まっていた。
「もう!お姉ちゃんのせいで瞬くん帰っちゃったじゃない!」
「俺のせい……?」
「あ、また俺って言った」
「私が悪いとでも言いたいのか?」
俺は私、と言い直した。
「そうだよ!せっかくいい雰囲気になったのに」
「そういうことは部屋でしろよ、リア充 !」
「お姉ちゃん言葉遣い荒い!」
「って、ホントにそういうことは部屋でしてくれ」
「わーかーりーましたっ!」
言い争いはここまでだった。
部屋に戻ってしばらくは放心していた。中学生でいい雰囲気だと……?ユキノのやつ、まさか処女じゃないとか?まさか!俺だって今まで彼女いたことないのに?
この疑問点は後々まで結構引きずった。
◇
学校の行き帰りにもずいぶん慣れてきた。
と同時に、ミキちゃんという存在が気になり始めた。ミキちゃんは何気に美人で、おっ○いも大きい。俺が妄想ではぁはぁしてもおかしくないくらいだ。
でも、ちょっと待てよ?
今は俺は女の子なんだから、同性愛になっちゃうの?それはそれできゅんきゅんきちゃうけど、実際にやったら――
ミキちゃんに嫌われる?
それはそれで何か嫌だ。でも、目覚めてしまった気持ちに拍車をかけることはできても、ストップすることはできない。
ミキちゃんの一挙一動が気になって仕方がない。
ミキちゃんは俺より少し背が低く、ちんまりとして可愛い。
華奢な手足。中学生と言っても通じそうなあどけない美少女だ。普段はメガネで隠されていて、誰も気づかないだけだ。
いや、気づいてるやつはいても、告白までは至らないのだろう。もし告白するやつがいたら、俺は顔面パンチを喰らわせてそいつを生け贄にすることだろう。
ミキちゃんが言う。
「こないだのユウ、いつもと違って別人みたいだったけど、なんかかっこよかったよ」
ズキューンと胸を打たれたような衝撃が走る。ね、ね、ミキちゃん、今、俺のことかっこいいって言ったよね?言ったよね?!
俺はその一言でご飯三杯は軽くいける、と思った。
百合子の一件は、ずるっ子なしの勝負ということになったので、表面上争い事もなく、クラスは順調にいっていた。
俺は相変わらずミキちゃんを見ていた。
ミキちゃんは面倒見がよく、クラスメイトに一目置かれているようだ。
みんなの相談に親身になり受け答えしている。俺はミキちゃんのそんなところも好きになった。
そう、ミキちゃんを好きになったのだ。
同性愛はよくない、と自分自身に言い聞かせていたが、ネットで調べれば調べるほど、同性愛だろうと愛があれば大丈夫、という認識になっていく。
あとはミキちゃんがどう思うか次第だ……
電車に乗る前に、つい、我慢できなくて、後ろから豊満なミキちゃんの胸を揉みしだいた。
ほんの出来心だ。
ミキちゃんは、口では怒っているものの、本気で怒ってはいない様子。
俺はミキちゃんにキスしたい衝動をぐっとこらえて我慢した。
女の子同士ならふざけあいということで片付いてしまう。
その範疇に納めることにした。
キスなんて、今までの俺にはない衝動だった。今までぼっちで生きてきたし、いつも自分の足元だけを見て歩いてきたから、当然のことだろう。
妹のいちゃつく姿もだぶって、押さえきれなくなりそうだった。