あんみつ
「やめろよ!」
その声に二人がハッと振り返る。
「そんな争いして何が楽しいんだよ!」
「ゆ……ユウ……」
「私だって好きで争ってる訳じゃない!」
答えたのは瑞季だ。
「男子が勝手に始めたことだし、正直迷惑してるんだよ?!」
瑞季が更に続ける。
「それに乗っかろうとする百合子がおかしいのよ!」
「なんですって?! そっちこそ、受けて立つってこないだ言ったじゃない!」
「あれはその場の空気というか、なんて言うか……」
瑞季もはっきりしない。
俺はそんな二人に言う。
「二人が辞退すれば済むことじゃねぇの?」
「そ、それは……」
「……確かに……」
「「でも、この人に負けたくない!!」」
二人揃って声をあげた。
あー、はいはい、そうですか……。
いつもの俺ならここで引き下がっていた。
でも、今日は違った。
「二人が無意味に争ってると、俺らも迷惑なんだよ!んなこともわかんねーのかよ!」
俺の叫び声というか、物言いに驚いている二人。
しまった、また俺って言っちまった。
「ユウ……『俺』って……」
「今までのユウじゃないみたい……」
「俺は怒ってるの!だから、『俺』になっただけだよ!」
ふと、二人が笑い始めた。
「あはは、そうだよね!」
「うぷぷ、そうだね!」
「あたしら、なにやってるんだろうね」
「競争とか言うから、ついむきになっちゃった」
俺の思いは通じたらしい。
が、
「パシリはなしで競争といきますか!」
「うんうん、それなら受けて立つよ!」
次の瞬間にはこれだった。もう好きにして……
◇
学校が終わり、俺が帰ろうとすると、呼び止められた。
百合子だ。
「今日瑞季と一緒にあんみつ食べに行くけど、一緒に行かない?」
どうやらクラスの女子みんなが行くらしい。
空気の読める男な俺は、ミキちゃんと顔を見合せて、行くことにした。
学校近くの甘味処は、クラスの女子で埋め尽くされた。
あんみつなんて物を食べたことがない俺だったが、食べてみるとうまい!! 女子舌になっているせいもあるかもだが、これで女子がみんな甘味処が好きな理由がわかった気がする。
甘味処を後にすると、みなそれぞれの家へ帰っていく。
俺はミキちゃんと電車に乗った。
「それにしても、びっくりしたよー!」
「なにが?」
「ユウがあんな風に物を言うところ、初めて見たよ」
あー、うん、初めてでしょうね。ユウっていう子はどうやらおとなしいキャラのようだから。
でも、俺は我慢ならなかったんだ。
争って人をパシリにするとか、どれだけ荒んでるんだよ! って感じ。
そりゃ、俺だってパシリくらいはしたことがある。まだ小学生の頃、俺がぼっちになる直前くらいに、いじめにあい、その時にパシリとして使われた。金が足りない分は立て替えとけって、いつも金をくれもしないのにそうやって俺を駄菓子屋にパシらせていた。
俺は小遣いでは足りなくなった分を母の財布からくすねていた。
中学に入ってからは徹底的に空気に溶け込むようにしていたから平気だったけど、あれは今でも軽くトラウマだ。
黙りこんだ俺にミキちゃんは話しかける。
「ユウ……なに考えてるの?」
「いや、パシリとか、いい思い出ないな、と思って」
「ユウ、パシリやったことがあるの?」
「小学生の頃ね……」
「そっか、だからユウは我慢出来なかったんだね」
「うん、よくないことだしね」
うんうん、とミキちゃんはうなづいて見せた。
家に着いた。先日母に頼んで合鍵を作ってもらったから、鍵をいちいち鉢の下から取り出さなくてよくなっている。
鍵を開けようとすると、既に鍵は開いていた。
ユキノか。無用心だから、鍵は閉めるように言わなきゃだな……と、俺はリビングへ入った。