百合子
翌日になっても百合子のアタックは続いていた。
でも、俺はそれをうまいこと流して聞いていた。
ミキちゃんの言う通り何が目的なのかがわからなかったからだ。
授業中にもこっそり手紙が回ってきた。
「今日もお昼一緒に食べようね♪」
百合子からの手紙だ。
俺は
「今日はミキちゃんに相談事があるから、パスで」
と返事をする。
「一緒に相談に乗るよ♪」
と返ってくる。
「いや、ミキちゃんにしか話せないことだから」
すると
「わかったぁ。今度ユリにも相談してね」
と返ってきた。
少しホッとして授業に専念する。歴史の授業も、そんなことまで習うの?というレベルで難しい。これは本格的に塾かなにかに行かねば、勉強ぼっちになる。帰ったら母に相談してみよう。
お昼ご飯をミキちゃんと食べる。
今日の手紙でのやり取りをミキちゃんに話す。
すると、ミキちゃんが言った。
「なんかね、今、クラスを半分にわけた状態らしいんだ」
「半分に?どういう意味?」
「人気投票っていうのがあってるんだって。その中心になっているのが百合子と瑞季なんだって」
「つまり?」
「百合子と瑞季、どっちが人気でるか勝負してるらしいの」
なるほど……だから記憶がない俺に取り入って票稼ぎをしようというわけだ。
瑞季側の人間は俺の周囲にはいない。
「でも、なんでまた人気投票ぐらいでそんなにむきになってんの?」
「くらい、じゃないよ。これで負けた方のグループは勝った方に今年中パシリに使われるんだってよ」
「なんでまたそんな厄介なことに……」
「私も今日詳しく聞いただけだからわからないけど、男子の一部が始めた投票がここまで拡大しちゃったんだって」
「ふうん。ミキちゃんはちなみにどっちなの?」
「私は瑞季派かな」
「なんで?」
「百合子みたいに強引に仲良くしてきたりはしないから」
なるほどね。ということは、百合子の強引なやり方に不満を持つ同志は結構いるということだろう。それにしても俺が記憶喪失になったから近づくとか、最低な女じゃねぇ?
俺はミキちゃんと同じで瑞季側につくことにした。
瑞季は全く持ってマイペースで、今回のこともあまり気にしていないようだった。
でも、今年度中パシリとは……今は7月だから、あと9ヶ月もあるじゃねぇか。
ミキちゃんの話によると、夏休み直前日が投票日らしい。
馬鹿らしい。やってられっかよ!!
授業中、百合子からの手紙が回ってくる。
「今日帰り道、一緒にあんみつ食べて帰ろ♪」
俺はすばりと切り返した。
「いきません。しつこくしないで」
これには百合子もさすがに落ち込んだらしく、ため息をつきながら手紙を読む様が後ろの席から見てとれた。
休み時間にミキちゃんのところへ行きそのことを報告した。
するとミキちゃんは
「すごいね! 百合子にズバッと言えちゃうなんて、ユウじゃないみたい」
あぁ、そうですよ。俺の中身は今は俺でユウじゃないっすよ。
「百合子もこれで諦めたよね」
俺が言うと、ミキちゃんはうんうん、とうなづいて見せた。
それにしても、男子の一部で始まったことがここまで大きくなるなんて……女子は恐ろしい。
そのまま数日が経った。
その時、俺は次の音楽の授業のため、教科書を取りに自分の机まで戻っていた。
すると、百合子が瑞季と言い争いをしていた。
「そっちこそ、今月にははっきり白黒つけさせてもらうからね!」
「白黒って、そんなことでクラスメイトをパシリに使おうなんておかしいじゃない!」
「それは負けるのがわかってるから、そんなことを言うのよね?!」
「はぁ? 勝つのはうちらだけど? うちら別にパシリとかいらないし?」
「舐めてかかってんの?」
「そっちこそ、舐めてんじゃないよ!」
見るに見かねて、俺は口を挟んだ。