プロローグ
よろしくお願いいたします。
俺は平凡な会社員だ。
中の中で三流大学を卒業し、中の中の会社に入社した。
独り暮らしもきままなもので、すっかり近所のコンビニに入り浸る日々を送っている。
愛読書はコンビニで立ち読みするスロット雑誌。
装備はスエットの上下だ。
こんな俺の日常は、朝7時半ギリギリに起き、パンをくわえるところから始まる。
バスが着くまでにパンを口に押し込み、8時半の始業に間に合わせる。
だらだらと仕事をして、昼休みはいつも販売にくる弁当屋から買う。500円にしてはなかなか内容の濃い弁当だ。
そして昼からもだらだらと仕事をする。
ストレスも特にない毎日。
生きてる時間=彼女いない歴の平々凡々なサラリーマンだ。
休日は少ないお金を持ってスロットに出向く。
勝つことは稀だったけど、俺の人生は充実していた。
悲劇はこの日、12月24日に起こった。
俺はサンタクロースも関係なく、いつもどおりの日を過ごし、スロットに出向いた。
この日は実についていて、ジャグ連を11回もくらって(スロットのジャグラーという機種。連チャンすれば儲かる)うはうはな気分で、一度換金して、七万円をゲットし、そのままミリオンゴットにチャレンジした。チャレンジしてすぐに天国モードに突入、あっという間に三箱積み上げ、心行くまま閉店までスロットを打ち続けた。
この日、勝った額は実に十四万円。
俺はほくほくしながら帰り道を急いだ。
あまりにほくほくしていて、車の接近に気づいていなかった。
クラクションを鳴らして突っ込んでくる車。俺は避けることもできず、車に撥ね飛ばされた。
遠くなる視界には、運転手であろう男性が、「大丈夫ですか?!」「しっかりしてください!」と言っていたが、その声も遠くなり、やがて意識を失った……んだと思う。
次に目が覚めたときには見知らぬ天井が目に入った。身体が軽い。俺は死んだのか……
ガバッと起き上がると、まず手に違和感を覚えた。
俺の手、こんなに細かったっけ……
次に身体の異変に気づいた。
俺が着ているのはピンク色の可愛らしいパジャマで、身体は――
――身体は、女の子になっていた。
階下から母親らしき声が聞こえる。
「ユウ、いつまで寝てるの? 遅刻しちゃうわよ?」
俺の頭は混乱した。ユウというのは俺の名前か?俺はどうしてここにいる?どうしてこんな格好をしている?
母親は部屋まで上がってきて言う。
「いい加減起きなさい!」
「あ……はいっ」
声も女の子の声だ。
意味がわからない。わからないまま、俺は制服に着替え、階下の食卓でご飯を食べた。
「ミキちゃんが迎えに来たわよ」
と言う母の一声で、急いで飯をかっ喰らう。
「全く……もっとちゃんと早く起きなさい」
小言を言われつつ、俺はカバンを持って家を出た。
ミキちゃんと言われた子が門扉の前で待っていた。
「待たせてごめん」
と言うと、
「ううん、大丈夫」
と言って歩き出した。
俺はついていくしかない。
「どうしたの?」
後ろを振り向きつつミキちゃんが言う。
「なんでもないよ、行こう!」
俺はきっと生まれ変わったんだ。それしかない。
ならばこの身体で生きていくしかないのだ。
元の身体にもいつか戻れるかもしれないし。
気負わずいこう。こんなときに冷静になれる自分を誇らしくも思ったのだった。