派遣の前の杯
華麗な花火の様に爆砕したMIG25戦闘機はこれで残り4機だ。
1番機の動きはまるでスケートの様に滑らかな、機動で敵機を次々と追撃する。
キラッと日本海黒潮から光った逸れたMIG25に合わせて操縦桿を前へ倒し、HUDに表示された敵機にロックオンシステムが
作動する。
急降下と同時に強力磁石のような感じに、後ろに引っ付いて視界周辺が徐々に黒く染まっていく・・!
"コウゲキ"とHUDに表示されたら迷いなく誘導弾発射機を押した。
射線でキャノピー周辺を白煙で包むと誘導弾は敵機に着弾し、日本海には小さな水柱と炎が立った。
<<私は3機撃墜して残りはさっきの。戻りましょう>>
可愛らしい声で耳元の無線は反則。
ただ、短時間であんなに落すなんて・・ね。
1番機の後に着いて、二六○航空隊基地に帰還しようとする。
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――二六○海軍航空隊基地 格納庫
格納庫は個別で大変立派なカマボコ型。
時間はすでに午後16時とまだ明るい。
締め切って隙間から入る赤い夕日の光と一緒に、零式艦上戦闘機三七型。NATOコードネームで"SeaEagle"
海鷲と呼ばれていた母さんの背中を洗うかのように、胴体にチョークで下書きをしていた。
自分のマークをつけろと・・。
自分はまだ若く、それにまだ未熟。
母さんの強さを受け継ぐ感じも欲しい。
"若鷲"にしよう。
美術の成績は悪くはない。むしろ得意教科だ。
手にしたチョークで慎重に描いていく・・。
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「ふう・・」
5時間経過していたが思った通りにかけて満足満足。
鷲を描いた。
色までは描けなかったが、下書きっぽい感じでまさに若い感じ・・?外側を黒い線でやれば完成かな。
ついでに戦闘機の塗装も零戦52型タイプ。
主翼、尾翼は濃緑で機首は黒色。
胴体も同じ色。
「お疲れ様。翔一君」
「あ・・」
WW2米軍飛行服に身を包んだ美夜さんがトレイを両手で持っていて、格納庫の人員扉を閉めると俺の方に
足音無しの歩きで近づいてくる。
「私が私が作ったコーヒーとクッキー。あっちで食べよ?」
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場所を移して格納庫の端っこにあった、コンテナの上で夜食を取る事に。
両者正面で尻を付けて座り、お皿の上には焼きたてのクッキー。トレイの上に薄いアルミ製のコーヒーカップ。
湯気が立つ。
「さっきの敵機はアメリカ亡命の為で重要書類を日本に置いたの」
だいぶ明るくなった感じかな?
喋りやすいしたまにはこっちから喋ってみようか。
「で、5時間前ワルシャワ機構軍がNATO軍に奇襲をかけて欧州を進行した・・」
「え・・?」
「本当よ。関東軍はソ連国境に戦車群を配置して厳重警戒。駆逐艦は日本海、北海道、樺太、北方に展開して警戒」
ペイント作業中にこんな自体が・・。
「原因はソ連の社会主義思想かも。簡単に言えば資本主義から人民を救うための戦争かもね」
黙って温くほろ苦いコーヒーを口に入れるとその苦味は舌を通じて脳を刺激してくれる。
あんなに甘いクッキーは何だか美味しくない感じがした。
緊急事態に焦りも驚きもしない美夜さんはすでに予測として知っていたのだろう・・。
「そして今日は最後の杯。私と貴方はドイツに派遣されてソ連軍と戦うの」
つまり死か・・。
ゆっくり四つんばいになり近づいてくる美夜さんは、俺を静かに倒す。
銀髪が左右を包み、頬は冷たい手のひらが。
瞼を閉じ生暖かい息が顔にかかり、柔らかい唇が。
あえて少し口を開けると舌を入れてきた。
「んふっ・・」
口内一杯に広がる甘い味・・。
抑えていた欲は耐えられずそれを抑制されていた分だけ美夜さんを強く抱き締め、自ら舌を絡める。
キスが終わり瞼を開く。
頬を赤く染め、トロリと銀の糸が繋がり美夜さんの舌に繋がっていた。
「ありがとう・・翔一君」
「え?ええ、どうも・・」
「あ・・」
恥ずかしながらその場から離れようとコンテナから飛び降り、人員格納庫の扉から出て行く――