ノーハート外伝~黒田のその後~
※注意!※
必ず、ノーハート~感情を持たない少年~の本編の後に、読んでください!!ネタバレ要素が含まれてます!!
「っと、もう朝か。」
俺はいつも通り、5時半に目が覚める。外は一面の銀世界。今日も俺は、走り出す。
この地に住み始めてもう5年になる。ここはかなり寒く、1年の半分ぐらいは冬だ。そして冬はほとんど毎日、雪が降っている。俺は雪が好きだ。正確にいうと雪が好きな、俺の彼女、佐竹のことが好きだ。佐竹は8年前、病気で亡くなった。だが、俺は佐竹がいなくなったなんて一度も思ったことがない。佐竹はいつも、俺の心にいてるって信じている。たとえ、いつだって…。
いつものようにジョギングしていたら、一人の少女が橋にもたれかかっているのを見かけた。その少女の目はうつろだった。こんな早い時間に何しているのだろうと思っていたら、少女が橋の柵をよじ登った。間違いない、自殺するつもりなのだ。普通の人なら大抵あわてるだろう。だが、俺は違う。ノーハートだから焦りというものが存在しないのだ。こういう時、ノーハートでよかったと思う。俺は落ち着いて声をかけた。
「死ぬのか?」
「!!」
その少女の動きが止まった。ただ、動きが止まっただけで、戻ろうとしない。
「自殺なんてするもんじゃねえぞ。」
「………あなたに何がわかるのよ。」
「さあな、お前のことなんかわかるはずねえだろ。」
「じゃあ、なんで私が自殺するのを止めるの?」
言うまでもない、答えは決まっているからだ。
「単純だ。自殺しても何の利点もないからだ。お前にも、お前にかかわっている周囲の人々も。」
その少女はそれでも戻る気はなし。ただ、柵をつかんでる手は震えていた。
「だけど、戻ったって利点なんてないじゃない!あの人がいないこの世の中でどう生きていけっていうの!?」
俺は、その言葉を聞いてにやりとした。これだ。この言葉を待っていたんだ。
「あの人…?誰のことだ?ちょっと聞かせてもらおうか。」
「あなたには関係ないわよ!!」
「いや、俺がお前に声をかけた瞬間から関係者になっている。せめて自殺の理由ぐらい聞きたいもんだ。だから少し、戻ってきてくれないか?」
「いやよ!!」
「それじゃあしょうがねえ、無理矢理にでも連れて行くか。」
「えっ!?ちょっ!?キャァ!!」
俺は少女を抱きかかえ、俺の家に向かった。佐竹の怒りに満ちた声が聞こえてきそうだったが気にしない。あとでいくらでも反省するから許してくれ。
「はなせー!!はなせー!!」
「お前の声、かわいいな。」
「なっ……///」
よし、黙った。素晴らしい効果だな、これ。
とりあえず、俺は自分自身の家にたどり着く。少女は黙っていたので楽だったな。俺は少女を玄関でおろす。
「ちょっと!なにするつもりなの!?」
「お前に聞きたいことがあるから聞くだけだ。」
「じゃあ、なんで家なんかに!?誰の家よ!!」
「俺の家だ。ここが一番、人目にくれず聞きやすい場所だからな。」
それにしてもうるさいな。近所のことも考えてくれ。
「あんたの家なの!?……ハッ!!まさかいやらしいこと考えているわけじゃないでしょうね……?」
「まさか、俺は子供に手を出すような奴じゃない。」
「私、子供じゃない!現在高2なんだから!!!」
「自殺しかけるような奴はどう考えたって子供なんだよ。」
「…………。」
「ついて来い。」
俺は玄関から上がった。その少女は何も言わずに俺についてきた。正直、少し意外だ。
「ここに座っとけ。今、お茶入れてくるから。」
俺は少女をリビングの椅子に座らせ、紅茶を作る。できたところで持っていき、俺は少女の反対側に座った。
「さて、そろそろ教えてくれるか?あの人ってやつのこと。」
まあ、言うとは思ってはない。だが、時間はあるんだからゆっくりすればいい。だが、帰ってきた返事は意外な言葉だった。
「……………わかった。じゃあ、話すわよ…。」
少女は話し始めた。
「私、彼氏がいたの。やさしくて、かっこよくて、また、自分を含めた人すべてに厳しくて。私はそんな彼氏が大好きだった。そんな彼氏だったから周りからはモテモテだったの。だけどね、1週間前、彼氏は刺されたの。ナイフで。犯人はは私の同級生。告白を振られ、刺したらしいの。そして、その彼氏を毎晩看護してたわよ…だけど、今日の午前5時11分、彼氏は……息を…ヒグッ!……ひき………ウッウッ…。」
最後まで聞かなくてもわかる。おそらく死んでしまったのだろう。似ている。あまりにも。俺と佐竹もそんな感じだったな。俺少女の肩に手を置く。
「事情はよくわかった。ところで、俺には彼女がいるんだ。連れてくるから少し待っててくれ。」
少女はまだ泣いている。まだ事実を受け止めきれていないのだろう。俺はそんな少女を置き去りにしながら佐竹の骨壺を持ってきた。
「さて、顔を上げてくれないか?俺の彼女を紹介したいからさ。」
少女は静かに顔を上げた。そして驚いている。まあ、彼女を連れてきたといっても人を連れてきたわけじゃないからな。
「お前、これが見えるだろう?」
俺は骨壺を指差しながら言った。少女は黙ってうなずいた。
「こいつが俺の彼女だ。」
彼女は心底驚いた顔をしていた。泣きはらした目を大きく見開いている。
「わかったか?お前だけがそんなつらい目にあっているんじゃない。俺もお前と大体同じことがあった。自分一人がつらい目に合っているなんて思うな。」
その少女は小さい、でもはっきりとした声で聞いてきた。
「どうやって立ち直ったの?」
「おまえ、彼氏が死んでいなくなったって思っているか?」
少女は少し間を開けてコクリとうなずいた。
「じゃあ、その考えを改めろ。人は死んでもいなくならない。常に心にいる。お前は、彼氏との思い出はたくさんあるんだろ?それが、心に大切な人がいるってことだ。」
少女は震えている。
「よし。お前が彼氏に言いたかったことを今言え。大丈夫だ。彼氏は常に心にいるんだ。お前の言葉は必ず彼氏に届く。」
少女は黙ったままだ。そして少しずつ、声を上げていく。
「優輝君……。優輝君……。ありがとね。私を助けてくれて。あなたがいてくれたから私は生きてこられたんだよ?本当に、あなたのことは大好きだった。そんなあなたの彼女となってとてもうれしかった。楽しかったよね。遊園地にも行ったし、映画館も行ったし、お互いの家にも行ったことがあるよね。今でも覚えているよ。……優輝……君………、私……あなたに………あえて……よか………った……。…………ありが…………とう。」
そして、少女は声を上げて泣いた。その後、泣きつかれ、眠ってしまった少女を俺は静かに抱き上げ、ベッドにそっとおろした。
少女が起きたのは日がもう暮れ始めている午後5時ぐらいだ。その少女は大分吹っ切れたようだ。
「あ……あの……。」
「なんだ?」
「ありがとう。大分吹っ切れた。」
「そうか。何よりだ。」
もう、この少女は大丈夫だろう。自殺なんかもうさすがにしないだろう。
「山峰心。」
「ん?どうした?」
「私の名前。あなたの名前も教えて。」
「俺か?俺の名前は黒田零斗だ。」
そういえば、佐竹とおなじ名前だ、すごい偶然だな。
「黒田君か。じゃあ、私、帰るから。」
「おう、わかった。」
少女は玄関で下靴をはいた。履き終わって立ち上がったが動かない。
「どうした?」
「…………また。」
「また?」
「また、この家に来ていい?」
「ああ、いいぜ。」
「わかったわ。じゃあね。」
そして、彼女が最後に言った言葉もきちんと聞こえた。あいつは「ありがとう」って言ってた。
「佐竹」
山峰が帰った直後、俺は佐竹の目の前に座った。
「やばいな。俺、山峰のことが好きかもしれないな。」
佐竹の鉄槌が脳裏に浮かぶ。俺は苦笑いするほかに何もなかった。
―さらに、数年後黒田と山峰は永遠に結ばれることになる。どちらも、世界で二番目に愛してる人と結婚したのだ。
最後までご愛読、ありがとうございました!!!