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滅びの国のオリーワ  作者: niwatoco
8/8

息子は母の為に、母は息子の為に。

 メリッサの「私はこのシャトラナで生きていきたい」という願いの言葉を聞き

自分の役割と存在意義を見出したアルニカはそれを糧に外交先へ向かう事になる。


 そこは最も苦手とする、旧学友グロリオサ姫のいる

魔法都市「アルストロメリア」だった。


 一方、シャトラナに残っているメリッサ達はアルニカが戻る時に

喜んでもらえる様ある作戦を立てているのだった…?

 アルニカがシャトラナを出発した翌日、

メリッサは朝からシャトラナ城の書庫に籠り目にする書物の山に心躍らせ

時間が経つのを忘れ読みふけり、気になるものに関してメモを走らせ

夜は自宅でそれらをまとめ上げると翌日の朝にはまた書庫に戻り…、

を数日繰り返していた。


 そして三日目の正午前、心配になったオレガノがメリッサに声を掛けた。


「メリッサ様、今日も昼食を抜かれるおつもりでしょうか…?」


 読書に夢中になっていたメリッサは、声を掛けられるまで

オレガノの気配に気づかず我に返って本を閉じた。


「一食くらいは時々診察の時間が押して抜いちゃうから大丈夫よ。

明日からは仕事に戻るし。

でも、ローズマリーに知られちゃうと怒られるから内緒にしていてね」


 笑顔で秘密事をお願いしながら、メリッサはオレガノの手に触れた。


「結構良くなってきたみたいね。でももう少しあの薬を塗り続けて様子を見てね」


 メリッサの作った薬で、仕事で荒れていたオレガノの手は

顔と同じ色白な手に戻り始めていた。


「メリッサ様、有難うございます。…そういえば、私をここにお呼び頂いたのは

何かあってでは…?」


 オレガノの疑問にメリッサは本題を思い出し、

オレガノの手を握りながら少し含み笑顔で答えた。


「そうそう。今日はシラー王妃のお身体も診るから、

その時にオレガノさんも一緒に来て欲しいの」

「私も…ですか?」

「うん、少しお願い事があって。

またここに十五時少し前に来てもらえないかしら?」


 オレガノはメリッサの謎のお願い事に首を傾げながらも、

それを了承し書庫を出て行った。



 再び書庫に独りとなったメリッサは膨大な書物がひしめき合う部屋を見上げ、

軽いため息をついた。


「アルニカ様…。あなたはどれもこれも読破されているの…?」


 ここ数日、メリッサの手にした本の最終ページにはどれもシラー王妃の作成したであろう色褪せた古い栞が挟まれていたりアルニカが走り書きしたであろうメモなどが挟まれていた。


 メリッサは、書庫の広さからアルニカがここで過ごした時の長さを想像し、

アルニカの立場や環境を改めて考えていた。


「……貴方こそ。いつから、どれだけの長い時間をここで一人過ごしていたの?

この知識を生かす事の出来る人…って、私よりも、遥かに貴方の方が……」




 十五時前、メリッサは約束通りにやってきたオレガノと合流し、

シラー王妃のいる庭園へ向かった。


 そこにはいつもの様に本を読むシラー王妃、

その横でシラー王妃に懐いて撫でられているマンドレイク、

あーでもない、こーでもないという話をしているローズマリーとフェンネルの姿があった。


「…………」


 妙な集まりに不思議そうにしているオレガノを気にもとめず、

メリッサはシラー王妃の傍へ駆け寄った。


「シラー様、またお身体を診させて頂きますね」

 メリッサに気付いたシラーは本を閉じ、身体をこちらへ向けた。

「今日も宜しくね。メリッサ」


 軽い症状を聞きながら診療メモを見返し、慣れた様子で

そのままメリッサはシラー王妃の診察を始めた。


 オレガノはメリッサの診察を横目に、

今度はローズマリーとフェンネルのやり取りに視線を向けた。


「これで毒見は完了だ、もういいぞ。ローズマリー」

「ありがとーフェンネル!」


 ローズマリーはフェンネルの了承にテーブルに広げていた料理を人数分、

小分けにまとめ並べ始めた。

それと同時にオレガノの視線に気が付くと、笑顔で説明を始めた。


「これは収穫祭用の新しいメニューなんだけど、

シラー様向けに少しアレンジして先行で作ってみたの。オレガノも食べて行ってね!」


 ローズマリーは手に持ったメモ書きを、シラー王妃を診察している

メリッサに見せながら自慢げに話した。


「こっちはタンパク質多めに、こっちはメリッサの処方した薬草を少し混ぜて。

書かれていた通りにアレンジしたけど、まあまあ味も元と大差なかったから大丈夫よ!」

「ありがとう、私も今日は久しぶりのローズマリーの料理楽しみにしてたの!」


 メリッサは並べられて行く料理を横目に見、

嬉しそうに鼻歌交じりで診療カルテの書き込みを速めた。 


 それを少しつまらなそうにじっと見ているマンドレイクを見て、

にやにやしながらローズマリーは植木鉢を取り出した。


「マンドレちゃんには、これ!新しい肥料たっぷりの土~っ」

「おおお!分かってるな、ローズマリー!」


 暖かな庭園で和やかなやり取りをしている中、

メリッサはフェンネルに目配せし、それにフェンネルは無言で頷いた。


「シラー様。今日は更に少しいけそうですね?

フェンネルさんにサポートを頂いて、大丈夫。」


 メリッサの発言にオレガノは不思議そうな顔をしていたが、

フェンネルはメリッサの言葉にそのまま従いシラー王妃の前に膝づき、手を差し伸べた。


「いつもありがとう、フェンネル騎士団長」


 シラー王妃はフェンネルの手に自分の手を重ね、

フェンネルはシラー王妃の肩をそっと支えるとシラー王妃は自ら静かに

立ち上がり、フェンネルと共に歩き出した。


「ええ……っ⁉」


 オレガノは驚きのあまり、声を張り上げてその場に固まった。

今まで生活の殆どを車椅子で移動をしていたシラー王妃が、

フェンネルに手を借りてはいるが自分の足で歩いている姿を

初めて見たからだった。


「シラー様…?」


 驚いているオレガノに、シラー王妃は微笑んだ。

「オレガノ、私とても練習したの。この子たちの力を借りながら」


 オレガノは咄嗟にシラー王妃の横に駆け寄り、自分の手を差し伸べた。


「アルニカが戻ってくる日に、玉座の間であの子を私から迎えたいの。

今までいつもあの子はここに私を迎えに来てくれていたけれど…、

私からお帰りなさいを言いたいのよ」


 シラー王妃の気持ちに無言でオレガノは頷いた。

「俺が不在の日はオレガノ、シラー王妃のサポートをよろしく頼む。

これは国王陛下にも当日まで秘密なんだ」


「⁉」


 そしてふと気付いたオレガノはメリッサの方を見たが、

メリッサは横に首を振った。

「私じゃないわ。シラー様が人知れず努力をしてきたのよ。

私は処方して少し力添えしただけ」


「あの子が自分の時間を削ってまで、私を良くしたいと願ってくれて皆も

それぞれ助けてくれたのよ」


 シラー王妃が小さき庭園の中でひそやかにしてきていたであろう事を想像し、

その言葉にオレガノは音もない涙を流していた。


「貴女も、昔から私を気遣ってくれていたものね。ありがとう」

シラー王妃は微笑みながらそっとオレガノの頬を撫で、涙を拭った。


「ちなみに俺は、シラーの筋肉を鍛えるダンベル替わりだぜ!」


 オレガノの涙を引っ込ませたのは、

シラー王妃の肩に乗る自慢気なポーズを決めるマンドレイクだった。


「少しマンドレちゃんは、やせた方がいいわねー」


 シラー王妃は自分の肩に乗るマンドレイクにニコニコと答えた。

「ちょっと、マンドレちゃん!『様』を付けてっていったでしょう?」


 メリッサが慌ててマンドレイクに注意するが、

横から意外な人物が突っ込みを加えた。


「…メリッサ。ローズマリーも俺の事をいつの間にか、

呼び捨てにしているんだが…」


 フェンネルが真面目にぼやいたせいで、その場にいた皆が大笑いしてしまった。


「え?だって家が近所だったんだもん」

その理由に、はあっ?というフェンネルの顔に更に皆が笑った。


「さあ、ローズマリーの用意してくれたお食事をいただきましょう? 

私の事は内密に、ね」



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