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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第二章 「その命を懸けて」
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第十五話「茶番劇の真相」

 トベラはの高笑いに、ユヅルハの民は追い詰められた小動物のように身を震わせる。

 いくらなんでもやりすぎだとセンが声を出そうとした時、彼の頭に声が響いた。


『セン殿、セン殿。聞こえますかな?』


「なんだ、この声……トベラ団長か?」


『その通り。お久しぶりです。昨年の掃討作戦では世話になりましたな。その時にセン殿と同期した霊波の記録が残っていましたので、術式での交信ができるようです』


「なるほど……」


 センは周囲を警戒しながらシトリたちと距離をとる。

 交信の術式はどれも微妙な霊力のさじ加減が必要になるため、彼は直接言葉を口にしなければうまく交信することができない。トベラと交信していることを誰かに知られるわけにはいかないのだ。


「大体の事情は察したが、詳しく説明してくれ」


『まずは御安心を。ご存知の通り、まわりの飛竜騎士は私の術式の傀儡であり、住民に危害を加えることはありません。私も用件がすめば速やかに退きあげます。それと封官長はこの件での協力者です。事情をすべて理解した上で、一芝居うってもらいました』


「だとしても、ちょっとやりすぎなんじゃないか?」


『これは封官長の提案です。例の神官の娘をこちらの計画にのせるには、これくらいのことはしなければならないと言うものですから。なんとも見事な覚悟ですな』


「なるほど。それで、この後はどうするんだ」


『私が神官の娘を挑発します。お前は神官として不適格だ、と。当然、相手は反発するでしょう。そこで私が、ならば奉星の大祭で実力を示せと返します。今回の計画において、皇都は相当の結果を出せればユヅルハの直隷地化を断念すると決定しておりましてな。もっとも、結果が出せなければすぐさま直隷地化を断行するともしておりますが』


 そういうことか、とセンはうなずく。

 この状況ならシトリもその条件をのまざるをえないだろうし、住民たちもそれで納得せざるをえない。

 よくもまあ一晩でここまで仕込めたもんだとセンはリクの手際の良さに感心した。


「それにしても、あんたがこんなあからさまな悪役をやるとはねえ。晴天の守護者と謳われたあんたが」


『これも皇国のためですからな。それにこういう悪役も案外楽しいものですぞ。さて、それでは芝居にもどりますかな』


「はっはっはっ! 愚かな愚民どもめ! 我輩にたてつくから痛い目を見るのだ。さあ、神官を僭称する小娘よ。これでもまだ貴様はこの島を守るというのか。それだけの力が自分にはあるとうそぶくのか!」


 シトリは何も言い返せず、空を舞う飛竜騎士団を見上げることしかできなかった。

 この場にいた住民たちは次々とひれ伏し、お許しを、お許しを、と惨めに命乞いを始める。

 その様を見て、センは憐みすら感じていた。


「いいかげん認めたらどうだ。お前にはこの島を守る力などないということを!」


「たしかに、私には、力がありません。でも、私は、ユヅルハの神官です」


 シトリは祭器の槍を握り、トベラをにらみつける。


「私には、ユヅルハを守る責任があります。私の命あるうちに、ユヅルハに手出しはさせません!」


「ほう、死を覚悟しても抗うか。くっくっく、いかにも蛮族らしい浅はかで野蛮な考えよ。貴様をここでひねり潰すのは容易いが、皇都はその寛大な心をもって、お前たちユヅルハの民にひとかけらの希望を用意しておる」


「どういうことですか?」


「貴様がユヅルハの神官に相応しいかどうか、六日後に行われる奉星の大祭で見極めると決定を下したのだ。もし相当の結果を出せたなら、ユヅルハの直隷地化は白紙にする。しかし結果を出せなければ、ただちに直隷地化を断行する。貴様にユヅルハの神官としての覚悟があるというのなら、この話を断りはせんだろう?」


「わかりました。私がユヅルハの神官であることを、必ず皇都に認めさせます!」


 見事に計画通りだ、とセンは心の中で手をたたく。


『うまくいきましたな。ではセン殿、私はこれで退却しますので、後を頼みますぞ』


「ああ。まかせてくれ」


 トベラは高笑いを上げながら空中を大きく旋回する。


「よかろう。ならば来るがよい。奉星の大祭へ。楽しみにしているぞ、はっはっは!」


 トベラは飛竜騎士団を引き連れ、北の空へと去っていく。

 全ての飛竜騎士が北を目指し、背を向けた。


 その瞬間。


 突き刺さるような衝撃音が、トベラの耳に響いた。

 直後、彼の近くを飛んでいる飛竜騎士が掲げていた皇都の御旗が地面に落ちた。

 御旗の中心には、複数の矢が刺さっていた。


「…………は?」


 驚きの声を出したのも束の間、トベラの両脇を固めていた飛竜騎士が同時に射貫かれ、地面に墜落した。さらに間髪を置かず、社を囲む鎮守の森から次々と矢が飛んでくる。


「な、なな、なんだこれはっ!」


 混乱しつつもトベラはとっさに防御の術式を展開させ、飛んでくる矢を防ぐ。


『セン殿! これはいったい、どういうことですか』


「……どうやら、ハメられたのはそっちだったみたいだな」


 なぜ気づかなかったのか、とセンは悔やむ。

 社に集まっている住民のほとんどは女、子ども、年寄りだ。

 男衆の姿が極端に少ないのはなぜだ。

 奴らはずっと機会をうかがっていたんだ。

 木々の影に身をひそめ、息を殺し、皇都の軍勢が油断して背を向ける、その時を。

 そもそもユヅルハの民が無様に命乞いをするなんてありえない。こいつらは囮だったんだ。

 包囲網が完成するまで敵の注意を引きつけることが、こいつらの役割だったんだ。


『ハメられた? それはどういう――』


「いいから逃げろ! 殺されるぞ!」


『え? ころ、えぇ?』


 混乱しつつもトベラは状況の不利を察し、速やかに撤退へ動く。

 だが、ユヅルハの民は逃さない。今までひれ伏していた連中は顔を上げると、悪鬼のごとく残忍な笑みを浮かべ、持っていた布袋の口を開き、天に掲げた。すると黄色く濁った煙が猛烈な勢いで立ち上り、社の空を瞬く間に煙で覆った。


「こいつら、煙幕まで仕込んでやがったのか」


 その間にも飛竜騎士は次々と撃墜されていく。ユヅルハの民も煙幕で視界を遮られているはずなのだが、その狙いは不気味なほどに正確だ。何か術式を発動させているのかもしれない。


「なんなんだよ、こいつらは……」


 愕然と立ち尽くすセンのそばに一人の幼子が現れ、あどけない声で言う。


「テンガイフーサツのジンだよ」


 どうやらユヅルハの民は『殺』の字を好んでいるらしい。


「ねえ」


 幼子はセンの袖をつかみ、つぶらな瞳を向ける。


「おまえさっき、だれとはなしてた」


 センの血が、凍りついた。


『セン殿、セン殿! ぬあああああっ! セン殿ぉ!』


「…………すまない」


『セン殿おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』




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