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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第二章 「その命を懸けて」
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第十話 「孤独な戦場」

 老婆が用意した昼飯をシトリとツナが食べている間、センは二人に背を向けて寝そべっていた。腹は減っているが、毒が入っているとわかりきっているものを食べる気にはなれなかったのだ。

 自分が腹を空かせているのに、まわりの連中はメシを食っている。

 センにとってこれほどつまらない時間はない。

 食事が終わり、シトリは老婆に礼を言う。


「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」


「お口にあってなによりですじゃ。またいつでもいらしてくだされ」


「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、何かお手伝いできることがあれば言ってください。なんでもしますよ」


「おやおやまあまあ。いいんですよ、そんな気をつかわなくても」


「いえいえそんなそんな。ぜひぜひ」


「シトリ。それなら豊作の儀式でもやったらどうだ。ここからなら社まで運べるから」


「お願いできる? じゃあさっそくはじめよっか」


 シトリはコロンを抱きかかえ、ツナと一緒に外へ出る。センもすぐ二人に続いた。一人でここに残っていると、何をされるかわからない。しかし外に出た瞬間、そこも安全ではないことを知った。家屋の周囲は、農具で武装した住民たちに囲まれていたからだ。

 センが感じていた殺気は、老婆のものだけではなかったらしい。

 そんな殺気に満ちた連中に、シトリは平然とたずねる。


「どうしたんですか、みなさん。こんなに集まって」


「たいしたことじゃありやせん。ここで神官様がお休みになってるって聞いたもんですから、不届き者が現れねえように見張ってただけでさぁ」


 両手に草刈り鎌を構えた男が陽気な口調で答える。


「そうでしたか。私のために、わざわざありがとうございます。では、みなさんへの感謝も込めて精一杯がんばりますね」


 シトリとツナは荒れ地同然の田畑に立つ。


「コロン様。お願いします」


 シトリは神おろし状態となり、祭器の槍を顕現して、ツナが歌う祝歌に合わせて精霊舞を捧げた。やがて、シトリを中心に霊気の結晶体である光の粒子が霧のように広がり、恵みをもたらす雨のように田畑へ降り注ぐ。その様子を見て、住民たちは歓喜の声を上げた。


「おお、始まったぞ」


「なんと神々しいお姿か。まさに神そのものだ」


「ああ、ああ、ありがたや、ありがたや」


「皆の衆、わしらも歌おうぞ! 神官様の御力になるのだ!」


 おう! と住民たちは呼びかけに応じ、祝歌の大合唱が始まった。もっとも、微弱な霊力しか発揮できない一般人が祝歌を歌っても効果はない。無駄にやかましいだけである。

 しかしどういうわけか、シトリから感じる霊力は高まりを見せていた。

 まるで、祝歌を通じて彼らの魂から霊力が流れ込んでいるかのように。

 あるいは、シトリが彼らの霊力を魂から吸い取っているのかもしれない。

 祝歌が終わり、シトリは祭器の槍を天に掲げる。霊災を浄化した時と同じように槍の先端に光が集結し、ほとばしって、周囲を光で包みこんだ。光が消えた時、シトリは仰向けになって倒れ、その腹の上にコロンが何の表情も浮かべずに乗っかっていた。

 ほどなくして、センは妙な胸騒ぎを感じた。


「おい。この畑で育ててるのって、まさか」


 その時。

 ボコッ! と地面の一部が盛り上がった。

 それを皮切りにいたる所で地面がボコッ! ボコッ! と盛り上がる。

 地中に埋まっているものが急成長し、地上へ現れようとするみたいに。

 しまった! と思った時にはすでに手遅れだった。

 それらは地面を突き破り、絶叫と共に現れた。


 ――ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!


 ――たぎるっ! 力が! あふれっ! とまらぬわあああああああああああああああっ!


 ――力が力が力がああああああがっはっはっはっはっはっはっ!


 ミタマグサ。


 それは見る者の心に反応し、見え方や聞こえ方が異なるという、ユヅルハの特産植物。

 そう。植物である。食用の。それと目が合っても、声が聞こえても、植物なのだ。

 植物の定義が崩壊しそうだが、考えてはいけない。深く考えると、先に精神が崩壊する。

 そんな怪物的植物が大量に現れたわけなのだが、住民たちは大喜びだった。


「ありがたや、嗚呼ありがたや、ありがたや」


「ちょうど収穫できる大きさだな。おーい、皆の衆。早いところ採っちまおう」


「神官様の分もとっておかねえとな。なにしろ大好物だから」


 住民たちは大絶叫の合唱をものともせず、せっせとミタマグサの収穫にとりかかる。引き抜かれるたびにミタマグサは歓喜に満ちた断末魔のごとき叫び声を響かせた。それはセンに虐殺の惨劇を連想させ、やつらの絶叫をさらに血生臭いものにした。

 センはその場に膝をつき、耳をふさぐ。

 しかし無意味だった。やつらの叫びは彼の頭に直接響いてくるからだ。

 くそっ! とセンは歯を食いしばって立ち上がる。


 ここで倒れるわけにはいかない。ここは敵陣のど真ん中だぞ。

 俺がここで倒れたら、ハチはどうなるんだ。

 こんなところで、倒れてたまるか。


 センはあらん限りの力を振り絞って己を奮い立たせる。


 この程度の死線など何度も越えてきたじゃないか。昨年の太陽の使徒掃討作戦に勝るとも劣らない苦境だが、それでも俺はあの戦いを生き延びた。だから今回だって、生き延びるんだ。

 勝つんだ。絶対に。


 それは誰にも理解されない孤独な戦いだった。

 何とどう戦っているのかはセン自身にもよくわからない。

 それでも敗北は許されないのだ。

 おそらく人生とは、そういう意味不明な戦いの繰り返しなのだろう。




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