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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第二章 「その命を懸けて」
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第九話 「幸せの形」

 ツナはシトリの様子を見る。彼女は畳の上で横になり、気持ちよさそうに眠っていた。コロンはそのかたわらで体を丸め、シトリの寝顔をじっと見ていた。


「シトリはおれたちのためにがんばってるんだ。おれたちも、がんばらないと」


「立派な考え方だ」


 この時ばかりはセンもそう言わざるをえなかった。

 自分たちを守ってくれるもののために、自分たちも戦う。

 それは自然な考え方なのだろう。だが、彼がいた里はそうではなかった。

 自分たちを守ってくれた存在が力を失くし、より強力な庇護者が現れればそちらを選ぶ。たとえ、それまでの庇護者を切り捨てでも。自分たちが、生き延びるために。

 これも自然な考え方だ。人間をはじめ、生き物とは自己の生存こそが至上命題なのだから。

 しばらくの沈黙の後、ツナがたずねる。


「お前の里の」


 と、その時。シトリが目を覚ました。


「……あれ? ここは?」


「シトリ。もう起きて大丈夫なのか?」


 うん、とシトリはうなずき、ゆっくりと体を起こして目をこする。


「私、また寝ちゃってたんだね。そうだ、霊災は? どうなったの?」


「無事に浄化できた。だから安心して休んでろよ」


「そう。よかった」


 ほっと胸をなでおろすシトリに、センは言う。


「今回の件で、お前たちの力はよくわかった。正直に言って予想外にたいしたもんだ」


「ふふん、そうでしょう、そうでしょう。なにしろ私はユヅルハの神官ですから」


「もっとも、俺とハチなら一瞬でかたづけられるけどな」


「またまたそんなこと言ってぇ。あれ? そういえばハチ様は? 気配は感じますけど、お姿がどこにも見当たりませんが」


「ハチならお前の目の前にいるぞ」


「え?」


 困惑するシトリに、センは右手の聖紋を見せる。


「お前たちが浄化をした時に出た光にあてられて、姿形を保てなくなってな。今はこの姿で休ませている。さっきまでのお前と同じように眠っているような状態だ。しばらく時間をおけば目を覚ます」


「ああ、そういうことでしたか。え、でもそれって、私の、せい、ですよね……」


「気にするな。そういう意図があったわけじゃないだろ。ただ、お前の力については詳しく知る必要があるだろうな」


 問い詰めるような目をセンがシトリに向けた時、シトリの腹が苦し気に鳴った。


「……まあ、まずはメシを食ってからにするか」


「そうですね。ではそろそろ社へもどりましょうか」


「おやおやまあまあ。でしたらうちでお昼を食べていってくだされ」


 センの背後をとるように、老婆が突然現れる。シトリとツナは老婆の出現に驚いたが、センはまったく動じなかった。殺気に満ちた強烈な圧迫感が、家屋全体を包んでいることに気づいていたからだ。

 しかし妙だな、とセンは思う。老婆からは微細な霊力しか感じない。なのでこれほど大きな圧迫感を生み出すことはできないはずだ。あるいはこれも、ユヅルハをめぐる特殊な風が関係しているのだろうか。御風柱を用いて住民同士で交信ができるように、ユヅルハの中だけで発揮できる特殊能力があるのかもしれない。


「いいんですか? 休ませてもらったうえ、お食事までいただいて」


「もちろんですとも。神官様にはいつもユヅルハを御守りしていただいていますから、せめてもの感謝の気持ちでございます。ただ……」


 一瞬、老婆の眼光がセンに向く。


「申し訳ありませんが、麦飯と根菜汁しかご用意できませんでした。獲物を仕留め損ねてしまいまして。精のつくものをと思いましたが、野郎、憎らしいことに勘が働くようで」


「いえいえそんな。麦飯も根菜汁も大好物です。ありがとうございます」


 空腹を訴えるようにシトリの腹が再び鳴る。


「あはは。ごはんの話をしてたら、もっとおなかが空いちゃいました」


「おやおやまあまあ」


 老婆は楽しそうに笑う。そんな二人の様子を見て、ツナは言った。


「どんなに貧しくても、それだけで幸せは奪えない。だからおれたちは戦えるんだ」


「そうか」


 笑顔を浮かべながら人の命を奪える連中が感じる幸せとはなんだろうか。

 どれだけ考えても、センには理解できなかった。




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