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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第二章 「その命を懸けて」
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第七話 「光と共に」

 光が消えた時、センは神おろし状態の姿となったシトリの姿を見た。

 昨日と同じく獣の耳と尻尾が生えており、それらはコロンの耳と尻尾を思わせた。

この変化はセンにも理解できた。神霊を宿すのだから、その特徴が術者の体に現れるのはよくあることだ。

 ただ、シトリの肉体が子どもから大人へ変化していることは理解できなかった。

 いや、変化ではなく実際に成長していると言ったほうが正しいかもしれない。

 こんな例をセンは今まで聞いたことがなかった。

 あるいはこれも、創世の神器と結びついていることの影響なのだろうか。


「セン様、どうかしましたか。ずいぶんと難しい顔をされていますけど」


 肉体は変化しているのに、声はまったく変わっていない。


「なんでもない。それより、お前たちだけであれを浄化できるのか? 異霊化が進んだ霊災は危険度も高い。結界を解いた瞬間に襲ってくる可能性もあるぞ」


「大丈夫です。お任せください」


「もしお前たちがしくじったら、俺たちが勝手にかたづける。かまわないな」


「わかりました。御二方のお手をわずらわせないようがんばります。ではハチ様。結界を解除してください」


 センはハチに目線を送り、ハチは小さくうなずく。


「ほな、いくで!」


 ハチは結界を見つめ、勢いよく柏手を打った。

 直後、ガラスが砕け散るように、結界が崩壊した。

 封じられていた霊災は四方八方へ飛散し、触れた草木の命を瞬く間に枯らしていく。

 このような霊災の猛威を前に、シトリもツナもまったく臆する様子を見せなかった。二人の意思に圧されるように、霊災は近づかない。いや、近づけない。

 霊災は霊力の結晶体であるため、自身を打ち消すおそれのある力を持つ霊力には近づけないのだ。人間の霊力は意思の強さに応じてその魂から生み出される。霊災に立ち向かうという強靭な意思を持つ二人だからこそ、霊災を寄せつけない霊力の防壁を生み出しているのだろう。


「たいしたもんだな、あいつら」


 二人の意思の強さを感じ、センは素直に感心する。


「ツナ」


 シトリが声をかける。ツナは目を閉じたまま天を仰ぎ、祝歌『シキ』を歌った。その歌声が響いた時、センはツナから強力な霊力を感じた。祝歌を歌うことで、魂の奥底に眠る力が引き出されているかのようだった。

 ツナの歌声に合わせ、シトリは祭器の槍を繊細な所作で操りながら舞を捧げる。もっとも、舞の動きは単純なもので、子どもでも二三日練習すれば形になるという程度のものだ。シキは祝歌でも基本中の基本なので、舞もそれに合わせて簡単になる。そのため精霊舞の効果も決して高くはない。

 しかし、どういうわけか。

 シキの詞が半分も終わっていないうちに、シトリは神々しい輝きをまとっていた。

 精霊舞の役割は、世界に偏在する霊力を自身の霊力に同調させ、儀式や術式の効果を高めるというものだ。祝歌と舞は、自身と周囲の霊力を結び付けるための手段といえる。

 そう。

 今まさに、異様な量の霊力がシトリの意思に反応し、輝きを放っていた。

 なぜこれほどの霊力を同調させることができるのか。

 やはり神おろしをしているからだろうとセンは考えた。しかし、彼はもう一つの要素に気づいた。それはシトリとツナの精神的なつながりが深いということだ。

 舞を舞う神官と、祝歌を歌う奏者の精神がうまく通じていなければ、互いの霊力の波長が乱れ、周囲の霊力との同調が困難になる。シトリとツナの間にはそんな心配などなく、それを証明するかのようにシトリがまとう輝きは強さを増していった。

 ツナが祝歌の最後の詞を歌い、シトリは祭器の槍を天に掲げる。その瞬間、槍先に光が集中し、弾け、周囲を光で満たした。その様子をセンは目を開けたまま見ることができた。彼の両目は太陽を直視したように強烈な光を感じたが、不思議と痛みは感じなかった。

 光が消えた時、霊災もその姿を消していた。

 浄化の名残のように、シャボン玉のような光の玉がいくつも宙に舞っている。

 シトリは仰向けになって倒れていた。元の姿に戻っていて、静かに寝息を立てている。その寝顔は達成感に満ちているように見えた。彼女のそばではコロンが体を丸めている。ツナは慣れた様子でシトリを背負った。


「本当に浄化するとは、とんでもないガキどもだな……」


 センは頭をかいた。あの規模の霊災なら、並の神官団だと浄化に半日はかかるだろう。それを祝歌ひとつ分の精霊舞で浄化した。これはセンの常識を超えるできごとだった。


「ハチ。今のは――」


 その時、センはハチがうずくまっていることに初めて気づいた。


「おい、どうした。しっかりしろ、ハチ!」


 ハチは頭を抱え、声も出せず小刻みに震えている。その体に触れた時、センは火に触れたような強烈な熱を感じた。


「さっきの精霊舞の影響か」


「おい、どうしたんだ。何かあったのか?」


「来るな。魂を焼かれるぞ」


 近づこうとするツナをセンは片手で制する。


「ハチ。無理はするな。しばらく休んでろ」


 センは身をかがめ、そっとハチの体を抱きしめる。身を焦がされるような熱に襲われるが、かまわずハチを抱きしめ続けた。この熱は命に影響するものであり、自分の魂と肉体には害がないことをセンはわかっていた。


 ほどなくして、ハチの体は消えた。


「な、なにが、どうなってんだよ……」


「命のあり方が不安定になったんだ。姿形が保てないほどに。お前たちの精霊舞の影響を受けたんだろう。だから、ハチの命を俺の命に取り込んだのさ。しばらく休んでいれば元に戻るはずだ」


「命を、取り込む? そんなでたらめなこと、できるのかよ」


「普通はできない」


 センは右手の甲を見せる。そこには青く輝く聖紋が浮かんでいた。


「これがハチの核としての姿だ」


「核?」


「本来の命の形、らしいな」


「じゃあ、今までの鬼人の姿はなんだったんだよ」


「人の形として保てるのが、あの姿ってだけのことさ。それより、この近くに落ち着いて休める場所はあるか?」


「さっきの里くらいだな。他の里へ行こうとしたら半日はかかる」


「聞いてなかったのか? 俺は落ち着いて休める場所を聞いたんだ」


「おれとシトリは十分落ち着いて休めるさ」


 自分もだ、と言わんばかりにコロンは里の方へ歩き出す。

 ため息をつくセンを見て、ツナはにやりと笑った。


「ユヅルハの民がこわいのか」


「そりゃこわいさ。相手が誰だろうと容赦なく殺しにくる命知らずのバカ共だからな」


「最高の誉め言葉だ」


 ツナはコロンの後に続き、センも彼らを追って歩き出した。




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