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精霊ノ世紀 『奉星の大祭』  作者: 青山 樹
第二章 「その命を懸けて」
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第三話 「無邪気な憧憬」

 炊きたての白米とみそ汁、山菜の漬物と魚の干物という簡素な献立であるが、センは心から満足していた。皇国各地をめぐる彼にとって、できたての朝食にありつける機会は貴重なものだからだ。


「うまいメシを食う。これこそ人生最高の喜びだ」


「ありがとうございます。ユヅルハにいらっしゃる間はお食事でご満足いただけるようがんばりますね」


「ありがたい話だが、そう長くはいられない。じきに奉星の大祭がはじまるからな。それには間に合うようにしないと」


「奉星の大祭、ですか?」


 シトリは目を輝かせ、センに顔を近づける。


「やるんですか? どこ、どこでやるんですか?」


「ここから海峡を超えた先にある神都だ。目の前だってのに、知らなかったのか?」


「はい。でも今知りました。教えていただきありがとうございます!」


「まさかお前、見に行くつもりか?」


「もちろんです!」


 余計なことを言ってしまった、とセンは頭をかく。


「そらまあ見に行きたいわなぁ。なにしろ皇国中から名のある神官団が集まって、精霊舞を披露するわけやから。出場する神官にとっては一生もんの栄誉やし。一見の価値はあるで」


「そうです、その通りです。私の母も出場した時のことをよく話してくれました」


「へえ、シトリちゃんのお母さん、奉星の大祭に出たことあるんか?」


「はい。母が学府に在籍していたころ、学府連合の代表団団長として出場したことがあるそうです。そして見事に準優勝を勝ちとりました。学府連合の代表団がそこまで評価されたのは、後にも先にもその時だけです。すごいと思いませんか? 私はすごいと思います!」


「せやなあ。けど、お母さんがそんなにすごい人やったら、シトリちゃんも学生のうちに出場できるかもしれへんで。どうや。今からでも学府に留学してみいひんか」


「せっかくですが、私は学府へは行きません。私はユヅルハの神官ですから」


 そっかあ、とハチは残念そうに言う。

 隣にいたセンは、空になった茶碗を置き、シトリのほうへ目を向ける。


「神官だって言うんなら、奉星の大祭を見に行きたいなんてわがままは言わないよな?」


「わがままではありません。奉星の大祭で披露される精霊舞は、見るだけで勉強になります。だからこそ両親は、まだ五つになったばかりの私を連れていってくれたんですよ」


「神おろしができるお前に、精霊舞を学ぶ必要はないだろ」


「そんなことありません。儀式を行う時に精霊舞をしないと、格好がつかないじゃありませんか。それにツナは私の奏者になるために一生懸命勉強しているんです。ツナのためにも、私はもっと精霊舞を学ばなければいけません」


「なんだ。あのクソガキは祝歌が歌えるのか」


「はい。私の従姉が教えてくれました」


 従姉、と聞いてセンは少し警戒心を高める。


「その従姉とやらは、どこにいる?」


「学府に留学しています。私より三つ上ですけど、飛び級を重ねて今は卒業年次に入っているそうです。祝歌を歌うのがとても上手で、昔はよく私と二人で精霊舞の練習をしていました。もしかしたら、学府連合の代表団に入っているかもしれません。だからこそ、私は奉星の大祭を見に行きたいんですよ」


「なるほどな。でもまあ、先のことよりも今は目の前のことをかたづけるのが先だ。ハチ。メシがすんだら昨日の続きをやりに行くぞ」


「せやな。早いうちに片づけとかんと」


「何かお仕事があるんですか?」


「昨日浄化できなかった霊災を浄化しに行くんだ」


「ああ、ハチ様が封じたものですね。わかりました。それなら私にお任せください!」


 シトリは立ち上がり、自信ありげに胸を張る。


「霊災は私が浄化します。ユヅルハの神官たるこの力、御二方にご覧いただきましょう!」


「そうか。じゃあがんばれ。俺はここでもう一眠りさせてもらう」


 センはわざとらしくあくびをして、横になる。


「ええっ? そんなこと言わないでくださいよ。せっかくの見せ場なのに」


「ハチは行くから安心しろ。そもそも結界はハチにしか解除できないからな」


「アホなこと言いなさんな。これも仕事のうちや。あんたも一緒に行くに決まっとるやろ。昔から言うやないか。働かざる者食うべからずって」


「働かずして食うただメシはうまい。特に人の苦労を横目で見ながら食うメシはな」


「そうだ。里に下りたらミタマグサをわけてもらいましょう。今は収穫期だからたくさんもらえると思いますし」


「行くぞハチ。これ以上被害を広げないために」


 身の危険を感じたのか、センはすぐさま立ち上がる。


「御二方の手をわずらわせるわけにはいきません。霊災の浄化は私が務めますよ」


「簡単に言ってくれるけどな、霊災の浄化ってのは高位の神官団がそれ専用の儀式を行ってできるものなんだ」


「え? そういうものだったんですか?」


「おい待て。まさかお前、霊災を浄化したことがあるのか?」


「はい。週に一回か二回はしてますね」


 バケモノか、とセンは心の中でつぶやく。


「……ちなみに、どうやって浄化してるんだ?」


「精霊舞を捧げて、こう、うわーって感じです」


「その時の祝歌の位は何位のものをつかっている」


「位のことはよくわかりませんが、いつも『シキ』でやっています」


「初歩中の初歩じゃねえか。あんなもんおまじない程度の力しかないはずだぞ」


「とは言いましても、私が舞えるのはシキだけですので。それに、好きなんです、シキ。歌いやすいし舞いやすいし、口ずさんでいると暖かい気持ちになれますし。母も好んで歌っていました。母はよく言ってましたよ。祝歌の力は位では決まらない。そこに込められた人の思いで決まるって」


 もっともらしいことを、とセンはため息をつく。


「大丈夫です。ご安心ください。私はユヅルハの神官なのですから」




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