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夢裸

 気付いたとき、ユウキは裸だった。

 学校の近くの住宅街に立っていた。真昼間、蝉の声が鳴り響いている。制服も、靴も、なにも着ていない。


「……うそ、なんで……」


 両腕で胸元を隠しながら、ユウキはあたりを見回した。人通りは少ないけれど、いつ誰に見られるかわからない。とくに、同じクラスの男子にでも見られたら――そう思うと、胸の奥がぎゅっと縮こまる。


 身長は164センチ。中学2年生の女子としては高すぎる方だと、自分でも思っている。小学生の頃から背だけは人より伸びて、コンプレックスだった。確かに足は速かったし、体重はずっと40キロ台をキープしていた。最近は、鏡の前でそっと腹筋を確認するのがひそかな楽しみになっている。


 けれど、それを誰かに見られたいわけじゃない。むしろ――見られたら恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだった。


 (夢だ。これ、夢だ……)


 頭のどこかでそう理解していた。ゾンビに追いかけられる夢、宿題を忘れる夢、裸で街中をさまよう夢。そういえば、こういうパターンの夢は今まで何度も見たことがある。そのおかげで最近は夢だとわかるようになってきた。それでも、恥ずかしさは現実と同じだった。


 身をかがめながら、物陰を探して路地に入る。

 夢らしい不条理さでいつの間にか場所が変わっていた。

 今度は、大きな温泉だった。

 湯けむりがもうもうと立ちこめ、大きな噴水のようなお風呂がある。裸のままであることが、急に当たり前のような気がしてきてユウキはそっと湯に身を沈めた。


 しかし――


 向こう側に男の人影が見えた。


「え、ここ……男湯……?」


 ユウキは急いで風呂場から飛び出しそうになるが、出口の先には男の更衣室があることに気付く。そこにも誰かがいるはず。逃げ道がない。必死に辺りを見回すとお風呂の縁にバスタオルがあった。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 小さな声で謝りながら、そのタオルを巻いて身体を隠す。


 そして、暗がりへとつながる洞窟風呂の通路に駆け込んだ。


 石を積んだ壁が続く、静かな洞窟風呂。中はひんやりとしていて、水の流れる音だけが響いていた。奥へ進めば進むほど、不安が胸に広がっていく。


 (どこまで続いてるの……?)


 後ろを振り返ると、さっきまでいた場所が見えなくなっていた。


 その瞬間、足を滑らせる。


「――きゃっ!」


 床が濡れていた。体が宙に浮き、そのまま足元が抜けていく。


 斜面を滑り落ちていく。タオルがほどけたが、もう気にしていられない。


 長い長い落下の末、ユウキはようやく目を覚ました。


 天井を見つめる。


 ああ、そうだった。


 自分は今、大阪に来ているのだ。


 (もしかして、これも……啓示?)


 仮名乞児の声が、耳の奥でよみがえる。


 ――仲間を集めろ。楽土を創れ。


 それが何を意味するのか、まだユウキには分からなかった。けれど、何か見えない力に導かれている気がする。夢の中の世界。それは、新世界の近くにある「スパワールド」に似ていた。


「……行ってみようかな。スパワールド」


 ユウキは荷物をまとめた。新しい靴下を履き、リュックを背負う。バジュラが小さく揺れた。


 ネカフェの狭い廊下を抜け、エレベーターに乗り込み、道頓堀商店街を難波方面へ歩きだした。


 それは、運命を揺るがす第一歩だった。

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