彼女は歓迎される
後書きに、設定資料みたいなものを書くことにしました。お暇があれば、目を通してみてください
歴史に名を刻む人々は、大半が白の国出身者というのもこの世界の常識であった。
迷宮の最多踏破者。魔物を大陸から消した者。
剣聖、魔女といった豪傑が生まれた等。
その名誉ある歴史は数知れず。その中でも
最も危険な種族を根絶やしにした。
という歴史は、全ての国々に尊敬、はたまた畏怖を植え付けた。
そんな国が、三カ国を統べたのは当然であった。
「・・・ふぅ。ステージよりも、緊張するかも」
この少女は、制服に着替えていまだ高鳴る心臓に翻弄されていた。
白の国が誇る、王立ティノーアル養成学院。
ここの魔法科に所属することになった彼女は
黒を基調とした制服を大層気に入った。
本当、可愛い制服ねっ!白の国なのに、黒が象徴なのはちょっと面白いけど
鏡の前で、クルッと回ったりポーズを決める。
ロングスカートがふわりと回る。
楽しんでいると、外から鐘の音が聞こえてきた。
そろそろ宿を出ようと、扉を開く。
強い日差しと爽やかな風。純白に輝く鳥達が迎えてくれた外の空気は、とても澄んでいた。
「綺麗・・・」
自分の国とは違って、カノーテスは穏やかだった。車達の往来は少なく、目に優しい色合いの建物。豊かな自然。けれども、田舎っぽい印象はない。
人達も、どこか余裕のある人達ばかり。
「〜♪」
この光景を見るだけで、ファインの脳内に歌詞が浮かび上がる。けど、それを振り払う。
「違う違う・・・私はもう、歌姫じゃないんだからッ」
サングラスを正して、後ろに結んだ髪を整える。側から見れば、金持ちのお嬢様である。
「よし・・・ララ〜♪」
歌姫は、無自覚に歌を口遊みながら趣のある
綺麗なこの国を歩いた。
短い様な、長い様な道のりを経て。ファインは目的地に着いた。
言葉に言い表せない程に、壮観。
自分が立ったどんなステージよりも輝かしい。
目の前の学院に見惚れていると、1人の女性が近寄ってくる。
「こんにちは。ファイン・セレスさんね?」
黒色のローブに身を包んだ麗しい女性。いきなり話しかけられて、ファインは驚く。
「あ、はいっ。こんにちは」
「ええ。遅刻しないなんて偉いわね」
「いえいえっ」
余裕のある微笑みは、できる女性って感じであった。赤い髪を耳にかけ、お辞儀をされる。
「エリス・マーノンよ。貴女の担任、よろしくお願いね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
お互いに挨拶を済ませて、歩き出すエリスの後を追うファイン。学院の敷地を跨いだ瞬間。
大きな音が鳴り響いた
「な、なに!?」
「気にしないで。どうせ、誰かが魔法を唱えただけよ」
「気に・・・は、はい」
いや、するでしょ。
そう言いかけたが引っ込める。多分、こんなことに驚いていたら、身がもたないのだろう。
「改めて、歓迎するわ。貴女は魔法科として籍を置くことになるけど、その理由を聞いていい?深い理由があれば、聞いときたいの」
「・・・それは」
その目線の意味を理解する。それもそうだ。
歌姫としての地位を投げ捨て、ここに来た理由。それを聞きたいのだろう。
「自分を・・・知りたいからです」
「知りたい?」
「はい」
深くもなく、浅くもない。その答えにエリスは少し悩む素振りを見せて、微笑んだ。
「そう。分かるといいわね」
「ありがとうございます」
それ以上の答えを求めないエリスの優しい笑顔に安堵する。それだけで、目の前の女性がどのような人なのかを理解できる。
「<扉よ、我らを運んで>」
「・・・わ、い、一瞬で」
視界が曲がると、気づけば教室の前にいた。
「ごめんなさいね。自己紹介、考えてきたかしら?」
「大丈夫です。大勢の前というのは慣れてます」
「流石ね。じゃ、開けるわよ」
扉を開き、エリスは踏み出す。
「はい、静かに〜。さっき魔法をぶっ放した奴ー、こっち来なさい」
「ごめんなさい!」
「ダメ〜」
生徒と先生の微笑ましいやり取りを見ながら
ファインは、何を言うか考えた。
「それでは、挨拶をする前に。みんな知ってるかも知れないけど、このクラスに新しい仲間が加わったわ、仲良くしてね。・・・いらっしゃい」
クラスに入った時、ファインを歓迎したのは
生徒達の驚く歓声だった。
<扉よ、我らを運んで>
・エリス・マーノン考案の転移魔法。扉を介して、ショートカットを作る魔法。
「扉を開けば、目的地。みたいな魔法があったら便利じゃない?」
白の国<カノーテス>
・白い龍を信仰する国。才能ある人達が多く、その分野は様々である。他国との交流も盛んである一方、接し方を間違えれば、その才能が牙を剥く。ダルい上司みたいな国。
黄色の方<フィリソ>
・黄色の猫を崇拝する国。物の価値を定めたといわれるその人々は、富を生み出したと言われている。
貪欲であり、色々な物に利益を見出す。その街並みはファインが嫌気を刺すほどに、輝いている。
王立ティノーアル養成学院
・各国の貴族や平民を迎えてくれる学院。武闘科と魔法科に分かれており、ファインは魔法科に属している。
魔法科は魔法を学ぶというよりも、研究することに重きを置いている。武闘科は、対人戦や魔物との戦闘を学ぶ場所であり、騎士や迷宮の探索隊を目指す生徒が多い。
序列があり、月に一度、武闘会がある。
ファイン・セレス
・その名を知らない人はいない程に有名な歌姫。
代表作は<この世全てを愛する神達>という曲。
歌だけではなく、踊りも上手である。長い金髪は、母親譲りであり、自分のチャーミングポイントとして誇っている。・・・ちなみに、この物語の主人公ではない。