待ってるから
夢を見た。木漏れ日が溢れる世界の隙間に私は立っていて、鳥の囀りと葉が風で擦れる音だけ聞こえる。息を肺いっぱいに詰め込むと深い森の香りがして、私はやっと安心できた。
「気に入ったか」
そう尋ねる声はぶっきらぼうだけど、その奥に深い優しさがあることを知っている。
「うん、ありがとう。ーー」
この景色と同じ深緑の瞳を見つめて、少し微笑むと彼は目を逸らしてしまった。でも、それが面白くて私はクスクスと声を漏らした。
そんな光景が徐々に遠くなっていく。私の身体はそこにあるのに、魂だけが切り離されているみたいに、「私」だけがそこから弾かれる。それに抵抗する気は何故か起きない。その引力にただ身を任せる。
深緑の瞳が不意にこちらに向く。息が一瞬詰まった。
何かを、呟かれたのが分かる。でもそれを理解するのは脳が拒否をした。私は踵を返して、少しでも早くここから離れられるよう走り出した。いくら走っても地面を踏みしめる感覚がなくても、速くなる心地がしなくても、それでも脳が指令を出して私を走らせていた。
幸せな夢で終わりたかった。自分の意思ではどうともならないものに、そう願うのは傲慢だろうか。
歪んだ視界の中、暗闇しかない空間に一筋の光が見える。私はそこに飛び込んだ。アスファルトの焦げた匂いが酷く懐かしく感じたんだ。