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月光ファンタジア  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第一話 小さな巨人
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小さな巨人2



 小人に手招きされて退室した。

 部屋の外には、薄暗い廊下をうめつくすように、大勢の小人が待っていた。

 どれもこれも、最初の小人と同じ大きさ、同じような顔をして、同じような緑色の服をきている。


「お願いします。先日より、われらの城に巨人が侵入して、暴れております。われらも力のかぎり戦っているのですが、なにぶん、体の大きなやつらに、手も足も出ません。仲間は次々、殺されています。あの悪しきものどもをけちらしてください」


 ディアディンの腰ほどもない小人たちの言う巨人だから、せいぜい人間と同じていどだろうと、たかをくくっていた。


 が、これが大間違い。

 小人につれられて、いましも攻防をくりひろげている食料庫前へ行くと、小人たちをふみつぶしながら進んでくるのは、血のように赤い服をきた巨人だった。


 たしかに、ディアディンから見ても巨人だ。 見るからに、まがまがしい。


(まあ、文句を言う筋合いじゃないか。巨人だって言ってたんだからな)


「やつらは悪鬼です。悪魔です。われらが、たくわえた食料を根こそぎ奪っていくのです。それどころか、われらの赤子まで、むさぼるのです。どうか助けてください」


 巨人は三人いた。

 剣や弓といった人間の武器は持たず、ロープをふりまわして、小人たちをなぎはらっていた。

 小人はみるみる、ふきとばされていく。


「真正面からつっこんでいくのは、さすがに、おれでも上策ではないか。聞くが、やつらはここへ食料を荒らしに来るんだな?」

「はい。あの扉のなかが、食糧庫です」

「わかった。おまえたちはジャマだ。いったん、ここはヤツらにあけわたせ」


 小人たちは憤慨ふんがいして、口々に反対した。


「そんなことしたら、食糧庫はカラッポになります。われらにどうやって冬をこせとおっしゃるんです」

「今日、一族が全滅するのと、ここはしのいで、冬までに食料をたくわえるのでは、どっちがいい」


 強く言うと、小人たちは口をとがらせて、不平不満を言いながら承知した。


「砦を代表する勇猛かかんな英雄だって聞いたのに、ウソっぱちだ」

「小さいわれらが命がけで戦ってるのに。腰ぬけだ。腰ぬけ」


 バカか。おまえらは。これは作戦だ——


 と、どなりつけたかったが、それでは巨人にも、こっちの考えが筒抜けになってしまう。

 ディアディンは、ぐっと、こらえた。


 ぶちぶち言う小人たちを退却させると、ディアディンも廊下のかどまでしりぞいた。

 巨人のおつむも小人なみらしく、疑いもせず食糧庫へ飛びこんでいった。


「おまえたちは、ここにいろ。足手まといだからな」


 ぽかんとしている小人たちを残して、ディアディンは一人、あけっぱなしの食糧庫の前に立った。


 扉のかげから、のぞいてみると、巨人どもは、いじきたなく食料を食いちらしている。

 さっきからのちょっとの時間で、もう食糧庫のなかは半分近く、食いあらされていた。小人たちが心配するのも、いたしかたあるまい。


 だが、おかげで、やつらは三人とも食べ物に夢中だ。縄のような武器もほうりだしている。

 ディアディンが見ているのにも気づいていない。


 ディアディンは剣をぬき、手近な一人に切りつけた。

 ぎゃっと声をあげて、巨人は倒れた。

 あとの二人がふりかえったときには、そのうちの一方に、ディアディンは切りかかっていた。


 二体めも撃沈。


 しかし、最後の一人は少しだけ反応が早かった。

 ディアディンの剣は巨人の片足を傷つけただけで、巨人は足をひきずりながら逃げだしていった。


「待てッ!」


 外に出て追いかけるものの、廊下が妙にグラグラする。床が綿でできているみたいに、ふにゃふにゃする。


 そのうち、ディアディンは気が遠くなった。


 気がつくと、ディアディンは自分の部屋のベッドで、朝をむかえていた。

 早朝だ。

 部下たちはまだ眠っている。


「おかしな夢だった……」


 まだ早いが、目が冴えてしまって、二度寝はできそうにない。

 ディアディンは顔を洗いに、一階まで下りていった。 今度はちゃんと要所に見張りもいて、いつもどおりの砦の風景だ。


 生々しい夢だったな——と思いつつ、冷たい井戸の水で顔を洗う。やっと現実感が戻ってきた。


 いつまでも、つまらないことに頭を悩ませていては、本業でミスをする。

 ディアディンの本業とは魔物退治だから、失敗するということは死ぬことだ。


 むしろ、それが望みのはずなのに、なぜ、自分はけんめいに生きようとするのだろう。

 死にたい、死んでもいいと言いながら、やはり心の底では、自分は本当は生きたいのではないだろうか……。


 答えの出ない疑念に、ディアディンが沈んでいたときだ。

 井戸端を歩いていく、薄緑色のアリに気づいた。

 アリはまるで、ディアディンの気を引くように、前足二本で、チョイチョイと招くような仕草をする。


(アリ——緑色の……)


 誘われていくと、アリは林のなかへ入っていった。一本の木の根元へつれていく。


 見ると、木の根元に大きなアリの巣がある。

 その入口で、薄緑色の小さなアリが、自分たちの百倍も大きな、真っ赤な毒グモを相手に、必死に巣を守って抗戦していた。

 毒グモは後ろ足が一本、動かない。


「なるほどね」


 ディアディンは毒グモの足をつまんで持ちあげると、石の上に置いて、ふみつぶした。


 アリたちがいっせいに、ぺこりと、おじぎした。




 了

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