2話 打ち合わせ
「一ノ瀬さんのことは何てお呼びしたらいい?」
正直人と話すのが久しぶりすぎて距離感が分からない。
まあ300年間研究室に篭りっぱなしだったし仕方ないとはいえ、この先やっていくにはそういう勘を戻さないといけない。
「普通に社長でも一ノ瀬さんでもいいわよ。」
「では『ふろてぃあ』社長で、」
「なんか堅苦しくない?あなたは社員ではなくうちの一期生Vtuberアイドルなんだから、私とは対等の関係よ。」
「な、なるほど…」
雇用ではなく契約、だから対等な関係ということなのか。まあ施してもらってばっかりだからこの恩は返さないといけない。
「このパソコンとマイクの使い方は分かる?」
「大丈夫。すでに理解した。」
先ほど【解析眼】をかけたから使い方は熟知した。
とても便利なものだなと感心する。
元の世界の機械とは天と地ほどの差を感じた。
自分はカラクリに精通していたが、まるで作り方が分からなかった。
「勝手にパパさんとママさん決めちゃったけど大丈夫だった?」
「?」
「ああ、あなたのVtuberとしてイラストを描く人とそれを動かす人のことよ。実力は折り紙つきだから、はいこれ連絡先。」
なんか置いてかれてるような気がする。
あらかじめこの『ふろんてぃあ』一期生、つまり自分の同期となるVtuberの動画を見たが、とても印象的な声とキャラクター、アイデンティティを持ってると思う。
ただ喋るだけじゃなく、自分のキャラクターを深く考えながら喋っていた。
「自分にできるだろうか…」
ずっと錬金術や鍛治、製薬の研究ばかりしていて、話が合わない魔人扱いされていた。
ん、まてよ…
研究気質の錬金術師はアイデンティティとしてかなり個性的なものではないだろうか。
キャッチフレーズはいがいといいかもしれない。
それに沿った話題作りなら学院の教授として働いていた時に何度も経験している。
そもそも自分をキャラクターとしておとしこむのはアリだ。
それならば演じなくて住むし、視聴者側にとっては新鮮さを味わえる気がする。
いけるかもしれない。
「実践の九割は成功する。自分の勘がそう言ってる!」
配信までに、公式ホームページを完成させよう。
◆◇
「よ、よし!資料は完成したしあとは、パパさんとママさんに連絡を入れるだけだ!」
ツーツー
『はい、カシワモチです。』
「すまない、ふろんてぃあ一期生、ロアという者だ。詳しい話は我が社長が説明しているはずなのだが、」
『あ!あなたがロアさんでしたか。すごい透明感のある声をしてますね。一ノ瀬さんが自慢するはずだ…』
やはり配信者は声が武器だ。
この会社と契約してからは毎日ボイストレーニングをしていた。
「あ、えと…ありがとう。」
『あはは、ますます会いたくなってきました。今日打ち合わせをしますか?」
「幸い時間があるのでお願いする。」
『では午後の三時ごろ、ふろんてぃあが運営する喫茶店に集合しましょうか。では切りますのでまたあとで。』
そういってイラストレーターであるカシワモチさんは電話を切った。
「確か喫茶店はビルの一階だったか、」
ここのビルは七階建で、一階が社長が趣味で経営してる喫茶店、二階が受付室、三階が会議室、四階が身体や声を鍛えるトレーニングルーム、五階が事務所、六階がゲーミング部屋、七階が社長と自分の住居となっている。
「そろそろ行くか、」
資料をまとめてエレベーターで降りる。
だいぶここでの生活にも慣れてきた。
「あ、ロアちゃんこんにちはー!」
「こんにちは立花。」
神原立花、自分と同じVtuberで同期だが、なぜかここの喫茶店で働いている。
「もしかして打ち合わせ?」
「よく分かったな…」
「わっち勘だけはいいからねー!」
それは果たして自慢になってるのだろうか、
カランカラン
「いらっしゃいませー、あれ?カシワモチさんじゃん!」
「立花ちゃん相変わらず元気ですね!と、そちらはロアさんです…か、、、、」
カシワモチさんが固まった。
数秒後、カシワモチさんが立花に手招きをする。
「何あの娘、可愛すぎません!?」
「ふふん、うちのロアちゃんは天使ですから。」
ヒソヒソと二人が話し合う、
自分の耳は高性能だから普通に聞こえるのだが…
「カラコンに髪を染めてるわけではないですよね…あれめちゃくちゃ自然ですもん!」
「あはは、わっちも最初びっくりしちゃったよ。モデルよりも可愛いんだから。」
あの、ちょっと…
打ち合わせは?
というか褒められるの慣れてないから恥ずかしいのだが、
少しジト目になる。
「あ、ああごめんなさい。びっくりしちゃって…!」
そしてようやく打ち合わせがスタートする。