20話 神作 聖
もう夜の七時を過ぎ、イデアと一緒に家に帰ると社長と同期の二人が既にいた。
今日はすき焼きということで、鍋に九州産の甘めの醤油、大量の砂糖、少量の味醂とお酒を入れ、点火する。
ぐつぐつ言い出したところで白菜、豆腐、椎茸、糸蒟蒻、最後に牛肉を入れる。
その様子を食い入るように自分を含め五人はその光景を見つめた。
「じゃあ卵とかしといて。」
五人分用意した卵を皆それぞれ綺麗に割り卵をお箸で解く。
そしてそろそろだろうか、
充分煮込んだ。
「あ、それ私のお肉!」
「社長、私のわっちのあげるから落ち着いて…」
「ぱくもぐむしゃ、、」
「イデアちゃん食べるの早すぎるないですか?」
「姦しいとはこのことを言うのだな、もぐ、んま!」
自分、イデア、社長、立花、凛音が鍋を囲み牛肉を啄む。なかなかどうしてすき焼きというのは美味しいものだな。
というか自分ほとんど肉食べれてない気がする…
白菜と椎茸、豆腐ばかり、
社長とイデアが思った以上に食べることを知った。
我らV組はあまり牛肉をゲットできてない気がする。
そっと鍋を凝視すると俊敏に手を動かし、肉だけを掴んでいる社長とイデアの手があった。
気のせいじゃなかった…
「んまあ、」
「美味しいわね。」
「あああ、、私のお肉が…」
凛音はまたしても目をつけていた肉を取られてしまったようだ…
やめとけ凛音、その食い意地張った二人を君では倒せん。
立花はその様子を眺めながらくすりと笑った。
元々少食だからか箸は置いてあった。
自分もそろそろ牛肉を実食したいのだが、すでに九割が無くなってる。
実食の九割は無くなる、光景がそう言ってる。
「はあああ美味しかったー!」
「ん!」
社長とイデアは満足そう言い、
「うう、お肉…もうちょっと欲しかった、、」
凛音は恨めしそうにそう呟く。
なんだか可哀想だと思うが、二人に言ってくれ。
立花は、お腹いっぱいと言いながらお腹をさすっている。
本当に少食なんだな、
「そういえば社長、新しい人増やさないの?」
立花は社長にそう聞く。
もうVtuber始めて2ヶ月、新しい人が来てもいいからかもしれない。
「もうそろそろ二期生の募集かけようかなと思ってるけど、どう?イデアちゃん面接官やらない?」
◆◇
「じゃあどうぞ。」
「失礼します。」
何故か面接官をやることになってしまったイデアです。
目の前の女性…?女の子?は、礼儀正しく扉を開けた。
「えと、座って。」
「はい。」
まるで会社に入社するかのような礼儀正しさ、
ただ配信者として、Vtuberとして活動するのならばこの点はあまり評価に入らない。
しかし声の良さはダントツレベルでいい。
はっきりとした声量があり、滑らかな喋り方だ。
滑舌がとても良く聞き取りやすい。
見た目は…ほんとに22歳なのかと疑うレベルで幼いが…
その際どうでもいいだろう。
「あなたはこの会社に入社する社員ではなく、Vtuberとしてこの会社と契約する対等の立場。そこまで畏まった表現は要らない。」
「承諾しました。」
まるで華族のような気品を感じる物言いに少し驚いた。
これがギャップというものなのだろうか、
「じゃあ自己紹介をどうぞ。」
「私は神作 聖。美大卒業後はキャンピングカーで全国を巡りながら絵を描いました。」
彼女は主人様と似た天衣無縫のタイプと見受けられる。
我が強いことは配信者において最高の強みだろう。
Vtuberがこの先どんどん広まったとして、それを良しとしないアンチが出てくることは想定できる。
芯がある人はそれを物ともしないだろう。
私としては多いに採用したい。
「Vtuberになりたいと思ったキッカケは?」
「絵描き配信者として活動したけれど思ったように伸びなかったから、企業に入れたら認知が広がると思いました。」
「なるほど、」
この人はきっとうちの強みになる。
「最後に質問等は何か?」
「そうですね、ふろんてぃあに所属した場合、あなたを描くことは可能でしょうか?」
まったく予想外の言葉に面を食らったが、私は少し考えながら、
「私を描くよりも主人様を描いたほうがいい。美しさの最高地点にいるから。」
「主人様…?」
聖は首を斜めに傾ける。
「我がふろんてぃあのVtuber七種キセキのことです。」
「あの美しい声を持つ姫君のことですか、会ってみたいものです。」
「それと、」
私は最後に言った。
「合格です、ようこそふろんてぃあへ。」
彼女は面を食らった顔をした。
まあそれもそうだろう。普通の会社ならば、後日連絡がいくものだから。
ただここでは直接言った方が速い。
結果を後日言うなんて遅過ぎる。
「書類を渡すので各項目に記入して欲しい。」
そう言って私は紙を彼女に渡した。
「配信機材はあなたに選んでもらって、それを全てこちらが用意する。もし家の配信環境が整ってないのなら、うちの会社が所有するマンションに住んでもらうけれど、どうする?」
「い、いたせり尽せりですね…お願いします。」
契約成立。
また新たにVtuberが誕生した瞬間であった。
三日後、私と聖さんは、社長が所持するマンションに来ていた。
「3LDKでこの家賃ですか!?安過ぎて詐欺かと思ってしまいます…」
「うちと契約したオプションのようなものだから気にしないで。」
まあその代わり配信や案件で稼いだ二割がうちの会社に吸い取られるので問題ない。
その点は彼女も理解しているのだし、
荷物は全てトラックに詰めてもらっている。
そして私はその荷物を運んだ。
「イデアさん、凄い力持ちですね。、、」
相当引き気味で、顔も引き攣っていた。
ダンボールを同時に七箱運んだからだろうか、
人目がつかなければ亜空間収納で楽だったのだが。
ーー少女部屋作り中ーー
「す、すごいです!」
「疲れた…」
主人様ニウムが足りない…
早く摂取しないと、、
配信環境を整え、生活に欠かせない電化製品を設置した。
私はその場に倒れ込みグでぇっとする。
「お疲れ様です。ん?」
家のチャイムが鳴る。
「どちら様でしょうか…?」
インターホンに映ったのは、帽子と伊達眼鏡をつけ、変装した主人様だった。
すぐに家の鍵を外し扉を開ける。
「差入れだ。うわどうした?」
「あるじさまー!」
ああ、いい匂い…
柔らかい、
「ど、どちら様でしょうか…」
聖は目の前の絶世の美少女に声をかけた。
いますぐにでも彼女を描きたいという想いを堪えながら。
「君が神作 聖さんか、自分はロア=ルナール。Vtuber七種キセキをやってる者だ。」
その時、イデアの美しさの最高地点にいるという言葉に納得する。
息を忘れてしまうほど魅了されてしまう。
精霊という言葉はきっと彼女にこそ相応しい。
イデアさんも勿論そのレベルで美しく綺麗だが、目の前にいる美少女の髪、瞳、肌、顔、体、腕、脚、手、
この世のものとは思えない、あまりに綺麗さに飲み込まれる。
「失礼、取り乱しました。出会えて光栄です、姫君。」
「ざっと機材の取り扱いはこんな感じ。、、、そろそろイデア離れて…」
「やだ、」
ロア姫君の説明を受けながら、その光景なら癒される。
それにしてもクールなイデアさんが、、これはギャップを感じる。
「そういえばVtuberのキャラクターを作るけど、イラストレーターと2DLiveモデラー紹介しようか?」
そう言われたが、私は絵描きだ。
「いえ、イラストは私が描きます。2Dモデラーに関しては知人にお願いすることにします。」
「じゃあ自分とイデアはそろそろお暇するよ。」
「本日はありがとうございました。」
出口まで見送りをし、二人の後ろ姿を見つめる。
二人とも見たことのないほどの美人さんだった…




