1話 配信準備
「え!?記憶喪失?」
とりあえず助けてくれた女性、一ノ瀬晶さんと喫茶店に来ていた。
まあ気づいたらこの世界に来ていたという突拍子なことを言うよりかは現実味のあることを言った方がいいだろう。
自分は無一文で財布も身分証も無くしたという程で話す。
疑わしいことではあるがこれで貫き通した方がいい。
「そ、それじゃあこれからどうするの?お金を稼ぐにも記憶喪失じゃ履歴書なんかも書けないでしょうに…あ!」
彼女は思い立ったかのように立ち上がり笑みを浮かべた。な、なんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか、
「うちで働く?」
キラキラとした目で彼女はそう告げる。
自分で言っても何だがこんな怪しい人物に、「うちで働かない?」なんて、アホの子なのか?
少し苦笑いをしながら、
「ど、どういった仕事なのだ?」
「うちは配信者活動を支援する、いわゆるVtuberを雇う会社なの。もし良かったらうちと契約してVtuberになってよ!」
いい獲物を見つけたと言わんばかりの剣幕を感じる。
Vtuberの素晴らしさを彼女は熱弁する。
これだけ情熱を持った人は珍しいなと思う。
剣幕に押されたのか、彼女に感化されたのかわからないが、詳しい話を聞きたくなりいつのまにか彼女の会社の事務所に行くことになった。
◆◇ーーー
「あ、一ノ瀬社長!どこで道草食ってたんですか!」
「獲物を見つk…いやスカウトよ!」
獲物って、一ノ瀬さんの目に、自分はどんな目で見られてるのだろうか、
「なんか不安なこと口走りませんでしたか?っと、すみませんね社長が、私、こういうものです。」
「ご丁寧にどうも。」
名刺には綾小路三晴と書かれてある。
「三晴は裏方に精通してておもに商売の方を担当してるの。まあ裏社長的な存在だから仲良くしといて損はないわよ。」
「あ、はあ…」
一ノ瀬さんってよく社長になれたなあ…
「まあ社長直々のスカウトということなので、面接は不要です。契約内容の紙をコピーしてくるので少しこちらのソファーに座ってお待ちください。」
そう言われ、ソファーに座る。
すごいふかふかだ…
「では、ロア=ルナールさんですね。こちら機密文書なので公開しないでいただけると助かります。」
「分かった。」
書いてることは機密内容の漏洩防止、身バレ防止などなど、
書いてることは当たり前のものばかりだ。
「本来私は営業部なのでこのようなことはしないのですが…ほんと、あの社長は…はぁ、」
漂う苦労人の香りがする。
「しかし、こんなことを聞くべきではないと思いますが、なぜメイド服を着てるんですか?
って、なんでそんな当たり前のことを聞くの?みたいな顔しないでください、」
この人は心を病む能力でもあるのだろうか、
「メイド服はとても快適で動きやすい作業服だからだ。」
「あ、えと…そうなんですね!」
「腑に落ちない顔してるな…」
そしてこの世界のメイド服の立ち位置を聞いた。
なるほど、だからあんな奇異な目で見られていたのか、
「正しい使い方なのでしょうけど、それを着て町中歩けるかといったら相当限られてきますよ。」
そんな雑談をしていると、
「よし、準備できたわ!案内するわね。」
一ノ瀬さんに特別措置としてわざわざ配信部屋と住居を提供してもらった。
「ほんとにいいのだろうか…」
「まあ社長がしたことですから、気にしたらアウトです。では、私はこれで失礼します。もし何かあれば連絡してください。名刺に電話番号がかいてあるはずなので」
そう言って三晴さんは仕事場へ戻って行った。
このビルの最上階に案内される。
一ノ瀬さんもここに住み込みらしい。
「ここが今日からあなたが住む部屋よ。」