第47話 ユールとエミリーのデート
ユール宅で開かれる魔法教室。
上達の度合いに差はあるが、みんな必ず最初と最後に瞑想を行う。
リンネもこの教室に参加していた。幻術も魔力を使うところは共通しているので、瞑想はかなりの効果が期待できる。
ユールが彼女の魔力の流れを見て、その滑らかさを褒め称える。
「うん、リンネちゃん。いい魔力の流れだよ。幻術士としての修行を積んでるからか、基礎はだいぶ固まってる」
「ホント? 嬉しいな、ありがとう!」
目を輝かせるリンネ。
魔法教室が終わり、ユールがエミリーに声をかける。
「エミリーさん」
「ん?」
「まだ日没まで時間あるし……ちょっと歩かない?」
「いいわよ」
この日はガイエンも不在であり、二人はあっさりと散歩に出かけることができた。
***
秋らしい穏やかな青空が広がっている。
二人は中央通りを歩いていた。
「涼しくなってきたね」
「本当ね」
気候の話題から始まり、
「リンネちゃんも町に馴染めそうでよかったわ」
「そうだね。ゲンマさんやティカ君とも上手くやってるみたいだ。僕の教室にも入ってくれたし……」
「リンネちゃんがユールを見る目、ホント尊敬の眼差しって感じだものね」
「同じ術士として、僕のことを尊敬してくれてるんだとしたら嬉しいよ」
エミリーは笑みを浮かべる。
「にぶい。にぶいなぁ、ユール君」
「にぶいって、僕が? どうして?」
「なーんでもないっ」
エミリーははぐらかした。
おそらくリンネはユールに好意を抱いている。そのことに気づいているのだろう。
二人は買い物をし、買い食いをし、カフェに寄り、思うがままデートを楽しむ。
ノナの花屋に立ち寄って、秋の花を購入したりもした。
しかし、ユールがエミリーをデートに誘った理由が未だに見えない。エミリーも決して催促はしない。
すると――
「エミリーさん」
ユールの口調が強張っている。エミリーも少し心を引き締めた。
「古代竜様との一件、あったよね」
「うん」
「あの時僕は、古代竜様の迫力に圧倒されて、屈しそうになってしまった。リンネちゃんを差し出すべきなのか……と思ってしまった。彼女を守る、だなんて誓ったばかりだったのに」
苦しそうに吐露するユールに、エミリーは何も言わない。
「だけど、僕はどうにか踏みとどまることができた。それはあの時の『それでこそユール』って言葉のおかげだったんだ。あれがあったから、僕は『これが僕なんだ』と強い気持ちになることができた。結果、お父さんと一緒に古代竜様にも立ち向かえた」
ユールはまっすぐな眼差しでエミリーを見つめる。
「エミリーさん、ありがとう。僕にはやっぱり君が必要だ。どうかこれからもずっと一緒にいて欲しい」
エミリーがクスリとする。
「もしかして、それを伝えたくて私をデートに誘ったの?」
「う、うん……。なんかこう、さらっと言えなくて……」
「真面目だねえ、ユールは」
「ご、ごめん」
「ううん、それでこそユールよ」
エミリーは嬉しそうに目を細める。慈愛に満ちた目だった。
「何度私を惚れ直させたら気が済むのかなぁ、ユールは。付き合い始めて結構経つのに、また好きになっちゃう」
ユールも負けてはいない。
「僕だって……君をどれだけ好きか、自分でも分からなくなるほどだ」
夕日が二人を照らす。
二人とも、紅潮していた頬がさらに赤く染まる。
「ユール! エミリー! おーい!」
ガイエンがやってきた。
両腕に大量の芋を抱えている。
「今日は畑仕事を手伝っておってな! 芋をたくさんもらったぞ! 焼くなり煮るなりなんでもいけるぞ!」
ムードをぶち壊すガイエンの登場。
しかし、二人はホッとしてもいた。
もしガイエンが現れなかったら、お互いに相手を好きになりすぎてしまったかもしれない。本気でそんなことを思っていた。
「おいしそうなお芋ですね、お父さん!」
「よーし、私腕を振るっちゃう!」
「そうかそうか! 吾輩も手伝うぞ!」
この日、三人は大いに芋を平らげた。ユールとしては心もお腹も満足する一日となった。




