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第31話 ユール、男友達と飲みで盛り上がる

 ある晴れた昼間、ユールが町を歩いていると、ゲンマとニックに出くわした。


「やぁ、ゲンマさん、ニック君」


「おう、ユール!」


「ちわっす!」


 オズウェルたちの事件からまだそこまで日は経っていないが、ゲンマは元気そうだ。


「もう怪我は大丈夫なの?」


「お前が骨折は治してくれたし、エミリーちゃんの薬も効いたし、この通りだ!」


 力こぶを作るゲンマ。


「兄貴はタフさだけは半端じゃないっすからねえ」


「“だけ”は余計だ!」


 ゲンマがニックを小突く。

 重体になるほど痛めつけられたのに、元気に振舞っている。ユールとしてもゲンマの不屈の闘志は見習いたいと感じていた。


「それによ、あのクソ野郎どもをやっつけてくれてありがとな」


「ホントっす! ユールさんは英雄っすよ!」


 悪徳領主オズウェル、その腹心グランツとペトロも、ユールたちの手で滅んだ。


「そんな、決して僕だけの力じゃ……」


 ユールがこう言おうとすると、声をかけられる。


「ハッハー、ユールさん買い物ですか?」


 魔法使いイグニスだった。妹のネージュはいない。


「あれ? ネージュちゃんは?」


「俺だっていつもネージュと一緒ってわけじゃないですよ」


「お前、妹無しでも一人で町を歩けたんだな」


「うるせえぞ、お山の大将!」


 ゲンマとイグニスは仲が悪いので睨み合うが、ユールが「まあまあ」となだめる。

 ユールがこんな提案をする。


「せっかくだし、ブレンダさんの酒場にでも行かない?」


「お、いいねえ!」


「行くっす!」


「行きます行きます!」


 三人とも乗り気である。

 するとそこへもう一人加わってきた。


「オイラも行くー!」


「ティカ君!」ユールは驚く。


「ティカ、お前ちゃんと配達の仕事やったんだろうな?」


「今日の分はもう終わっちゃったよ」


 ゲンマの問いにもあっさり答える。


「さすがエルフっすねえ……」ニックは感心してしまう。


 こうして男五人の大所帯で、ブレンダの酒場に向かうことになった。



***



 酒場にユールたち男五人がやってくると、ブレンダも面食らっていた。


「こりゃまた……すごい組み合わせだね。ま、好きな席にどうぞ」


 五人でテーブルを囲む。まもなくブレンダが四杯の酒と一杯のオレンジジュースを出してきた。


「なんでオイラだけジュースなのさ!?」とティカ。


「あんたはまだ14だろう? お酒は出せないよ」


「オイラはエルフなんだし別にいいじゃん! 出してよー!」


「ワガママ言うと追い出すよ」


「ご、ごめんなさい……」


 ブレンダの迫力にはティカも形無しだった。


 ユールがグラスの取っ手を握る。


「それじゃ……乾杯!」


 男五人でグラスを合わせる。


 話題はオズウェルを倒したばかりということもあり、自然とユールの話題になっていく。


「ユールはよ、大人しそうなツラしてっけどやる時はやるタイプだよな!」


「ホントっす! 怒らせると怖いってタイプっすね!」


 ユールは苦笑する。記憶はないが、ガイエンに「強気だったお前は怖い」と言われたこともあるので、否定もできない。


「俺もネージュと一緒に、ユールさんには完敗したからな……」


「あの時はやりすぎたかも……ごめんね」


「そんなことないですよ! あの負けがあるから、今の俺らがあるわけで!」


 ティカもジュースを飲みながら、この町に来た時のことを喋る。


「ユールの兄ちゃん、オイラがナイフ突きつけても全然ビビらなかったもんな」


「ティカ君がいい子だって思ってなかったら、とてもあんなことはできなかったよ」


 ユールは我ながらとんでもないことをしたものだ、と思う。

 ゲンマがしみじみ語る。


「ま、お前はすげえ奴だよ。長年町を苦しめてたオズウェルの野郎まで叩き潰してくれやがった」


 ユールは褒められて嬉しいが、素直に受け取れずにもいた。

 確かにオズウェルの配下ペトロを倒したのは自分だが、彼らを追い詰めることができたのはガイエンの力によるものが大きい。


「僕は全然……。お父さん、ガイエンさんがいたからこそだし」


「そんなことねえって!」


 ゲンマに怒鳴られ、ユールはビクッとする。


「俺はお前のことをすげえ買ってんだ。あのガイエンのおっさんよりだ。なんでかっていうと、魔法の腕が凄いとか、宮廷魔術師だとか、そういうことじゃねえ。そもそも俺、宮廷魔術師ってのがなんなのか未だによく分かってねえし」


「そこは分かって欲しいっす」茶々を入れるニック。


「うるせえ! とにかくお前はさ、優しいし、かといって優しいだけじゃなくてやる時はやるし、持ってる力を正しい使い方する奴だ。お前のそういうところが、俺はすげえいいと思ってんだよ」


 ニック、イグニス、ティカもうなずいている。


「何が言いたいかっていうと……俺はお前がこの町に来てくれてよかったよ! 最初は色々あったけど、今は本当にそう思ってる!」


 ユールの顔がほころぶ。


「みんな……ありがとう」


 ユールは嬉しかった。心のどこかで「自分は余所者だ」「まだ嫌われてるんじゃ」と思っていた。しかし、余所者嫌いを公言しているゲンマがそれらを払拭してくれた。


「なんだか心がスーッとしたよ。よーし、今日は飲むぞー!」


「よっしゃ、その意気だ!」


 すかさずティカも――


「じゃ、オイラも一杯ぐらい!」


「ティカ君はダメ」


 きっぱりと釘を刺され、ティカは「ユールの兄ちゃんには敵わないや」と肩をすぼめた。


 さて、そんな男五人を酒場の入り口から見つめる男がいた。


「……」


 ガイエンだった。

 エミリーが後ろから話しかける。


「なにやってんの、お父様?」


「エ、エミリー!?」


「あの五人に混ざりたいと思ってるんでしょ」


「コラ! そんなズバリと当てるでないわ! 吾輩の威厳が台無しだ!」


 エミリーはため息をつく。


「仮にも騎士団長が、こんな局面でビビらないでよ!」


「しかしだなエミリー、若い者たちが楽しくやっている中、吾輩のような年長者が入っては……」


「大丈夫だって! そんなの気にするほどやわな五人じゃないわよ!」


 エミリーに押される形で、ガイエンは五人のいる席に近づいた。


「お父さん!」ユールが反応する。


「あの……吾輩も混ざっていい、かな?」


「どうぞどうぞ!」


「ちょうどおっさんもいればな、なんて思ってたんだよ!」とゲンマ。


 歓迎され、照れ臭そうにしながら席につくガイエン。


「今ユールさんがすごいなって話をしてたんすよ」ニックが笑う。


 ガイエンはうなずく。


「うむ、ユールはすごい。魔法の腕だけではなく、相手の性質を見抜き、どんな相手にも気遣いをする優しさを持っている。それは吾輩にはないものだ。お前はいずれ偉大な魔法使いに、いや、偉大な男になれるだろう」


「お父さん……」


 しかし、褒めすぎたと感じたのか――


「だ、だが! だからといってエミリーは渡さんぞ! 渡さんからなぁぁぁぁぁ!!!」


「必ず認めてもらいます!」


 ユールも今日は強気に返した。強気ユールには弱いガイエンは少し怯んでしまうのだった。


 男六人での飲みは進み、ガイエンは年長者らしいところを見せようとする。

 すなわち、『吾輩のおごりだ』である。

 そうすればユールを始めとした若者たちが自分に感謝することは間違いなしと踏んでいた。


「さて、今日の酒代だが吾輩が……」


 ブレンダがやってくる。


「みんな、今日のあんたらの酒代はあたしからのおごりにしとくよ!」


「え、いいんですか!?」とユール。


「ユール君とガイエンさんには感謝の気持ちを込めて、それにゲンマたちは退院祝いってことで!」


 ユールたちは喜ぶ。

 一方、ガイエンは「吾輩の見せ場が……」と心の中で嘆くのだった。


「飲め飲めユール!」


「飲むっすよ、ユールさん!」


「いつかユールさんみたいな魔法使いになってみせる!」


「ユールの兄ちゃん、飲めーっ!」


「ユール! いい飲みっぷりだ! さすが未来の息子!」


 皆と騒ぎながらユールは思った。

 この町に来られてよかった。僕は本当にいい出会いができたなぁ、と――

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