第12話 ユールとお父さんvsゲンマ団
西の区域にある荒れ果てた廃屋。
ここがフラットの町の悪名高き不良集団「ゲンマ団」のアジトである。
廃屋は塀で囲まれており、今のところチンピラたちの姿はない。
二人は真正面から堂々と歩いていく。
「ガイエンさん、塀の門のところ……落とし穴がありますね」
「うむ、下らん罠だ」
ゲンマ団の罠をあっさり看破し、
「今から魔法を撃ちますので」
「存分にやれ」
「土よ! 我が命令に従え!」
穴を土で埋め立てる。
そのまま廃屋に近づいていくと――
「今だ!!!」
大きな網が二人に投げかけられる。これで二人を捕えるつもりのようだ。
「むんっ!」
ガイエンは抜刀し、一閃で網を切り裂いてしまった。
ここでようやく、ゲンマ団の面々が姿を現す。
ユールとガイエンの目の前には、ゲンマとニックが立つ。
「貴様がゲンマ団とやらのリーダーだな」とガイエン。
「ああ、そうさ」
「どうしてエミリーさんをさらおうとしたり、ブレンダさんの酒場を荒らした?」ユールが尋ねる。
「てめえらが余所者だからだよ」
「ブレンダさんは余所者じゃないだろう! この町の人じゃないか!」
「あの女は俺らを出禁にしたり、いちいち説教かましたりしてきたからな。それに余所者の味方は余所者なんだよ!」
ゲンマは身勝手な理屈を言い放つ。
「どうしてそんなに余所者を嫌うんだ!」
「うるせえ、てめえらと話すことなんかねえ!」
もどかしく思うユールだが、それをガイエンが制する。
「こういう輩どもは口で言っても分からん。我々からできるのは武力制圧のみよ」
「ガイエンさん……」
「ただし、こんな輩どもに剣は不要。拳のみで相手をしてやろう」
拳を構えるガイエン。
構えた瞬間、体が巨大化したように見えるほどの迫力がみなぎる。
「ナメやがって……やっちまえ!!!」
ゲンマの号令で、チンピラたちが一斉にかかってきた。
彼らも棍棒や刃物で武装しているが――
「ぬんっ!」
「ぐべあっ!」
ガイエンの拳一発で吹き飛ばされる。
「土よ、塊となりて敵を穿て!」
「ぐおあっ!」
ユールの魔法で打ち倒される。
多勢が、たった二人にまるで歯が立たない。
「ち、ちくしょう……でやあああっす!」
ニックがナイフでユールに襲い掛かるが、風魔法でナイフはあっさりどこかに飛ばされ、自身も竜巻魔法で高速回転させられる。
「うああああああああああああっ!!!」
「これぐらい回せばいいかな」
「目、目が回るっすぅ……」
ゲンマ団のサブリーダーともいえるニックもあえなくダウン。
残るはゲンマのみ。
「さあ、どうする」ガイエンが迫る。
「クソが……やってやるよぉ!」ゲンマが吼える。
最後は騎士団長ガイエンとゲンマの一騎打ちとなった。
ゲンマの拳をひらりとかわすと、ガイエンは右ストレートを叩き込む。
「ぎゃぶっ!」
ユールも「うわっ」と声に出してしまうほどの一撃だった。
だが――
「まだだ……!」ゲンマは立ち上がった。
「ほう」ガイエンも感心する。
だが、実力差は歴然だった。
ガイエンが拳で殴り倒し、ゲンマが起き上がる、というのが繰り返される。
「ゲンマさん!」
「もういい!」
「やめて下さい!」
声を上げるチンピラたち。
「兄貴、もう倒れてくれっす!」ニックも叫ぶ。
「う、うるせえ……」とゲンマ。
もはやボロボロだが、まだ目は死んでいない。
「俺はお前らみたいな連中のボスなんだぜ……こんな王都から来た連中なんかに負けるかっての……」
ユールも思わず冷や汗を流すほどの迫力だった。
ガイエンは無表情で見つめる。
「うおおおおおおおっ!!!」
ゲンマの拳は初めてガイエンを捉えたが、倒すことは叶わず――
「むうんっ!」
ガイエンの拳が炸裂。ゲンマの巨体が大きく吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった。
ユール&ガイエンvsゲンマ団、決着――
***
目を覚ましたゲンマはうなだれていた。
「負けたよ……完敗だ。こんな負け方したらもうイキがっちゃいられねえ。煮るなり焼くなり斬るなり、好きにしてくれ……」
ガイエンは黙って剣を抜く。
まさか斬るつもりか。周囲がざわつく。ユールも「ガイエンさん!?」と声を出す。
ガイエンはそのまま剣を地面に突き刺すと、
「貴様ら……吾輩が鍛え直してやる!」
「は?」
戸惑うゲンマ。
「貴様らは無法者集団ではあるが、団結力、統率力はなかなかのものがあった。最後のパンチも熱いものがこもっていた。吾輩が鍛え直せば、きっとこの町にとって有用な存在になるに違いない!」
「何を言って……」
「この感覚、騎士団長に就任した当初の頃を思い出す! やるぞ、吾輩はやるぞおおおおおおおお!!!」
ガイエンは勝手に燃え上がっている。
「いや、俺らにも都合ってもんが――」
「黙れ! はいかイエスか、どっちだ!?」
「は、はい……!」
「決まりだな!」
ゲンマ団はガイエンに鍛え直されることになってしまった。
ニックが先ほど戦ったばかりのユールに声をかける。
「この人……いつもこんな感じなんすか?」
「うん、まあ……こんな感じだね」
ユールも苦笑するしかない。
「しかし、そのためには今までの悪事を清算せねばならん! まずはブレンダ殿の店に行って謝罪と掃除! 弁償も出来る限りしろ! それから町の人々にも謝るのだ! 分かったな!」
「は、はいっ!」
ガイエンによって強引に改心と更生をさせられたゲンマ団。
それからというもの――
「貴様らは吾輩が騎士団並みの集団にしてやる! ありがたく思え! まずは腕立て伏せ100回!」
「く、くそ……なんでこんなことに……!」
「兄貴、キツイっす~」
ユールの魔法教室と並行して、ガイエンの騎士特訓が始まった。
そしてもちろん、町の厄介者だったゲンマ団を解散させたとして、ユールたちの名声も高まることとなった。




