メイサ大捜査線3〜SIDE店主さん
半年前、顔見知りしか来ないこの店に見たことのない少女が遠慮がちに入ってきた。
16、17歳ぐらいだろうか。明るい茶の髪の、一見どこにでもいそうな少女。だがよく見ると、くりくりと大きな琥珀色の瞳に、形の良い鼻と口、肌も輝くように白い。今は野暮ったい田舎服を着ているが、磨けば貴族の令嬢に劣らないほど素晴らしくなるのではないかと思った。事実、隣に座って帳簿をつけていた馬鹿息子のゲイリーが、ペンを取りこぼしながら少女を穴のあくほど見つめていた。お前は仕事しろ。
少女は私達に向かって愛らしい笑顔で挨拶をすると、何か困ったことはないか、と話しかけてきた。話していく内に、他国から来たこと、この場所が少女の遠い故郷に似ているらしく、ここで暮らしたいと思っていることを知った。
ここは辺境過ぎて祝福石がなかなか手に入らず、万年エネルギー不足だよと、世間話とも愚痴とも取れる話をした翌日、少女は両手で抱えきれないほどの石を持ってきた。そうして一週間暮らせるだけの代金だけ受け取って、残りはエネルギー不足で困っている方に分けてください、と言って帰ってしまった。
それ以来の付き合いだが、いまだに目の前の少女とこの大量の祝福石が結びつかない。ギルドに所属しているという話も聞かないし、同居する人物もいないようだ。ゲイリーの馬鹿は少女に夢中のようだが、少女の方は一線を置いているように見える。きっとなにか事情があるのだろう。
それから少女は、似つかわしくない量の祝福石とともに週に一度、来店するようになった。その度にゲイリーがこちらが恥ずかしくなるぐらい歯の浮く台詞を並べ立てて口説くのだが(だからお前は仕事しろ)、少女は全く気づいていないようだった。その鈍感さは恐ろしいほどだ。
今日もまた、少女が祝福石を携えて店にやってきた。早速ゲイリーが隣に座り、談笑が始まる。いつもどおりの光景が繰り広げられるはずだったが、突然、店のドアが開き、長身で美しい風貌をした騎士が入ってきたのだ。
店主さんのお悩みは、一人息子のゲイリー君が女の子ばかり追いかけて仕事をしないことです。
ただ、ゲイリー君は情報通で口達者なのでご近所のマダムからの人気が高く、顧客を呼び込むという点でお店に貢献しています。ゲイリー君にはゲイリー君のやり方があるのですが、親子故か世代の違い故か、なかなか分かり合えてないようです。