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プロローグ

「あ、ここにもあった。これだけあれば、今週分足りるかな」

 足元にある手のひら大の石を、身をかがめてよいしょ、とひとつ拾い上げる。陽にかざすと、きらきらと薄紫色に輝いた。石といっても、世界樹の幹や枝から剥がれた木片が永い時間を経て化石化したものである。「祝福石」と呼ばれる、この世界での貴重なエネルギー源だ。


 途端にゴオッと風が吹き上げた。祝福石でいっぱいになった籠を取り落としそうになり、慌てて持ち直す。広々とした草原から空を見上げると、遠くに大きな翼を広げたドラゴンが飛んでいた。その羽ばたきが、強風を起こしているようだった。


 片手で籠を抱えながら空いた方の手を上げ、ドラゴンを囲うように空中に小さな円を描き広域術式を展開する。指先があたたかくなると同時に目の前の空中に小さく現れた魔法陣。それと同じものがドラゴンの行く先にも出現し、竜はそのまま吸い込まれて姿を消した。


「最近多いなぁ……ドラゴン……」


 そう、ドラゴン。

モンスターが跋扈し、それに伴い魔法が発達したこの異世界に放り込まれたのは2年前。いつものようにお布団で寝ていたはずが、この世界に転移していた。私を転移させた犯人はわかっている。この世界で絶対的な力を持つ大賢者様だ。

 モンスターに頭を悩ませる諸国において、魔法を極めた賢者が王族や高位貴族と同等の権力を持っている。すべての魔法を極めた賢者、更に新しい魔法を生み出すことのできる大賢者ともなればなおのこと、どの国も喉から手が出るほど欲しい存在だろう。故に、賢者の権力は増すばかりだった。

 かくいう私も、王城住みの大賢者様の弟子として、転移者ながらなかなかに豪華な生活を送っていた。のだけれど、今はというと大賢者様と大げんかの末に家出?して、国境付近のこの街に逃げ住んでいるのだ。


「あの時の大賢者様、めっちゃ怒ってたな〜……」


 腰まで伸ばした美しい銀髪を逆立てて激昂する大賢者様を思い浮かべると、いまだに震えてしまう。あまりの剣幕におそれ慄いた私は、良くしてくれた兄弟子達になんの挨拶もせずに、文字通り無一文で飛び出してしまったのだ。王太子殿下やエルフ、魔法騎士……兄弟子達のメンバー構成といい、王城での生活といい、これでもかとファンタジー要素を詰め込んだ1年半はそれなりに楽しかった。このままずっとこの日常が続けばいいのに、と思えるほどに。だけど、大賢者様を怒らせてしまったのはまずかった。王城どころかこの国にいることすら危うい気がするが、国境を超えて権力を持つ大賢者様から逃げ切るなんてきっと無理だし、所詮転移者の私に頼る人などいないのだ。


 飛び出した後、行くあてのない私だったけれど、幸いにも懸命な修行で魔力をーーー特に召喚魔法をカンスト寸前まで極めていたため、異世界で一人きりという一見詰んだ状況でもたくましく生き抜いている。大賢者様から転移させられた理由を聞いた時はさすがに驚いたけれど、とりあえず真面目な性格故に修行をべらぼうに頑張った。修行は本当にきつかったけれど、あたたかいこの世界の人たちに触れて、初めて人の役に立ちたい、と強く思ったのだ。


「今日だって祝福石をこんなに集めたし、もとの世界に未練もないし、このままここで自由に暮らすのもいいよね! はぁ〜夢の田舎暮らし〜! 目指せスローライフ!」


 そんなひとりごとを言いながら、帰路に着こうと街の方へ足を向けた。


 とはいえ……

王都からかなり離れたこんな田舎にまでドラゴンが現れるなんて聞いたことがない。しかも立て続けに。


「偶然……だよね……?」


 立ち止まり、先程ドラゴンが吸い込まれていったあたりを見上げる。空中の魔法陣は霧散してぼんやりとしたモヤになり、夕暮れで傾いた陽を受けてきらきらと輝いていた。

タイトルにあるのに兄弟子が一人も出てきてなくてごめんなさい。次から出てきます。

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