〈07〉
「記録を開始します」
小声の若い男性の声から映像は始まる。カメラはテーブルに置かれているらしい。周りは身なりの整った客が、何やら高級そうな料理を楽しんでいる。小さく流れている店内音楽もクラシックである
撮影者は緊張しているのか、それとも店内の雰囲気を壊さない為にか、あまり声を張らないようにしている
「今回の依頼者はここのオーナーです。お客様が食事中に失踪する原因を調べて欲しいのだとか…」
少しして、タキシード姿の男性スタッフが料理を運んでくる。料理名などは説明されなかったが、白い平皿にはサラダが少し盛られていた
「…僕、こんな高級店初めてなんですけど…ま、マナーとかありますよね…?」
しどろもどろな独り言を呟いて、撮影者は食事を始める。とても美味しかったのか、驚いたような小さな悲鳴が聞こえた
次にスープが運ばれてくる。具は入っておらず、サラサラとしたスープである。撮影者はスプーンを使って少しずつ飲んでいく
次々と少量の料理が運ばれてきては撮影者がそれを平らげる様子が撮影され続ける。メインと思われる肉料理を食べた撮影者は感動したのか、小さく啜り泣いた
デザートが運ばれてきた時、撮影者が何かに気付いてカメラを持ち上げて周りを撮る。先程までいた客が一人も居ない。テーブルには食べかけの料理が残されている
「…いつの間に…?」
困惑して席を立つ撮影者。すると突然店内の照明が落ちる。音楽も止まり、静寂と闇に包まれる。撮影者はパニックに陥ったらしく、振り回すように周りを撮影する。そして何かに気付いて声を上げる
「解った!失踪の条件!客が」
そこまで言ったところで言葉を遮るように背後から声が聞こえる
「マナー違反ですよ、お客様」
カメラが床に落ちる。まるで撮影者が突然消えたように。そして映像が途切れる
ここで記録は終わっている
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調査依頼
依頼者:室伏治(74)
場所:新潟県某所
内容:来店したお客様の失踪の原因調査
派遣人数:男性職員一名
総評
原因が特定された記録でした。この記録から得た情報をオーナーに伝えたところ、失踪事件が起きなくなったとの報告がありました。回避方法が解る珍しい事案でした




