その7
続きです
そんな変わらない私の生活にちょっとした変化が起こったのは、次の日の昼過ぎだった。私は施設長のデスクの前に居た。
「レクリエーション係?」
絶句してしまった。数日前の杉山さんの『変わった人』というフレーズが頭の中で何回もリフレインされている。変わった人…変わった人…変わった私…
「この業界もね、競争なんだよ。よその施設に勝つためには何かウリが必要なんだよ。悪いが頼むよ。」
「あの…なんで私が選ばれたんでしょうか?」
私は一番の疑問を聞いた。ずっと考えていたが、全く理由が思い当たらなかったからだ。
「うん、まあ、なんだ。」施設長は少し言いよどんだ。
「もしかして…適当ですか?」
私は施設長を睨みつける。いくら上司でも今は感情の抑制が効かなかった。
「違う。そんなんじゃない。」
私の眼力に一瞬ひるんだ施設長は体勢を立て直したのか、言葉に落ち着きが戻っている。
「君がストイックに仕事に接しているのはよく聞いているよ。入居者様に好かれているのもね。だからこそ、だ。君ならリクリエーションに対して真剣に取り組んでくれると思ったんだ。良いレクリエーションはそれだけたくさんの入居者様を喜ばせるからね。適任だろう。」
私は黙っていた。納得はしていなかったが、そのように見られていることに少し嬉しさを感じたことは確かだ。
「何でも協力するから、」施設長は続けた。「うちの施設のこれからの発展に関わるからね。何か心配事があるなら言いなさい。」
ひとついいですか、私は聞いた。
「レクリエーション係は私一人ですか?」
「それは任せよう。必要な人員は確保するから。誰か思い当たる人はいるかい。」
私は少し考えてから、神月さんに頼んでいいかと答えた。
「ああ、いいとも、私の方から言っておくよ。他には?」
「いえ、とりあえず二人で。まだどうなるか分かりませんから。では失礼します。」
私が出て行こうとすると、ちょっと待ってと施設長が止めた。
「何ですか?」
「人員のことなんだが…」と施設長が言い淀んだ。何か言いにくいことらしい。
「何でしょう?」
その態度にイラッとしながら、私はもう一度話を促した。
「…荒木君を加えるというのはどうかな?」
「荒木…さんですか?」
「ああ、そうだ。彼もこの係に向いていると思うのだが。」
一瞬だが、彼の姿が頭に浮かんだ。しかし、それとともに浮かんだ感情は私の心を決定づけた。
「それは施設長の命令と受け取っていいですか?」
「い、いや違う」施設長は私の視線に少し慌てたように訂正した。
「あくまでも僕個人の意見だよ。」
「では、お断りします。失礼します。」
私は部屋から出た。そんなことはあり得ない。私は怒っていた。
まだ続きます