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冬にしか見られない絶景を見に

作者: モグポク

 いくつもの大陸が形成するこの惑星。そして、一番大きい大陸、フロストリア大陸は雪に閉ざされた北国から常夏の南国まで様々な国が点在していた。


 そして、一本、大陸を分断するようなレールが敷かれている。そのレールは時に二本に分かれている場所がある。対向車両が来たときに避けるための線路である。


 そして、この荒野が広がるルマナット地方はその線路しか通っておらず、建物おろか、生物すらも見当たらない。その何もない荒野から汽笛を鳴らし、煙を出しながら走る機関車が南側からやって来た。もくもくと黒い煙が車両の屋根を舐めながら後ろに舞い上がっている。


 車両は客車となっている。読者の皆様はロングシートやクロスシートなど、座席のある車両を思い浮かべる方が多いだろう。しかし、この車両、この客車は寝台列車のように、寝台がついた車両が並んでいた。


 他にも食事ができる食堂車もあるのだが、一番の目玉は、やはり一番前の車両だろう。


 前の客車は素晴らしく豪華な部屋になっており、ベッドはもちろん、豪華な椅子が備え付けられており、紅茶の入ったティーカープや菓子が置かれている。きっとお偉い方が乗っているに違いない。


 前の車両には一般の人が乗ることは叶わない。それほど豪華であった。その中、椅子に座りながら、周りの景色を見る一人の少女が物思いに耽っていた。


 「キレイな景色ね」


 ボソッと、声が出た。荒野には何もなく、曇天が広がっている。何がキレイなのかわからない。


 部屋の中には少女と執事兼ボディーガードと思われる黒スーツを着た男と女がいた。その二人でさえ、その少女の考えていることがわからなかった。


 「にしても、ボクがまさか仕事としてフロストリア大陸鉄道に乗るなんて思わなかったな」


 「ミク王女、まさかとは思いますが仕事以外で大陸鉄道に乗っていませんよね?」


 黒執事の女は疑問に思い質問した。ミク王女と呼ばれた少女は、微笑を浮かべ、


 「まさか、ね」


 と、真相はわからないまま会話が途切れてしまった。



 ミクという少女はナタデココ王国に住む王女様である。金色の短い髪は母譲りであり、金眼は父譲りである。身長は156㎝くらい。一人称は「ボク」である。


 一見落ち着いた王女のようにも見える。実際、冷静に物事を判断し、クールな佇まいである。しかし、中身はとてもアグレッシブな性格である。


 ミクの趣味は旅に出ることだった。勿論王室の仕事というものもあり、その間は王国内にあるお城で一日を過ごすわけだが、少しでも空いた時間ができると、旅の計画を立てて、国内から国外まで旅するのである。


 このフロストリア大陸では友好国内では旅券の提示が不要なのである。なので、身分を隠して、旅を楽しむのである。


 「全く、王女の旅好きにも疲れますわ。このあいだなんて、無断でミネア王国に行くんですもの。探すのどれだけ苦労したことか」


 愚痴を溢すボディーガード。ミクはミルクティーの入ったカップにまた口をつけた。


 「無断ではありませんよ。ちゃんと書き置きを残しました。なんだったらミントには伝えていませんがお母様にはお伝えしていましたよ」


 「ちょっとそれ反則じゃありませんか?それにミク王女のお使いしているバイクの燃料だって、王宮費から出ているんですよ」


 「はは、でもバイクが壊れたらはボクのポケットマネーから出てるじゃないか。この前だって、フレームとスピードメーターの修理だけで高額な修理費を請求されたよ。勿論反論して、半額くらいには値切ったけどね」


 「はぁ~」


 ミントと呼ばれたボディーガードは溜め息を溢した。もうこれ以上ツッコミするのに疲れたのだろう。なにも言わなくなった。男のボディーガードも気を締め直した。


 ミクは大陸鉄道、そしてミクのバイクを使って旅している。船を使って旅したこともある。時には飛行機にも乗った。


 今でこそ豪華なローブを着ているのだが、身分を隠して旅するときは、ポッケがいくつかついているベストと黒のズボン、季節によってコロコロ変わるが大抵はその服装である。


 ダボッとした帽子を被れば、完璧に王女とはわからない庶民の格好である。バイクに乗るときはヘルメットを被っているため尚更わからない。


 「にしても、あまり落ち着かないな。いつもは一般客車に乗っているものだから、ベッドがふかふかなのは違和感があるな。まあ、柔らかいに越したことはない」


 「王女様?貴女は王女様なのですよ。お忘れですか?」


 「たまにボクは身分を忘れることがある。庶民と肩を並べて話すのは楽しいよ。たまに面倒事に巻き込まれるのは大変だが、それあって今のボクがある。そして、ボクはナタデココ王国の王女だ。庶民の角度から物を見た経験で、世をもう少し豊かに出来たらいいなって思うよ」


 「そして、友好国を増やしてまた旅に出る気じゃないんですか?」


 「さあね」


 ミクはミルクティーを飲み干した。そして、外を見る。外は荒野が広がっている。けれど、雪景色に少しずつ変わっている。


 「雪が煌めいているな」


 ボソッと放った言葉は汽車の音で遮られ、ボディーガードには聞こえなかった。


        ◇


 雪化粧の荒野を通りすぎると、山脈とぶつかった。トンネルが続いて、暗闇が晴れると同時にまた暗くなる。その繰り返しだ。


 そして、夜が訪れた。ミクは早くに晩御飯を済まし、寝台列車備え付けのパジャマを着て、早々に寝てしまった。


 列車は数時間刻みに駅に停車した。五分停車して、また出発し、対向列車を待避するためにまた停車して、また出発して、その繰り返しだ。


 冬の線路は暗黒でなにも見えない。機関車だけが光輝いている。


 そして、夜が明けた。


 ミクは既に太陽の光が顔を出すのと大体同じくらいに目が覚めた。男のボディーガードは既に目を覚ましている、というよりかは起きていた。ミントはまだ寝ている。


 ボディーガードはおよそ二時間おきに見張りを交代し、仮眠を取る。丁度ミクが起きたときは男のボディーガードの担当だったのだろう。


 「お早う、ジョセフ。見張りお疲れさま」


 ジョセフと呼ばれたボディーガードは敬礼した。


 「お早うございます、ミク王女。王女がお休みの間、異常はありませんでした」


 「御苦労様。見張りでさぞ疲れているでしょう。ミントの隣で少し寝てて」


 「しかし、見張りも大切な任務であります。ご理解の上承知していただけないでしょうか」


 「いや、これは王女命令だ。今すぐ寝たまえジョセフ。それとも、ボクの命令に反すると?」


 ジョセフは渋い顔を浮かべた。王女の命令に反することは、業務違反でもある。勿論女王様の命令の方が優先度は大きいが、如何なる時でも見張れではなくボディーガードとしてミクをよろしく頼むとしか言われていない。


 女王様はこのような展開を予想していたのだろう。だから、常時見張れとは言わなかったのだ。


 「ボクなら大丈夫さ。ボクを誰だと思っている。幾度の修羅場を潜り抜けた王女だぞ」


 ジョセフはなにも言えなくなった。暫しの沈黙のあと、ジョセフは溜め息をついた。


 「わかりました、王女。暫しの時間御免!」


 そして、命令通りミントの隣で横になった。疲れていたのだろう。すぐに寝た。その横でミクは微笑を浮かべた。


 「さて、ボクはシャワーでも浴びておくかな」



 時間にして午前八時くらいだろう。ミントの悲鳴によって列車内の朝を迎えた。


 「なんであんたがここで寝てんのよ!」


 ミントは目の前に男が寝ていていることがわかって悲鳴をあげた後ジョセフの腹を蹴っ飛ばした。すぐにジョセフは目を覚まし、苦しみ悶えた。


 「それは、王女命令だ」


 「はあ?それであんたはわざわざあたしのベッドで、あたしの横に寝てるわけ?別に寝るところがあっただろうが!」


 「知るか!王女様に聞いてくださいよ!」


 「はは、いつもながら面白いボディーガードさんだ」


 ミクはスクワットを終わらせた後悲鳴を聞き付け、何事かと様子を見に来た。したらミントが憤怒し、ジョセフが悶え苦しんでいる。この状況を楽しんでいた。それはまるで小悪魔のようであった。


 「王女。何故ジョセフがわたくしの横に寝るように命令したのですか?」


 「何故って。その方が面白そうだったから」


 「なんでよ!失礼、取り乱しました」


 「ふふ、別に良いですよ。それに、畏まらなくてもボクが身分を隠して旅しているときの接している時はそんな感じに娘のように接するじゃないですか」


 「それは王女が御身分をお隠しになっているからですよ!今は公務で大陸鉄道に乗っているわけですよ。ボディーガードという仕事中なのですからいつものとは違うのです!もし他の方に見られたらたまったものではありませんよ!」


 まあまあとジョセフ。しかし、犬歯剥き出しのミントには効かなかった。その時、客室のドアが開いた。


 「ナタデココ王国の王女御一行様。朝食の準備が整いました」


 車掌のその一言で久しぶりに静寂が訪れた。



 通常、朝食の前に毒が入っていないか毒味が行われる。今回もそうで、毒味役はボディーガードが受け付けている。


 「この朝食は安全ですよ、王女」


 その言葉で朝食を食す。パンにジャムがついており、スクランブルエッグとミルクという質素な朝食だった。それをゆっくり食べた。


 「にしても、久しぶりに毒味しましたね、ジョセフ」


 ここは、別室。そこにはミントとジョセフがいた。二人はここで着替え、髪を整え、護身用の銃の手入れをしたりした。ジョセフは護身用の拳銃の手入れ中、ミントはすぐ横にあるシャワー室に入っている。シャワーの音が部屋中と微かにミクの耳にも聞こえていた。


 「前の毒味はなんだっけ?ゲテモノ料理だったっけなぁ」


 「ほんと、あの料理だけは毒味したくはなかったわ。虫料理は慣れないわね」


 少しまえ、とある国で虫料理店を見つけたミクは興味を示した。


 「何事でも経験だ」


 と、二人を連れて虫料理を頼んだ。結果、ありとあらゆる虫料理がテーブルを埋めつくし、その分毒味役になったのだ。


 「味は美味しかったけど、見た目がねぇ」


 「はは、確かに見た目はね」


 閑話休題。


 「後どれくらいで着くわけ?」


 「後四時間弱」


 「了解。ていうか、あんたも立派な側近になったわねぇ」


 ミントがシャワー室から出てきた。シャワーの水とシャンプーとボディーソープの香りが煌めいている。姿に関してはご想像にお任せしたい。ジョセフは微笑を浮かべながら、銃の手入れを続けながら言った。


 「それは君もだろ?」


 ミントとジョセフは幼馴染みでそれなりの物語を体験したのだが、今回は時間と尺の関係上割愛させていただこう。所謂二人の関係はご想像にお任せしよう。



 ミクも到着に合わせて準備を始めた。私用の旅とは違いそれなりの格好をしなければならない。ドレスを着て、王女らしい振る舞いをすること、それも仕事のうちである。


 ミクは白に水色の入っているドレスに身を包んだ。着付けにはミントが手伝い、ジョセフが見張りをした。勿論周囲警戒だよ。


 「これで大丈夫かな?」


 「はい、よく似合っておられますよ、ミク王女」


 「まもなくナッツ駅に到着します。用意は大丈夫ですか」


 「ああ、少し歩きにくいが大丈夫だよ。君達もそれなりの対応をしたまえ」


 二人は敬礼し、返事をした。


 雪に包まれた街に汽車は停車した。ナッツ駅は、それこそ雪国の駅にピッタリであった。


 ミク一行は汽車から下車した。そして、王女を一目見ようと集まった数多くの人々に迎えられた。ミクは淡い水色のドレスを着ていて、雪と合ってとても美しかった。


 『いらっしゃいませ、ミク王女』


 と書かれた旗を見て、そして人々に手を振りながら駅校舎から出ようとした。


 「お待ちしておりましたミク王女。ようこそスノーマウンテン王国へ。心から歓迎いたします」


 「お出迎え心より感謝申し上げますカルロ殿下」


 カルロ。スノーマウンテン王国の次期王様の弟に当たる。黒髪少年に白いスーツを着込んでいる。実はこのスーツは保温性に特化している。対して、ミク王女のドレスは残念ながら寒さ対策を無視した服装なので、冷静に対応しているが鳥肌が全身に走っている。


 「さあ、お迎えの車を用意しております」


 「殿下、その車に暖房は付いておりますでしょうか?」


 「え?まあ付いておりますけれど」


 「ありがとう存じます!!!」


 「は、はあ。どういたしまして」



 黒の車が駅前から出発した。規制線が張られており、人々はその車にミク王女が乗るところまで見ていた。そして、城までの道に車が向かっているところを見て帰ろうと支度を始めた。


 「初めてこの国に来たけれど、すごく寒い。カルロはこんなクソ寒いところに住んでいるなんて、なんと悲しい現実」


 「あはは、ナタデココ王国は南国だもんね。常夏なんていいなぁって何回も思ったよ」


 ミクとカルロは昔からの腐れ縁である。残念ながら友好国同士ではないものの、パーティーの際にいつもナタデココ王国に出向いては二人で遊んでいた。


 「で、最近はどこを旅したの?」


 カルロはいつもミクの旅話に興味津々だった。カルロ自身はあまり旅に出ない。だからこそミクの話には毎度毎度目を輝かせて聞いていた。


 「じゃあ、ムールに旅したことを話そう」


        ◇


 十分程度旅の話をした後、車はスノーマウンテン城へと到着した。ミクは車を出ることを惜しんで寒い外に出た。


 「ここにはスノーモービルがあるのだな。運転したことある?」


 脇に、スノーモービルが置いてある。スノーモービルは雪の上を走ることのできる便利な乗り物である。


 「ないよ。それに僕は運転できないよ」


 ミントとジョセフが周囲を警戒しながらミク王女を守っている。


 「えっと、あなた方がミントとジョセフだっけ?」


 カルロがミクの横を歩きながら唐突に質問した。


 「はい、カルロ殿下。私がミントと申します」


 「私はジョセフと申します、殿下」


 「色々お話聞かせていただきました。お二人は面白い側付きですね」


 「失礼ですが、殿下。何処までお話をお聞きになられましたか?」



 場内に入り、豪華な玄関が出迎えた。豪華なシャンデリアが吊り下げられており、辺りがシャンデリアの光で煌めいている。そして、大きな名画が壁にかけられており、壁にも装飾が施されている。


 「お待ちしておりましたミク王女様」


 豪華な玄関にて、執事が出迎えた。白い髭を生やした執事が中心に立ち、少し後ろにメイド服を着たメイドが一礼した。


 「明日の会談に向けて、本日は御部屋をご用意いたしております。後ろにおりますメイドが先導致しますゆえ、なにかございましたらメイドにお申し付けくださいませ」


 一礼し、執事はこの場から去った。メイドが「ご案内いたします」とだけ言ってミク達を先導した。


 「では、私はここまで。明日の会談でお会いしましょう、皆様」


 カイロはそう言って、ミクが振り返ったときにはカルロの姿は何処にもいなかった。


 城内も豪華な絵画がずらりと並び、庭は綺麗に手入れされている。雪国ではあるものの、場内のどこにいても暖かく寒さは感じられない。幸い、ミクが歩いても寒さに震えることはなかった。


 「ここでございます、ミク王女様。なにかございましたら私達にお申し付けくださいませ」


 部屋に着くとメイドはそれだけ言って、ドアを開けた。中はベッドが中心にあり、大陸鉄道の豪華客車のような豪華絢爛な内装にされており、そしてすごく広い。暖かく、暖房がよく効いている。


 ボディーガードは部屋のなかには入らず、ドアの近くに立ち、見張りを続ける。一瞬たりとも気は抜けない仕事なので、二人は会話を交わさず、緊張が走っている。


 「相変わらず王国の城の部屋は豪華だ」


 「いたみいります」


 メイドの人は知らない。彼女が身分を隠して多くの格安ホテルに寝泊まりしていることを。


        ◇


 それからはミクにとっては暇な時間が訪れた。勿論明日にはナタデココ王国とストーマウンテン王国との会談が控えているため、それに向けて準備に充てるのだが、準備を終えてからは、なにもすることはなかった。


 夕日が沈み、暗闇が辺りを包んだところで、大広間にて、晩餐に呼ばれた。そこでスノーマウンテン王国の王子様に出会い、明日の会談の話など、色んな事を話した。カルロもその晩餐に参加していたが、ミクと話すことはなかった。


 晩餐が終わると、夜の庭を案内されそうになったが、暖房が効いておらず、極寒のため丁重に断ろうとしたが、


 「安心してください、ミク王女様。寒さを凌げる毛皮のケープをお貸し致します」


 と言われたので、物は試しだと言い、ケープを着たものの、


 (寒い!)


 と心のなかで半ば発狂しながら、それでも笑顔を保って庭を回った。寒さに慣れていないとここまで違うのかということを思い知らされた。


 そして、ローブ型のパジャマを借りて、早々に寝てしまった。


 そして、夜が明けようとしていた。


 「ミク、ミク、起きて」


 静かな寝室に一人の青年の声が聞こえた。ミクはすぐに目を覚まし、目の前の光景に呆れていた。


 「カルロ、何の用?まだ夜は明けていないよ」


 「見せたいものがある。すぐに来てほしい」


 ミクはカルロに手を握られ、部屋から連れ出した。その時に貰った毛皮のケープも忘れない。


 部屋を出発し、城の裏口からカルロとミクは場外へと出た。


 「ちょっと、カルロ、城から外に出て大丈夫なの?」


 「大丈夫、大丈夫!」


 とだけ言ってカルロは前へ前へ走っていった。ミクはまあ大丈夫だと判断したのだろう。カルロについていった。


 山の上を登り、カルロは少々疲れていた。勿論ミクは日常茶飯事だから疲れる様子も見せない。


 (今日の運動はこれでいいか)


 などと思いながら軽々と岩場を越えていった。カルロはミクの運動神経の良さと体力の多さを知っているからなにも言わなかった。


 「ここだ、着いたぞ」


 カルロはようやく足を止めた。そこは少し開けていて、国中のすべてを見渡せた。


 東側から太陽が顔を出そうとしている。


 しばらくして、太陽が東の山から顔を出した。夜明けが訪れた。


 気づけば、辺りはキラキラとしたモノが舞っていた。


 「なんだこれは!?」


 ミクは目の前の光景に目を輝かせた。初めて見る光景が全てまぶしく見えた。


 「ふふ、喜んでくれて嬉しいよ。この国ではたまに見られる現象なんだ。僕たちはこれをダイヤモンドダストと呼んでいる」


 ダイヤモンドダスト。ダイヤのように輝いた水蒸気の結晶が、辺り一面に舞っていた。南国では見られず、北国の、それも条件が合わないと見られない。


 「煌めいているな」


 ミクはボソッと言った。ミクの目からは一筋の涙が流れ、雪の上に消えた。カルロはより笑顔になって目の前の景色にミクとより耽った。



 「とてもきれいよね」


 「ああ、初めて見るがここまできれいなものが見れるとは、来た甲斐があったな」


 少し離れたところに黒スーツを着た男と女がいた。二人の横にはスノーモービルが停車している。ミクとカルロを隠れながら追っていた二人は目の前の光景に感動し、二人を監視する一方、この煌めきを目蓋に焼き付けた。


        ◇


 数時間後、会談が行われた。それは友好国となるか決まる重要な会談であり、ミク王女が友好国として認めたのは言うまでもなかった。

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[一言] 銘尾友朗様の「冬の煌めき企画」から拝読させていただきました。 明るく元気な王女様の小さな冒険。 お供の二人は大変でしょうが、楽しく読ませていただきました。ありがとうございます。
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