姉弟のクリスマスの一日
「今日はクリスマスだー!!」
御華は、今日と言う日を楽しみにしていたのだ。
「ふふ、そんなにクリスマスが嬉しいのね」
隣の部屋で作業をしていた姉は、御華の部屋から聞こえた声を聞いて、とても嬉しそうに言う御華の姿を想像して笑顔になった。
「よーし!今日は張り切るぞー!!」
声だけでも、両手を上に突き上げている姿が想像できる。
「ふふふ……」
なんとも、微笑ましい光景が想像できた姉は、笑いが込み上げて来た。
バッン!
ドダドダドダー!
「まずは朝食からだー!」
部屋を出て、料理を作りに台所へ向かおうとしている御華は、走って廊下を進んでいた。
その足音に気づいた姉は笑いを収めて、
「御華!廊下は静かに歩きなさい!」
部屋のドアを開けて、前を通り過ぎた御華に注意をした。
ビクッ!
「はい……」
姉が起きてるとは思っていなかった御華は、驚きからその場で立ち止まり、小さく返事をした後、歩きながら台所に向かって行った。
「はしゃぐのは良いのだけど、はしゃぎすぎよ」
降りていく御華を見ながら、そっと独り言を言った。
「さてと、私もやることをやりましょうか」
御華が見えなくなった頃、姉はそう言って、部屋に戻って行った。
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「よし!」
バチーン!
先程までの気分を追い払うかのように、両手で自分の頬を叩いて、気持ちを切り替えた。
「今日の朝食は何にしようかな?」
夜は豪勢にするのは決まってるから、朝と昼は軽食が良いかな?
うーん……冷蔵庫を見てから決めるかな。
「これにしよう」
冷蔵庫の中を見て、作る料理を決めた。
パッン
必要な材料を取り出した後は、冷蔵庫を閉めて、料理を作る準備に入った。
バッ!
キューーー……バッ!
キュ!キュ!
「よし!」
エプロンを着た御華は、さっそく料理に取り掛かった。
「先ずは、火をつけて」
カチッ ボォ!
「シャケから焼こうかな」
フライパンの上に、二切れのシャケを乗せて、焼き始める。
ジュー
その時に、シャケがくっつかないように、菜箸を使って位置をちょくちょく移動させる。
片面が焼けたら、ひっくり返す。
もう片面も焼けたら皿に取って、出来上り。
勿論、火は止めて。
「次は、卵焼き」
コンコンコン…ピシ
卵に衝撃を与えて、ヒビが入ったらボールに中の黄身と白身を入れる。
パカッ
入れたら、砂糖を一つまみ入れて、先程使った菜箸でかき混ぜる。
シャカシャカ………
混ぜ終わったら、先程使ったフライパンを退かし、卵用のフライパンを置き、火を付けてから、平な部分が少し見えなくなるぐらいの卵を流し込み、少しの間、見守る。
そして、固まり始めたら、菜箸で卵を巻いて行く。
巻き終わったら、また卵を流し込み、固まったら巻いて、の繰返し。
玉子焼きが出来たら、包丁で等間隔で切ったのを皿に乗せて出来上り。
「あっ!お味噌汁作るの忘れていた!はぁー、料理が冷めてしまうから、今回は諦めよう。次は何を作ろう?……漬け物はある、ご飯も昨日の残りがあるし、足りない物と言えば野菜?」
漬け物だけだと、野菜が足りないと思い。
冷蔵庫から、キャベツとニンジンとキュウリを取り出し、台所の上に並べた。
「シンプルにサラダで良いよね」
作る料理を決めた御華は、野菜を水洗いし、まな板の上に乗せて行った。
「うーん、どのくらいの量を作るか……」
昼の分は当然として、夜の分を作るべきか。
少しの間、悩んだが、
「全部、一気に作っちゃえば良い」
考えるのを止めて、作ることに決めた。
トン トン トン………
シャキシャキシャキシャキ
ニンジンとキュウリは、細切りにして、キャベツは千切りにした。
それを、今食べる分は皿に取り、今食べない分はボールに入れた。
「よし!完成!」
料理が冷めてしまうのも考えて、使った調理器具は後で洗う事にした。
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料理を食卓に並べ終わった御華は、姉を呼びに行った。
コンコン
「姉さん、ご飯出来たよ」
「今行くわ」
御華が声を掛けると、すぐに姉からの返事が返って来た。
ガチャ
「お待たせ」
それからすぐに、姉は出てきてそう言った。
「行こう!」
私は姉さんの手を掴んで言った。
「分かったわ」
姉は微笑ましく思いながら、頷いた。
それから二人で階段を下り、食卓に座った。
二人は同時に手を合わせて、
パン!
「いただきます」
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食事を終えて、二人はテレビを見ていた。
『今日はなんと!あの有名アイドル、れかちゃんが来てくれましたー!』
『やっほー!みんなのアイドル!れかちゃんだよ!今日はよろしくね!』
『はい!よろしくお願いします!』
『堅いよー!もっと柔く!』
『え?は、はい!』
『堅い!もっと柔く!』
『は、はいー!』
アナウンサーとアイドルのやり取りがおかしな方向に行き始めた頃、
「れかちゃん、面白いよね!」
「そうかしら?」
御華は楽しそうに言い、姉はアイドルとアナウンサーのやり取りを見ながらそう返した。
「面白いよ!破天荒でいつも面白いんだ~!」
「破天荒?」
画面に映っているアイドルを見て、疑問に思う。
(破天荒じゃなくて、自由奔放じゃない)
彼女の行動は、企画など関係無いと言わんばかりの行動が多い。
アナウンサーの混乱してる様子からも、想定外だと分かる。
「破天荒じゃ「うん?」……破天荒ね」
ナデナデ
「破天荒じゃないわよ」っと言おうとしたが、「何?」っと不思議そうに首を傾げ見てきた御華を見て、言うのを止めた。
「うん!」
頭を撫でながら言うと、元気な返事が返って来た。
「破天荒な事をしそうなのは御華よ」
御華に聞こえない程の小さな声で呟いた。
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有名アイドルの出演が終わった後、御華は姉に問いかけた。
「姉さん、夜用の食材買いに行ってくるけど、何か買ってくる物ある?」
「私も行くわ」
「えっ!?」
姉からの返答は意外だったのか、御華は口を開けて驚愕した。
「私が着いて来ることが意外?」
御華の驚愕した理由を見透かしたかのように、問いかけて来た。
「うん!」
そこまで意外だったのか、御華は見透かされたなんて考えもせずに聞いた。
「そ、そうなの……ゴホン!クリスマスの日だから、御華は豪華な料理を作ろうとするでしょ。そしたら、荷物を持ちきれないだろうから、私も手伝うわよ」
分かっていながらも、ハッキリと言われて、姉はダメージを受けた。
少しの間固まっていたが、再起動した姉は理由を述べた。
「おぉー!その通りだよ姉さん!」
予定していた事を当てられた御華は、感嘆の声を上げた。
「ふ、ふふん!御華のお姉ちゃんですから!」
可愛い御華に褒められて、嬉しかった姉は当たり前だと言い切った。
「凄い!凄い!」
その言葉を聞いた御華は、さらに褒めながら、キラキラした瞳を向けた。
「むへぇ~~……はっ!御華、そろそろ買い物に行くわよ!」
色々ノックアウトした姉はだらしない表情をしていたが、なんとか理性を取り戻し、買い物に行こうと言った。
「へ?……あっ!そうだった!」
「姉さん凄い!」と尊敬の眼差しを向けていたが、姉に言われて目的を思い出した。
「準備が出来たら行きましょう!」
凛とした態度で御華に言ってる姉だが、
(うぅ~~!!あんなだらしない表情を見られた!姉としての威厳が~~!!!)
先程の自分の表情を想像して、心の中で悶えていた。
「分かった!」
姉の言葉に御華は返事をして、買い物に必要な物を取りに行った。
その間、準備をする必要が無い姉は悶え続けるのだった。
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「着いたー!」
「久しぶりに来たけど変わってないわね」
二人は近所のスーパーに来ていた。
御華はいつも来ているので、なんとも思って無いが。
久しぶりに来た姉は、前に来た時と変わらないスーパーを見て、懐かしさを感じていた。
「あれ?……姉さんは、久しぶり来たんだっけ?」
姉の言葉に、疑問に思った御華は聞いた。
「ええ、一年振りかしら?」
最後、いつ来たのかあやふやな姉は、だいたいの当たりをつけて言った。
「そんな前だっけ?」
しかし、御華の中だと、そんな昔では無かったらしい。
「そうかしら?御華の記憶だといつ?」
姉も、自分の記憶が正しいとも思っていなかったので、御華に問い掛けた。
「え~とねぇ~……一週間前!」
両腕を組み、少しの間悩んだ後、そう答えた。
「はぁー……一週間前は、私は用事が有って夜になるまで居なかったじゃない」
「そうだったけ?」
姉は用事が有り、買い物をしてはいないと言われた御華は、自分の記憶が間違っていたかな?っと思った。
「でも、一週間前に行った気がしたんだけどなぁ~」
「うん?……もしかして、知らない人と買い物に行ったの!?」
御華の言葉に疑問を感じた姉は、頭の中で浮かんだ可能性を御華に聞いた。
「うんうん、知らない人とは遭遇していないよ。私は、姉さんと行ったんだよ」
「そ、そうなの……」
御華の返事を聞いて、ホッと安堵したが。
それだと、その後の言葉が理解できない、っと思った。
(私と行った、一週間前、一年前、うーん………)
暫く悩んでいたが、突然、大声を上げた。
「あっ!」
姉は、自分の中に雷が走った感覚がした。
それほどまでに、衝撃だったのだ。
「ど、どうしたの!?」
姉の大声に驚いた御華は、混乱しながら聞いた。
「驚かせてしまったわね」
ナデナデ
御華が混乱してるのを見て、自分が大声を上げていたことに気づいた姉は御華の頭を撫でながら謝った。
「へに~~~」
混乱していた御華だったが、姉のナデナデに落ち着くどころか、顔が蕩け始めた。
スーパー入り口、真ん前で起こった姉妹?のやり取りを見た買い物客達は、
「なんと尊い………」
二人の尊さに、その場で気絶しながら、
「仲が良いわねぇ~」
微笑ましく視ながら言い
「くっ!俺が犯罪者に堕ちるわけには!」
男性は顔半分を片手で覆いながら
「ふひひ、本が書きたくなる……」
怪しい雰囲気を纏った女性が、笑いながら言う
「ふん!貴様らの魅了は効かない!………グハァ!」
両腕を組みながら言うが、可愛さに殺られた
「ッ!?だ、大丈夫かー!!」
「戦友よ……大丈夫、だ………俺は…負けない!」
血を吐きながら、友に覚悟の程を見せつけた。
「おい!しっかりしろ!妻が待っているんだろ!!」
涙を流しながら、血を吐く友に声を掛け続ける。
「何をやってるの、アンタ達」
二人のやり取りを見た女性の呆れた言葉が、誰に届くことも無く消えて行った。
「へにゃにゃ~~~~」
完全に表情が蕩けきった御華を見た姉は、至福の喜びを感じていた。
「………はっ!危うかったわ」
御華を愛でる機械と化しそうになりかけた頃、なんとか意識を取り戻した。
「どうしたのぉ~~~?」
目を擦り、眠そうな声になりながら、姉に聞いた。
「な、何でも無いわ。それよりもお店に入りましょう?」
(御華は将来、周りを魅了してしまう存在になるわね……)
御華の将来を心配しながらも、姉はお店に入ろうと誘った。
「ぅん~?……あっ!買い物に来たんだった!」
姉の言葉でお店を見た御華は、暫くボーっと視ていたが、お店を見て目的を思い出したのか大声を上げた。
ビクッ!!
「「「「「ッ!」」」」」
二人のやり取りに注視していた周の人達は、急な声に驚いて肩を跳ね上げた。
ビク
「思い出したのね?」
姉も少なからず驚いたが、先程の不安を誤魔化すように問い掛けた。
「うん!」
姉の問い掛けに、笑顔で頷いた。
「それなら良かったわ」
胸に両手を当てて、ホッとしながら御華に言った。
たゆん
「おおおおおぉぉおーー!!」
ビシャーー!!
その時に揺れた物を見た男共は鼻血を噴射しながら歓喜した。
ビクッ!!
「な、何!?」
男共の大気を揺れるかと思うほどの叫びに、御華は体を縮ませて怯えながら姉にすがりついた。
「大丈夫、大丈夫よ。お姉ちゃんに任せなさい」
姉は御華を安心させるように頭を撫でながら言う。
「うん……」
涙を目に溜めながら、安心した表情で姉を視てくる御華、
(くっ!……御華を泣かせた人達は許せないけど!ナイスだわ!)
声にこそは出さなかったが、心では御華の可愛さに悶えていた。
「ふふふ、目を瞑り、耳を塞いでいなさい」
心では思ってることを、表情には一切出さずに指示を出した。
「うん、分かった」
御華は、姉の指示通りに目を瞑り、耳を塞いだ。
御華が耳を塞いだのを確認した姉は、男共に振り返り、
「貴方達、よくも私の大事な御華を怖がらせてくれたわね?」
ビクッ!!!!
「「「「「ッ!!!!」」」」」
姉は男共に語りかけるように言ったが。
男共からしたら、辺り一帯の温度が下がり、体が硬直していく感覚がした。
「どうしたの?先程みたいに叫んだらどうかしら?」
男共の返事など、期待しておらず。
独り言を言うかの如く、男共に問い掛ける。
「い、いやぁ~~……ははは」
「なんのことでしょうか?」
「この俺が、叫び筈が無いですよ……」
「そうっすよ……」
「はははははは………」
「「「「「ふっ!!」」」」」
ジリジリと後ろに下がり、十分な距離を取ったと同時に逃げ出した。
「ねぇ?逃がすと思う?」
「「「「「ヒィィィィイー!!!」」」」」
ズサーーー!!
耳元で聞こえた気がした男共は、悲鳴を上げてずっこけた。
「止まったわね?ふふ、貴方達には死より恐ろしい事が待ってるわよ?」
男共全員が、ずっこけたのと同時に死んだフリ作戦を決行していたが。
姉の言葉にうすら寒いものを感じながらもやり過ごそうとした。
「ねぇ、皆。御華を恐がらせた事を後悔させたいと思わない?」
男共は、さらに寒気が強まるのを感じた。
もっと恐ろしい事が待ってるんじゃないかと恐怖が支配していく感覚。
男共は泣け叫びたい気持ちに駆られながら耐え忍ぶ。
「えぇ、そうね~」
「ふひひひ、良いネタになりそうだ………」
「賛成よ。きっちり反省してもらうわ」
「ふっ!良い写真が撮れそうですな!」
ビクッ!
「「「「「……………」」」」」
一部の恐ろしい言葉に、恐怖から体が反応してしまったが、なんとか堪えた。
「そうよね。なら、後悔をしっかり刻ませて上げましょう」
「「「「「はっ!」」」」」
今ここに、女性達による“男共後悔”を掲げたチームが出来上がった!
「でも、ごめんなさい。私には御華との買い物があるの。だから、彼らの事は任せて良いかしら?」
姉は申し訳なさそうに、仲間に謝った。
「大丈夫よ」
「ふひ、人目のつかない場所で………ふひひひ」
「任せて」
「良い!素晴らしい写真が撮れる未来しか見えないですよ!」
彼女らは、それぞれの言葉で「任せろ!」っと言ってくれた。
「みんな、ありがとう。御華、私が手を引くから、お店の中に入るまで目を開けては駄目よ」
コク
彼女らの暖かい言葉に、涙を一滴溢した姉は、男共を任せて御華との買い物に向かって行った。
姉と御華を見送った彼女らは、匍匐前進で逃げようとする男共を見て、
「逃がさないわ」
「ふひ、ふひひひひひひ」
「諦めなさい」
「貴方達は新たな扉を開けるのですぞ!」
「「「「「嫌だーー!!」」」」」
最後の言葉に全力の拒否を示して、男共は走って逃げようとするが、
ガシ! ガシ! ガシ! ガシ! ガシ!
「「「「「逃がさない」」」」」
彼女らに捕まった男共の行方は誰も知らない…………
__________________
「御華、もう安心よ」
お店の中に入った姉は、御華に大丈夫だと伝えた。
「ほんと?」
それでも、まだ少し不安なのか、弱々しく姉に聞く。
「ッ!………え、えぇ、大丈夫よ」
可愛さにやられた姉は一瞬、思考停止をしてしまったが、すぐに再起動して大丈夫だと再度伝えた。
「…………」
パチリ パチリ キョロキョロ
姉の言葉で安心したのか、目を開けた。
それから、先程の声の人達がいないか周りを確認した御華はホッと安堵した。
「大丈夫でしょ?」
「うん!」
姉の言葉に、先程までビクビクしていたとは思えない程、元気な声で頷いた。
「それじゃあ、買い物を始めましょうか?」
御華が元気になったのが確認できた姉は、そう言った。
「うん!食材をいっぱい買うぞー!」
御華はやる気を漲らせて、買い物カゴを取りに行った。
「ふふ」
御華を微笑ましく見ていた姉の中には、男共の事など記憶から消え去っていた。
「姉さん!行こう!」
カゴを手に入れた御華は、ダッシュで姉の元に戻り、服を引っ張って、行こう!行こう!と急かした。
「分かったから、そんなに服を引っ張らないで」
内心、可愛い!っと思いながらも、表情にも一切出さなかった。
「分かった!」
姉に注意されようとも、シュンとはならず、元気一杯のままだった。
それほど、姉との買い物が楽しいのか、それとも、クリスマスが楽しいのか……いや、その両方だろう。
「まったくもう……」
御華の笑顔に、色々癒された姉は顔を片手で覆って、小さく呟いた。
「姉さんどうしたの?」
顔を片手で覆った姉を見て、不思議そうに首を傾げて問い掛けた。
「大丈夫よ。それよりも、買い物を始めましょう」
姉は御華の手を掴んで言った。
「うん!」
御華は強く頷いて、姉を引っ張って行くたち位置になり、食品売り場に向かった。
「そんなに急がなくても大丈夫よ」
御華に引っ張っられる形になっている姉は、そう言いながら御華の後に着いて行った。
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〈買い物の様子〉
「これは………」
御華は宝物を見つけた様な驚きを感じながら、偶々見つけた食材を手に取った。
「御華、コレは要る?」
姉は、使いそうな食材を見つけて来て御華に聞いた。
「うーん………要る」
御華は少し悩んだが、明日の朝食にちょうどいいと思ったのでカゴに入れた。
「ッ!………これは」
御華の目の前には、大好物のアイスクリームがバケツ程の大きさが売られているのを発見した。
「太るから駄目よ」
物欲しそうに姉を見てきた御華に、無情にもバッサリと切り捨てられた。
「うぅ………」
御華は、姉に引きずられながら離れて行くバケツアイスクリームを呻きながら見詰める。
「これは欲しいわね」
入浴剤を手に取りながら姉は呟く。
「見せて!」
姉がそこまで言う入浴剤が気になった御華は、姉の袖を引っ張って言った。
「良いわよ」
「?」
そう言って、姉が入浴剤を見せてくれたが、御華には他の入浴剤と何が違うのか分からなかった。
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「ふっふっふっふー……これだけあれば十分どころか、数日分はある!」
会計を終わらせた御華は、カゴ一杯にある食材を見て、物凄い上機嫌だった。
「はぁー……これだけの食材、持ち帰れるかしら……」
姉は、目の前にある食材を見て呆然とした。
(買い物してる時は気づくどころか、気にしてなかった。でも、いざ買い物が終わると気づくなんて……手遅れとしか言いようがないわね)
後悔と言うのか、過去の自分を叱りたくなってしまったが。
もう手遅れと思って、諦める事にした。
そんな事を思っている姉の隣で、
「よーし!今夜の晩御飯は豪華に行くぞー!」
周りの人が見ている事も関係なく、御華は上機嫌なまま両手を上に伸ばして大声を上げていた。
「御華、豪華なのは嬉しいのだけど、二人で持ち帰れると思うの?」
姉は微笑ましく思いながらも、一番の心配事を御華にどうするのかを聞いた。
「えっ!………頑張って持ち帰る?」
姉に言われて始めて、量が多いことに気づいた御華は、少しの間悩んだ末に、単純明快な回答をした。
「はぁー……最終手段を使いましょう」
御華に少し期待していた姉だが、諦めて最終手段を使う事にした。
「最終手段!どんなの!」
最終手段の言葉にワクワクした御華は、姉に聞いた。
「タクシーよ」
「え………」
「「「「「………………………」」」」」
シーン
姉のその言葉は、周りを静かにさせる程の効果があった。
姉の回答が予想外で、御華は固まってしまった。
姉の回答は、一番お金が掛り、一番楽な方法であり、贅沢な方法すぎて、御華は思考停止したくなってしまった。
「や、やめよう」
硬直から戻って来た御華は、姉にすがり付いて「やめよう」っと訴えた。
「うっ………駄目よ。この量を持ち帰ったら料理を作るどころでは無くなってしまうわ」
御華のすがり付きにやられそうになったが、なんとか堪えて駄目な理由を教えた。
「うっ………そ、それなら、カートを借してもらえば……」
「迷惑を掛けるから駄目よ」
なんとか代案を言うが、姉にキッパリと切り捨てられた。
今、二人の周りに居る客と従業員達は息を呑み二人を見ていた。
「うっ!………で、でも!」
姉の言葉が正しいと分かっていても、買い物でタクシーを使うのは贅沢だと思った御華は、諦めずに駄目だと言うとした時、
「折角のクリスマスなのだから、贅沢しても良いとは思わない?」
姉に遮られ、逆に悪魔の囁きをして来た。
「うぅ~~!……で、でもぉ~~」
姉の悪魔の囁きに心が揺らされた御華は、呻きながらも必死に抗う。
「御華は、買った物を落として駄目にしたいの?」
悪いとは思いつつも、この状況が楽しくなって来た姉は、さらに御華に囁く。
「うっ!うぅ~~~~!!」
もう、「う」しか言えなくなるほど姉の言葉に傾き始めた。
それでも、駄目だと訴える心の叫びを支えにして対抗する。
そんな緊迫した状況の中に、救世主が現れた。
「ふひひひひ、私が送って上げようか?」
そう、“男共後悔”が一人、怪しげな雰囲気の女性が現れたのだ!
「貴女は!」
姉は驚いた。
「だ、誰?」
御華は女性に、怯えながら聞いた。
「ふひ!私が誰なのかは気にしなくて良いよ。それよりも、どうする?」
怪女は御華の質問をそう言って終わらせて、姉に問い掛けた。
「……………お願いするわ」
暫く悩んでいたが、姉は頼む事にした。
「えっ!大丈夫なの!?」
本人の前でその言葉は酷いと思うが、御華はそれどころでは無く、怪女を信用出来ず。
姉に大丈夫なのか聞いた。
「大丈夫よ。そうでしょ?」
御華に大丈夫だと伝えた後、怪女に顔を向けて問い掛けた。
「ふひひひひ、契約は成立したからね」
姉の問い掛けに頷いてそう言った。
「ひっ!」
怪しげな笑いに悲鳴を上げて姉にすがり付いた。
「だからね、安心して良いわよ」
すがり付いて来た御華を撫でて安心させて上げた。
「ぅん、分かった」
怪女に苦手意識を抱きながらも、姉の言葉を信じて頼む事を納得した。
「ふひ、それじゃあ運ぶよ」
こうして、怪女の手助けを借りて家に帰るのだった。
__________________
「か、帰って来れた~~~」
怪女の車に乗ってる間ずっと、「ふひひひひ」っと聞こえ続けて、何処かに誘拐される!っと不安に思いながら乗っていた状況から、落ち着く我が家に帰って来れた事に、御華は玄関で脱力して安堵した。
「ただいま~~……?何してるの?」
怪女と取引を終わらせて家に入って来た姉が見たのは、玄関で女の子座りしていた御華だった。
「ね、姉さん手伝って~~」
その場から動けない御華は、後ろに居る姉に助けを求めた。
「もしかして、腰抜けたの?」
「うん……」
姉の問い掛けに、顔を赤くしながらも頷く。
「分かったわ。少し待っていなさい」
姉はそう言って、荷物を玄関の隅に置いた。
「持ち上げるわよ」
「うん」
まだ恥ずかしいのか、姉から顔を反らしながら小さく頷いた。
「よっと」
姉は掛け声を上げながら御華を持ち上げた。
勿論、お姫様抱っこで。
「うわっ!」
持ち上げられた事で、床から足が離れてしまった御華はつい、驚いた声が出てしまった。
「大人しくしててね」
姉は御華にそう言って、居間に運んで行く。
「おぉ!面白い!」
抱っこされる事は中々ない状況を、御華は楽しんでいた。
「ふふ……そんなに楽しいの?」
御華を抱っこしていると言うのに、辛さも感じていないのか、自分を見上げて来る御華を可愛い!っと思いながら聞く。
「うん!楽しい!」
「うっ!」
とびっきりの笑顔を間近で見てしまった姉は、心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
「だ、大丈夫!?」
苦しそうに呻いた姉を見た御華は、不安そうな表情になって聞いた。
「え、えぇ、大丈夫よ」
そうとう、御華の可愛さにやられているが。
表情には出さないように心掛けて言った。
「ホッ……それなら良かった」
手を胸に当てて、ホッと安堵する姿は………
「ッ!!」
その姿に、色々終わりそうになったが、意思の力で耐えて居間に向かう。
__________________
「ありがとう、姉さん」
居間に着き、ソファーに座らせた御華が、はにかみながらお礼を言う。
「だ、大丈夫よ。私、荷物を持ってくるわね」
姉は御華にそれだけを言って、荷物を取りに行く。
だが、その心の内は、
(くっ!居間に運ぶだけでこんなに大変だとは思わなかったわ!)
御華をお姫様抱っこと言う名の試練もとい、ご褒美の凄さを物語る程、心が喜びで満たされていた。
「ふふ、また今度もしましょう」
荷物を手に取りながら、先程のご褒美とも言える状況に味を占めた姉は、「ふふ」っと笑いながら企む。
それから少しして、荷物を食卓の上に乗せ終わった。
「さてと、片付けましょうか」
3袋もある荷物を前に、どの場所に置こうか考えていると、
「ね、姉さん。私も手伝う」
御華が、片付けを手伝うと言った。
だが、
「ふに~~!!はぁはぁ、だめ……力が入らない」
腰が抜けており、ソファーから立つことが出来なかった。
「ふふ、無理しなくても大丈夫よ」
必死に立とうと腕をプルプルしている御華の姿は、産まれたての子鹿をイメージさせて、二重の意味で可愛いらしい。
「むぅ……手伝う!」
頬を膨らませて、断固として手伝うと主張する御華。
「でも………分かったわ」
腰が抜けて動けない状態で無理に手伝ってもらうわけにはいかなかったので断ろうとしたが、その寸前で手伝える物を思い付いた。
「うん!任せて!!」
手伝えると分かった御華は、頬を膨らませていた状態から一気に笑顔になった。
「うん、その時はお願いね」
姉は御華にそう返して、荷物を片付け始めた。
「ふんー!」
両拳を胸の前に持って来て、手伝いをお願いされるまで英気を養う。
「御華、これの飾り付けをお願い出来るかしら?」
片付けを終わらせた姉が御華の前に持って来たのは、去年クリスマスの時にテーブルに置いた、小さなクリスマスツリーだった。
「任せて!」
英気を養い、やる気十分な御華は姉に胸を張って言った。
「ふふ、私は台所で料理を作っているから、何かあったら声を掛けてちょうだい」
ナデナデ
姉は御華の頭を二撫でして台所に向かった。
「むへぇ~~~」
たった二回とは言え、姉の撫で撫では心地よく。
姉に撫で撫でされた御華は、手伝いを忘れてソファーにゴロンっと倒れた。
その表情は蕩けきっており、とても気持ち良かったと分かるほど。
「むひゃ~~~~」
ソファーにあるクッションを顔に押し当て、足をバタつかせながら変な声を上げて余韻に浸っていた。
それから暫くして
料理を作ってる最中の姉は御華の様子が気になり、ソファーに目を向けた。
「あら?」
姉が居る台所からだと、ちょうど後ろ側からソファーを見る形になるが、そこには御華の後ろ姿は確認できなかった。
「終わったのかしら?」
姉はその事に不思議に思いつつも料理を作るが、気になって仕方が無い。
「少し様子を見に行きましょう」
もう少しで完成する料理をいったん、作るのを止めて確認に向かう。
「すぅ……すぅ…」
姉がソファーに近づくにつれて、誰かの寝息が聞こえて来る。
「御華?」
寝息を聞いた姉は、声を掛けながらソファーを覗くと、クッションを胸元でギュッと抱き締めながら、心地良さそうに寝ている御華が居た。
「ふふ、疲れて寝ちゃったのね」
あどけなく寝ている御華を、愛おしく見詰めていた姉の耳に、テレビの音が入って来た。
『来週は、海の幸を食べ放題スペシャル!!どんな美味しい料理が出てくるのか!?お楽しみに!!』
…………
『グハハハ!!俺は悪の大魔王、グハ様だ!!俺に挑むとは愚かだと教えてやるぞ!』
『私達はグハになんか負けない!』『ええ!!』『絶対に負けない!』
何が始まったのか気になった姉がテレビを見ると、そこには毎週、御華が楽しみにしてるアニメが映し出されていた。
「起こして上げた方が良いかしら?」
もう一度、あどけなく寝ている御華を見て、姉は悩んだ。
(ぐっすりと寝ている御華を起こすのも悪いと思う、でも、御華が楽しみにしていたのだから起こすべき?うぅ………どちらが良いの!!)
珍しく、心が大荒れしている姉は、御華の寝顔を見ながら悩んだ。
__________________
『みんな!今まで見てくれてありがとう!!』『見てくれたみんなのお陰で、私達は悪を倒す事が出来ました!』『お別れは寂しいですが、またお会いしましょう!』
……………
『さあ!今日も元気にサラハを飲みませんか!』
「あっ…………」
姉が悩んでいた間にアニメが終わり、さらに、最終回と言う驚愕の真実が分かってしまった。
「どどどどうしましょう!!?」
姉は体をアタフタさせながら、混乱していた。
(最終回、最終回ってどんな意味だったかしら!?た、確か、連載した作品の最後の回って意味だった筈!………ああ!!どうしたら良いのー!!)
「むにぃ?」
そうこうしてる内に、御華が音で起きてしまった。
「あっ………………」
混乱していた姉はその声を聞いて、その場で固まってしまう。
「ふぁ~~~~………今何時だろう?」
姉にとって、今この場は、テレビの音が流れているにも関わらず、静寂で満たされていた。
「…………………」
先程の事が頭に過ぎった姉は、ゆっくりと、御華にバレないように後ろに下がって行く。
「18時?………あっ!飾り!!」
ビクッ!
御華の大声が聞こえて、見逃したアニメのことに気づいたんじゃないかとヒヤヒヤしたが、飾りの事だと理解すると小さくホッと息を吐いて、安心した。
「あれ?なんでテレビが点いているんだろう?」
「ッ~~!!?」
なんとか声を押し殺して、御華に気付かれる事は避けられたが、心臓はバクバクと鳴っており、姉は心が休む暇が無い程、緊張していた。
「う~ん……分からないや。それよりも、飾りを終わらせないと」
まさか、自分が予約していたアニメだとは気づいていないのか、少しの間悩んだ後、悩むのを止めて、飾り付けに集中する事にした。
その言葉に、後ろに下がりながらも御華の声が聞こえる範囲にいた姉は、安堵と同時に、罪悪感も湧いて来て、複雑な気持ちになりながらも、台所に戻って行く。
(うぅ………やっぱり、素直に言うべきだったわ。後で、御華に謝りましょう)
そんな複雑な気持ちを抱えながら料理作りに戻ったが、周りは灰色にしか見えなくなっている姉は、後で謝ろうと決めた。
__________________
ディナーの料理を全て作り終えた姉は、飾り付けをしてる御華の元に向かった。
「御華、少し良い?」
緊張した面持ちで、御華に声を掛ける。
「?……何かあったの?」
ちょうど、最後の飾り付けを終わらせた御華は、何だろう?と思いながら振り替えった。
「御華に謝らないといけない事があるの」
御華に見られて、さらに緊張しながらも、ハッキリと言う。
「何のこと?」
御華は、ますます分からなくなり、首を傾げて姉に聞いた。
「その……うぅ……ごめんなさい御華!お姉ちゃんが起こして上げれば良かったのだけど、悩んでいる内に終わってしまったの!」
罪悪感と、言うのが遅くなればなるほど、可愛い御華に怒ら………いや、隠し事をするのが辛かった姉は、話をすっ飛ばして謝った。
「へっ?………何の事を言ってるの?」
急に謝られた御華は、間抜けな声を上げて固まったが、姉が何に対して謝っているのか分からず、聞いた。
「あっ………それはね…御華が楽しみにしていたアニメを見逃してしまった事に対してよ」
御華に言われて始めて、話をすっ飛ばしていた事に気づいた姉は、声が小さくなりながらも大事な部分を伝えた。
「えっ……」
その言葉に御華は目を見開き固まった。
「うぅ、そうとうショックなのね。やっぱり、起こして上げれば良かったわ」
そんな御華を見て、姉は「起こして上げれば良かった」っと罪悪感に苛まれた。
「………!ち、違うよ!私が寝ていたのが悪いから、姉さんが謝る必要は無いよ!」
固まっていた御華だが、姉が涙を流してる姿を見て、慌てて「違う!」っと言って、なんとか落ち着かせようとするが、
「で、でも、御華はいつも楽しみにしていたじゃない!」
罪悪感からか、心が不安定な姉は、御華の言葉に聞く耳持たず。
「どどどどうしよう!」
そう言って、あたふたする姿は先程の姉と一緒なところが、姉弟と思わせる。
(姉、姉さんが泣くなんて……ど、どうしよう!姉さんが泣いた時はいつも母さんが対応していた筈!かぁ……あっ!今日はまだ帰って来てない!どうしよう!………いや!私が原因なんだから、姉さんを宥めてみせる!!)
あたふたしていたが、そこは男の娘。
覚悟を決めて、姉を宥める作戦に出た。
「うぅ~~~!!」
「姉さん」
涙をぽろぽろと流しながら悔やんでいる姉の姿は儚げなく、御罪悪感から華の心をキュッと締め付けて来るが、なんとかそれに耐えて、姉に声を掛けた。
「うぅ~~!!」
しかし、姉は御華の声が聞こえていないのか、はたまた、目を合わせづらくて聞こえてないフリをしてるだけかは分からないが、それだと一行に落ち着かせる事も出来ないと思った御華は、自ら姉に抱き付く。
ギュッ
「姉さんは悪くないよ。私が寝ていたのが悪かったの」
泣いてる姉に優しく囁き掛けながら、落ち着かせる。
「で、でもぉ~~」
その声により、多少は落ち着いたのか言葉を返して来るが、まだ自分が悪いと思ってる姉は御華の言葉に納得が出来ていなかった。
「姉さんは悪くない。それでも納得出来ないなら……いえ、たとえ納得出来なくても、私の胸で涙を流してスッキリしてよ」
姉の両肩を掴んだまま、少しだけ体を離し、姉の瞳を見詰めながら言う御華の表情は、その可愛いらしい顔に、キリッ!っとした男らしい顔が上手くマッチして、老若男女を落とす魅力を得た。
もちろん、それは姉にも通用し、元から御華が大好きな事も相俟って、姉に絶大な効果を及ぼした。
「ッ~~~~!……え、えぇ、そうせてもらうわ」
その表情に、声にならない声を上げて見惚れた。
しかしすぐに、弱々しい表情をしながら御華を邪な目で見詰める姉。
「うん!ドーンっと来てよ!」
その事に気づいていない御華は、姉の助けになることが出来て喜んでいた。
「分かったわ」
「ふふ」っと妖しげな笑いをしながら御華の胸に抱き付こうとした時だ、玄関から声が聞こえて来たのは。
「ただいま~~!」
「ただいま戻ったわよ~~!」
その声が聞こえた御華は、姉から手を離さないまま、挨拶を返した。
「おかえりなさ~~ぃぶ!」
しかしちょうど、御華が挨拶をしたタイミングと姉が胸に抱き付いて来たのが被り、姉に押し倒されてしまった。
ドサッ!
「いた~~!」
床に倒れたものの、カーベットが敷かれていたお陰で、軽い痛みだけで済んだ。
「御華………ふふ……」
御華を押し倒した本人である姉は、御華の胸に顔を押し当てて、小さく……しかし、とても満足そうな声で呟いていた。
「いたた…うに?………姉さん?」
自分の頭を撫でながら体を起こそうとするが、誰かに抱きつかれているのかピクリとも動かない事を不思議に思った御華は、首を動かして抱きついている人を見たら姉だった。
「すぅー…良い匂い……」
御華に見られている事に気づいていないのか、姉は御華の匂いを堪能していた。
「………………」
姉の奇行に、御華は絶句してしまった。
しかし、まだ見られている事に気づいていない姉は何度も匂いを嗅ぐ。
「すぅー……ふふ…すぅー……良い」
「ッ~~~!?」
それが何度も繰り返されて行く内に、姉のへ……この現実を認めた御華は、声にならない悲鳴を上げて、姉を引っぱ叩く。
ビン!!
「すぅっ~~~!!」
ちょうど匂いを嗅ごうとした姉は、いきなりの衝撃に抱きついた体勢のまま呆然とした。
「なななななぃっ~~!!やっ、てる、の!……姉さん!!」
御華は顔が真っ赤になり、舌を噛みながらも姉に問い質した。
「……………御華、貴女は夢を見てたの」
御華の言葉が聞こえていたのか、いたのか分からないが、姉はゆっくりと御華の上から退いて、何事もなかった様に立ちあがりそう言った。
「な、何言ってるの姉さん!!」
姉の奇行が夢とは思えない御華は、聞き返した。
「良いわね?」
ずいっと顔を近づけて、有無を言わせない声色で御華に聞く。
「うぅ……はい」
反論したかった御華だが、とびっきりの笑顔で聞いて来る姉が恐くて、涙を流しながら静かに頷いた。
「それじゃあ、ご「嘘は駄目よ、砂樹」!」
話を終わらせようとした姉の邪魔をするかの様に、後ろから声が聞こえた。
姉はバッ!っと後ろに振り返ると、そこに居たのは先程家に帰って来た母と父だった。
「母さん……」
姉は、声の主が母だと分かり、呆然と呟く。
「ママ~~~!!」
御華は母に気づくとまっすぐに突撃して行った。
「ふふ……砂樹はお姉ちゃんなんだから、御華を泣かせちゃ駄目でしょ?」
突撃して来た御華をしゃがんで優しく抱き止めた。
それからすぐに、表情を引き締めて姉を叱る。
「気持ちいい~~」
御華は母の温もりに安心したのか、あどけない表情で、スリスリしながら言う。
「うっ!…分かってるわよ。でも、仕方無いでしょ…あ、あんな恥ずかしい姿を見られたら!」
母の言葉がグサッ!っと心に刺さったが、先程の自分の姿を思い出して顔を赤くしながら、最後は叫ぶ様にして言った。
「言い訳をしちゃ駄目よ?そんな事をしたら、御華に嫌われてしまうわ」
「へにぃ~~」
母は御華の頭を撫でながら、姉を諭した。
「うぅ、確かにそうね……御華」
母に言われて、恥ずかしいからと言う理由で言い訳をしていては、御華に嫌われてしまうと思った姉は、母に抱きついている御華に声を掛けた。
「なに~~?」
御華は先程の事など忘れてしまったのか、姉の声に間延びした声で返事を返しながら振り返った。
「さっきはごめんなさい」
「うんうん、全然気にして無いから良いよ~~~」
頭を下げて謝る姉に対して、御華は首を横に振るって、そう言った。
「ありがとう、御華」
「うん?どういたしまして~~」
目元に涙を溜めながらお礼を言う姉に意味が分からず首を傾げた御華だが、取り合えず返した。
「うんうん、これで一件落着ね」
二人の会話は何処かズレている様な気がするが、母にとっては関係無いらしく、微笑ましく二人を見ながら言った。
「そうだね」
今まで黙っていた父が、母の言葉に頷いた。
「あら、居たの」
立ち上がった母は今気づいたとばかりに、驚いた様子で夫に話し掛ける。
「一緒に帰ってきたじゃないですか、湯樹菜さん」
表情からは分からないが、妻が怒っている事に気づいている夫は背中に冷や汗を掻いた。
「そうだったかしら?なら、子供のいざこざを収めるのを手伝ってくれても良いと思うのだけど?」
妻が何を言いたいのか……そして、どうして怒っているのかが分かり、「はは」っと渇いた笑いを上げて誤魔化したくなるが、そんな事したら昔の話を引っ張っり出されると分かっているので堪えた。
「これには私の考えもあってね。子供は父親より母親の方が丸く収まると思っての行動だよ」
夫の言葉は本音でもあるが、建前であった。
もちろん、その事に妻が気づかない筈が無く。
「ふふ、砂唯さん。私に本当の事を話さないと言う事は、覚悟は出来てるようね?」
あっ、失敗した……っと父が気づいた頃には手後れだった。
「いや、まっ「ねぇ、パパ!」……なんだい、御華?」
なんとか、話を逸らして無かった事にしようとしたが、御華に声を掛けられたことで潰えた。
「今年はサンタさん来るかな!」
とっても純粋な瞳で、可愛らしい質問を父に聞いて来る御華の姿は誰から見ても、愛でたくなる程の可愛さがあった。
「あぁ、きっと来てくれるよ」
御華の目線に合わせるようにしゃがんだ父は、優しい瞳で御華を見ながら、そう言って撫でた。
「やったーー!!」
今年もサンタさんが来てくれると分かって、跳び跳ねる程喜んだ。
「ふふ、そんなに楽しみなのね」
楽しそうに、ジャンプしてる御華を微笑ましく見ながら、母は呟く。
「うん、御華は朝からずっと楽しみにしていたからね」
姉は母の隣に立って、呟きに返した。
「そう、御華らしいわね」
母はそう言って、慈愛の眼差して御華を見た。
「そうでしょう」
姉は何処か誇らしそうに言う。
「ふふ、二人は仲良しね」
姉の言葉に、母は二人の子が今も仲良しなのを感じ取れて、嬉しくなってしまい、姉の頭を撫でた。
「ふぃ!?………ふぇ~~~」
急な撫で撫でに、驚きから固まってしまった姉だが、母の撫で撫では熟練者の域に達しており、普段は見せないだろう蕩けきった表情をして変な声を上げる。
母娘、二人だけの空間を少し離れた距離で見ていた父と御華は、
「うん、湯樹菜さんには逆らえないよね」
なすがままにされている姉を見て、実体験があるのか染々と言う。
「うん。ママの撫で撫では姉さんの撫で撫でを越えるんだ」
御華は別の観点から、父の言葉に同感した。
「二人だけの空間を作っている事だし、私達も父子の話をしないかい?」
折角の機会だと思った父は、御華にそう提案した。
「いいけど、何の話をするの?」
いつも話はしてるが、二人だけで話すとなると、何も思い付かない御華は父に問い掛けた。
「う~ん、そうだね……恋バナなんかどうかな?」
少し悩んだが、答えやすく、かつ、無難な話題にした。
「「……………」」
ピクピク
父の言葉に母娘は無言になり、耳をピクピクさせて聞き耳を立てる。
「恋バナ?パパ、私に好きな人がいると思うの?」
父の話題に御華は不貞腐れた顔をしながら問い返した。
「うん?御華ぐらいの歳なら、好きな人の一人や二人はいるんじゃないのか?」
父は、御華がどうして不貞腐れているのか分からず、首を傾げながら聞く。
「いないよ!それどころか………」
父の言葉に大声を上げて否定した後、何かを思い出したのか苦い表情で小さく呟いた。
「な、何か嫌な事でもあったのか!?」
ここまで食い気味に否定された事に、何か嫌な事でもあったのかと心配になり、父は御華の肩を掴んで聞いた。
「うん……」
俯きながら御華は小さく……しかし、しっかりと頷いた。
「何があったんだ!パパに教えてくれ!!」
父は御華の頷きを見て、自分が知らない所で御華が危険な目にあっていると思い、気付けなかった自分に怒りを抱きながらも、御華が心配で問い掛けた。
「………隣の組の男の子に告白された」
暫く沈黙した後、御華は聞こえるか分からない程の声量で答えた。
「へっ?」
もちろん、御華の小さな声を近くにいた父は聞こえており、間抜けな声を上げて固まった。
そんな父から少し離れた位置で、母娘は聞いていた。
「ふふ、女の子ではなくて、男の子から告白されるなんて……ふふ」
母は口元に片手を当てて、とても楽しそうに言った。
「ふふ……覚悟が出来ているのでしょうね?」
笑い方は同じだが、明らかなる殺意を抱きながら、姉は見たことも無い男の子に覚悟を問うた。
そんな真反対の母娘の反応に気づいていない父子は、
「そ、そうか。御華も男の子なのに女の子と間違うなんて、珍しい事があるんだね」
固まっていた父だが、このままだと話してくれた御華に失礼だと思った父は、なんとか言葉を紡ぐが、
「学校の男の子全員から告白された」
だが、その頑張りは御華の言葉で木端微塵に砕けた。
「全員…………」
「そんな事もあるだね」で解決しようとしたが、男の子全員から告白されたなんて事が「珍しい」なんて言葉で済ませられ無い。
もう何も言えない父は、呆然としてしまった。
父子の周りに、重苦しい空気が漂い始めた頃に助け船が現れた。
パン パン
母は手を叩いて、三人の注目を集める。
「「「?」」」
「折角のクリスマスなのに、そんな重苦しい空気を漂わせては駄目よ」
注目が集まった所で、三人ともが忘れてるだろうクリスマスの事を話題に上げて、重苦しい空気を変えた。
「あっ………」
「そうですね」
「忘れていたわ……」
クリスマスと言う事を思い出して、三者三様の反応を返した。
「うんうん、思い出したみたいね」
三人を見回した後、母は嬉しそうに頷きながら言う。
「うん!」
クリスマスと言う、楽しみにしていた事を思い出した御華は、先程の事など忘れて、力強く、そして嬉しそうに頷く。
「すっかり忘れていましたよ」
苦笑気味に笑いながら言い、その後、父は重苦しい空気を変えてくれた母に目礼した。
「えぇ……母さんのお陰で思い出せたわ」
姉は、御華が楽しみにしていたクリスマスを忘れていた事に、悔しい思いを抱きながら思い出せてくれた母にお礼を言った。
「ふふ、賑やかね」
夫と、二人の我が子を見詰めながら、母は小さく呟くように言い、幸せを噛み締める。
__________________
「あっ!ケーキ買い忘れてた……」
御華は、クリスマスと言う事を思い出して暫くの間浮かれていたが、ケーキと言うクリスマスに大事な物を買い忘れていた事に気づき、ショックの余り床に膝をついた。
「あっ…………」
姉も御華の言葉で思い出して、絶句してしまう。
「御華、パパが買ってくるから安心しなさい」
父は御華の前で跪いて、安心させる様に優しく言う。
「ほん「それは大丈夫よ」とう………えっ?」
父の言葉が嬉しかったのか、バッ!と顔を上げて、父に本当なのか聞き返そうと言葉を紡いだ時、母が言葉を遮りそう言った。
「どうして?」
意味が分からない御華は首を傾げて聞き返す。
「ふっふっふ~~それは私が買って来たからよ!」
母は御華の問いに胸を張り、自慢するかの様に言った。
「ほんと!?ほんと!?」
御華は喜色満面にし、本当なのかどうかを母に近づいて聞く。
「でも、手に何も持っていないわよね?」
御華は純粋に喜んだが、冷静な姉は、何も持っていない母に疑問を持ち聞く。
「えぇ、本当よ。今持って来るから、待ってて」
母は二人の正反対の反応に、微笑ましく思いながら、居間からだと見えない玄関の靴箱の上に置いたケーキを取りに向かう。
「あぁ~……確かに箱を持っていたね」
父は何か思い出したのか、うんうんと頷きながら納得顔をした。
「父さん、ケーキはあるの?」
その様子に気づいた姉は、父に問い掛ける。
「ああ、あるよ」
姉の問い掛けに、フッと柔らかく笑い、肯定した。
「おお!どんなケーキなんだろう!!」
もうケーキしか眼中に無い御華は、父の「あるよ」の言葉に反応して、どんなケーキかワクワクと共に、想像を膨らませる。
「「ふふ」」
そんな御華を見た二人は、顔を見合わせて同時に笑う。
その表情は、親子だと思わせる程似ていた。
「これが証拠よ!………?私が居ない間に何があったの?」
ケーキが入った箱を手に、戻って来た母は、顔を見合わせて笑う父娘と、ワクワクを体全体で表している御華と言う、少しの間に変化した状況に訳が分からず首を傾げた。
「ねえ!ねえ!どんなケーキなの!?」
そんな中、御華はケーキが気になるのか、母に近づいて急かす。
だが、母は片目をパチッと瞬きして、
「今は内緒よ?」
御華にそう言って、見られない様に高く持ち上げる。
「むぅ……」
その事が不服なのか、頬を膨らませて不満を表す。
御華の微笑ましい姿に、母娘は
同時に笑い、父は柔らかく笑う。
「むに?」
笑いの原因たる御華は、急に笑いだした家族に訳が分からず不思議そうに首を傾げている。
「ふふ……ふぅー、御華。料理を運ぶのを手伝ってちょうだい」
母より先に笑い終えた姉は、息を整えて、御華に手伝いを頼んだ。
「うん?……分かった」
今だに状況か分からず、首を傾げていた御華だが、取り合えず姉の手伝いに向かう。
「ふぅ……私もケーキを冷蔵庫に入れたら運ぶのを手伝うわ」
母も笑い終わり、二人にそう言って、冷蔵庫にケーキを入れに向かった。
「私も手伝いますよ」
先程までの三人を微笑ましく見ていた父も、手伝いに入る。
__________________
「御華、これお願い」
「う………」
御華は姉に手渡された料理を見て、先程の訳が分からない状況など頭から吹っ飛び、目の前の美味しそうな料理に夢中になる。
「?……」
返事が無く、その事を不思議に思った姉が御華を見ると、キラキラした瞳で料理を美味しそうに見詰めていた。
「夢中になるのは良いのだけど、今は我慢しなさい」
その姿は、暫く見ていたくなるほど可愛いらしかったが、まだまだ運ぶ料理があり、泣く泣く諦めて御華を注意する。
「うぅ~……」
姉の注意に、御華はその通りだと分かっていながらも、目の前にある美味しそうな料理を食べたくて仕方がなかった。
「はぁー。兎に角、運んでちょうだい」
御華は食いしん坊だったかしら?などと思いながら、姉は運ぶのを頼んだ。
「うん……」
とっても、名残惜しく感じながら、御華は食卓に料理を運んで行く。
意気消沈しながら運ぶ御華の姿は姉に、味見だけならさせて上げれば良かったかしら?などと思わせるが、なんとかそれを振り払い、食器の準備に戻る。
「砂樹、これでどうかしら?」
皿や箸、スプーン等を用意してる姉に、母は野菜を盛り付けたボウルを見せて、出来を聞いて来た。
「うん、さすが母さん。完璧ね」
一目見ただけで、「美味しそう!!」っと誰もが言う程、綺麗かつ、食欲をそそるドレッシングがかけられており、姉は今すぐにでも食べたい欲に駆られる。
そんな表面上は平静を保っている姉だが、母からすれば、食べたいと思っていることなどお見通しらしく、慈愛を湛えながら姉に言う。
「ふふ、なら良かったわ」
今ここに、母娘の空間が出来た。そんな時に父は来てしまう。
「他に……」
食器を並べ終わり、他にも手伝いが無いか聞きに来たのだが、母娘の空間が生み出されていて、中に入れなかった。
「どうしようか……」
手伝える事を聞きたいが、とても入れる雰囲気では無く、父はどうしようか悩んでいた。
そんな時だ、この状況を変える存在が現れたのは。
「ねえ!これで最後?」
先程の料理を運び終えた御華は、母と姉の間にある料理を見て、首を傾げてそう問い掛ける。
「「あっ……」」
御華に声を掛けられて始めて、料理を食卓に運ぶのを忘れていた事に気づいた二人。
「えっ……違うの?」
二人の反応から、違うと思った御華は、とても美味しそうな料理を食べれなくて残念な気持ちを抱きながらも、離れようとしたが、姉に呼び止められた。
「ま、待って!」
姉に同調するように母も、
「そ、そうよ!!」
とても残念そうに離れて行く御華を見て、必死になって呼び止める。
「何?」
後少しで食事だと言うのに、御華は影がある雰囲気を纏っており、返事に応える声も暗かった。
「さっきの料理も運んでくれないかしら!?」
なんとしてでも、御華の誤解を解こうと躍起になる姉は、叫ぶように言いながらも御華に先程の料理を運んで欲しいと頼んだ。
「ほんと?」
姉の言葉に、御華の瞳にキラキラとした光が宿り、少しウキウキした気持ちが声に出る。
「ええ!砂樹の言う通りよ!」
このチャンスを逃さないとばかりに、母も御華の説得に加わった。
「そうなんだ……うん!任せて!!」
自分が勘違いしていた事に気づいた御華は小さく呟き、すぐに、元気一杯の声で応じる。
「えぇ、期待してるわ」
姉はホッと、胸を撫で下ろしながら、
「御華なら大丈夫よ」
母は、慈しみを込めて言う。
「ふっんふっんふふ~!」
少々、どころか、大袈裟な二人の応援の言葉に、最後の料理を受け取った御華は、上機嫌に鼻歌を歌いながら食卓に運んで行く。
「入るタイミングを逃しましたね。でも……」
その事に小さく溜め息を吐きながらも、目を瞑り先程の光景を脳裏に思い浮かべる。
妻が、砂樹と一緒に御華を止めようと必死な姿
最後の美味しそうな料理を食べれないと分かって落ち込む御華
その光景を思い浮かべるだけで「ふふ」っと微かに……しかし、確実に笑いが込み上げて来る。
(私は湯樹菜さんと結婚して幸せ者ですね)
御華と姉を見ていた時に母が思った事を、知らず知らずの内に父も思う。
__________________
料理を運び終わり、今は食卓に、左側に母と父、右側に姉と御華の順で、向い合わせで座っている。
「席に全員座ったわね。それでは、いただきます」
ちゃんと全員が座っているか確認した母は、料理になってくれた命に感謝しながら両手を合わせて言う。
「「「いただきます」」」
その言葉に合わせる様に、三人は同時に両手を合わせて言った。
「さあ、食べましょうか」
言い終わり、母は三人を見回して促す。
「うん!」
料理を運んでる間、食べたいのを我慢していた御華は、食事が始まってすぐに、大物に手を伸ばす。
「御華……いきなりそれから食べるのは早いと思うのだけど……」
御華が手を伸ばした料理……丸々一羽の鶏を使ったローストチキンを見た姉は、頬をヒクヒクさせながらも止めようとする。
「ふふ。今日はクリスマスなんだから、たまには良いと思うのだけど、砂樹はどうかしら?」
御華を庇う様に母は、姉を宥める。
「うっ……それは、たまになら」
母が宥める時にはいつも、撫で撫でが付いて来るので、甘えたくなる衝動をなんとか堪えながら、母の言葉に「今日だけなら」っと姉は渋々ながらも許す。
「やったーー!!」
存分に食べれると分かった御華は、喜色満面にしながらローストチキンを切り取って行く。
「御華。そんなに急がなくても、料理は逃げないよ」
父は苦笑しながら、お皿にローストチキンをどんどん乗せて行く御華を落ち着かせるように声を掛ける。
「うんうん!一杯食べたいから!」
ローストチキンを切る手を止めて父に振り返り、首を左右に振って、理由になっていないような理由を父に言う。
「分からないよ」
父は苦笑したまま、お手上げだと手を上げて諦め……いや、楽しげだった。
「…………」
御華が一杯料理を皿に盛って行く隣で、あの量を食べる気の御華を見ていた姉は呆然と固まっていたが、母に声を掛けられる。
「ほら、砂樹も。食べないと御華に全部食べられちゃうわよ?」
呆然と固まる姉が心配なのか、おちゃらけにそう言って促す。
「…………えぇ、そうね」
少しの間考えていたようだが、何か考えが纏まったのか、それとも、不粋だと思い考えるのを止めたのか、それは分からないが、表情は笑顔になり、母の言葉に頷いた。
「そうよ、楽しみましょう」
母はそう言って、最後に一撫でしてから、自分も料理を皿に盛り始める。
「っ!?……母さん、それは卑怯だよ」
撫でられた箇所を両手で押さえて、誰にも聞こえない程の声量で呟く。
それを斜め向かい側で、今も料理に手を付けていない父は見ていた。
「ふふ。湯樹菜さんは、上手いな」
自分だとこうも上手く、両方に愛情を注げるのが難しいと思う父は、恥ずかしそうに……しかし、嬉しさが溢れてる表情をした姉を、柔らかい眼差しで見詰めながら、母の凄さに尊敬を抱く。
「パパもご飯食べないの?」
父の向かい側で座っていた御華は、未だに食べない父を見て問い掛けた。
「うん?……ああ、今から食べるよ」
御華に声を掛けられて振り返った父は目の前にある料理を見て、他の事に夢中で食べていなかったと気付き、御華にそう返事を返した。
「うん!冷めない内に食べよう!!」
その言葉に御華は、とびっきりの笑顔で頷いた。
「さてと、私は何から食べようか……」
食べる事にしたのは良いものの、色々ある美味しそうな料理に父は迷う。
「な、なら。クリームシチューはどうかしら?」
そんな父に、まだ顔が赤く、俯きながらだが、姉は一番できが良いクリームシチューをすすめた。
何を食べようか迷っていた所に娘から提案をされて、ちゃんと周りを見ている事に気付いた父は「私達の娘は優しいな」などと心で思いながらも、つい、からかってみたくなってしまった。
「うん、砂樹オススメのクリームシチューにしようかな」
「オススメとは言って無いわよ!」
珍しく父が笑顔でからかって来たので、恥ずかしさからカァー!と顔が真っ赤になり、叫ぶように否定する。
「ふふ。砂唯さん、砂樹をからかっては駄目よ」
二人のやり取りを、料理を皿に盛り付けながら聞いていた母は、微笑みながら父を注意する。
「そうですね。砂樹、からかってすみません」
母の注意に、父は柔らかい笑顔のまま、姉に謝る。
「っ!……いえ、気にしていませんから」
母と父に踊らされていると思った姉は、なるべく冷静に、かつ、他人の様な対応をする事でやり返す。
「なら良かったよ」
「ふふ」
だが、二人には効いた様子は無く、暖かい目で見られただけで終わる。
「っ~~~!!」
羞恥心が限界まで溜まった姉は、声にならない声を上げて、料理をどんどん皿に乗せ始めた。
「むっ!それは私が食べる!」
食べる事に夢中になっていた御華は、楽しみに残しておいたローストチキンが姉に取られそうになってる場面を見て、大声を上げてローストチキンを手に入れようとフォークを伸ばす。
(もう自棄よ!一杯食べるわ!!)
やけになった姉が無意識にローストチキンを取ろうとフォークを伸ばし、後少しの所で手に入ろうかと言う瞬間、御華のフォークが姉のフォークにぶつかり金属音が鳴る。
キィーン!!
「「ッ!?」」
姉と御華は、金属音に驚き、固まった。
「ふふ……静かに食べなさい」
そのやり取りを向かいで見ていた母は、とても良い笑顔で、それでいて低い声で、二人に注意をする。
「「ッ!?…………はい」」
滅多に怒る事が無い母の怒りの気配に、二人はビクッ!と恐怖から体を震わせて、小さく頷いた。
「それなら良いのよ」
そう言って、母から怒気が消えた。
恐怖から解放された二人は「ホッ」っと安堵し、顔を見合わせて、
(仲良く食べよう、姉さん)
(えぇ、同意よ)
目と目で語り合う。
「ふぅー。あの状態の湯樹菜さんは、恐いですね」
何度か怒らせた事があるのか、冷や汗をかきながら、小さく呟く。
それからは料理を取り合うことも無く、楽しい晩御飯が続いた。
__________________
それから暫くして食べ終わった四人は両手を合わして、食事の終わりの挨拶をする。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
それが終わったら、楽な体勢になり食後休憩に入った。
「ふぅー。お腹一杯だわ」
母は息を吐き出して、少し膨らんだお腹を撫でてそう言う。
「えぇ、私もお腹一杯」
自棄食いした姉も母の言葉に同意して、椅子に背中を預ける。
「美味しかった」
母と姉とは違い、いつもの量程しか食べなかった父は、満足そうな表情で料理の余韻を楽しむ。
「ケーキ!!」
そんな中でも、御華は楽しみにしていたケーキを食べたくてウズウズしていた。
「「「えっ!」」」
家族の中で、一番食べていた筈の御華が、ケーキも食べるつもりだと分かり、父と母と姉が驚愕の声を上げる。
「うん?」
驚愕の表情で見て来る家族に、御華は首を傾げて不思議そうに見詰める。
「み、御華……貴女、まだ食べるの?」
姉は体をプルプルと震えさせながら、御華に問い掛ける。
「そうだけど?」
「ッ~~!?」
さも当然と言う御華に、驚愕やら呆れやら、様々な感情が心で渦巻いて、声にならない叫びをあげた。
「それは後でね」
御華の言葉に驚愕していた母だが、一度心を落ち着かせて、柔らかく笑いながら御華にそう言う。
「御華。時間を空けてから食べなさい」
ケーキも食べると知った父は、御華を注意した。
「えっ……う、うん」
御華は、まさかの三人からの追い討ちにより、ケーキと言う楽しみが遠退いた。
__________________
『御華。ケーキ。まだ食べる事件』が起こったが、家族は役割分担を決めて片付けに入る。
「私は、一番大きい皿を持って行くわね」
姉は、ローストチキンが乗っていた皿を持ち上げながら言う。
「じゃあ私は、食べる時に使った皿を運ぶね!」
自分のと、隣にある姉の皿を手に取りながら、御華も言った。
「私は……皿が一番多いのを運びますね」
父は少し悩んだ後、量的にも重さ的にも、男手が要るだろう皿を選んだ。
「私は鍋などを運ぶわ」
最後に残った鍋は母が担当して、流し台に運んで行く。
それから暫くして、流し台に運び終わった。
「よっしょっと。ふぅー、これで終わりね」
最後の鍋を運び終わった母は、額にかいた汗を手の甲で拭いながらそう言う。
「これは……ちょっと……」
姉は流し台に並ぶ洗い物を見て、この量の皿を使う程の料理を作った原因だと分かっていながらも、やりたくないと思ってしまった。
「うん」
御華も、皿やフォーク等の洗い物を見て、とてもやる気になれない。
「しかし、やるしか無いですよ」
父も、流し台にある洗い物の量にやる気が削がれるが、覚悟を秘めた瞳でそう言う。
「そうね」「うん!」
それは二人も理解してるので、父の言葉に二人も覚悟を決めた表情で頷く。
争い事など経験が無い少年が、ヤンキーから少女を救うと覚悟を決めた時の表情をした三人を見た母は、可笑しくてつい、笑ってしまう。
「ふふ。皆でやるんだから、そこまで覚悟を決めなくて大丈夫よ」
そう落ち着せるように三人に言った。
「……それもそうね」
母の言葉で冷静になった姉は、俯瞰視点で見る事により、確かにその通りだと思い頷く。
「湯樹菜さんの言う通りですね」
父も母に言われて「確かに」と思い、染々と言う。
「う、うん……全員でやればすぐ終わるよね!」
まだ御華は、この量にやる気が出なかったが、心の中で「いつもやってる事」と自分に言い聞かせる事でやる気を出す。
「皆の考えも纏まったわね。それじゃあ、さ……あっ!」
胸の前で両手を合わせて、食器洗いを始めようとした母だが、大事な事を忘れていた事に気づいた。
「な、何!?」
洗い物をジーっと見ていた御華は、隣から聞こえた大声に混乱した。
「どうしたの?」
急な大声にも動じて無い姉は、問い掛ける。
「何か思い出したのですか?」
さすが夫と言うべきか、妻の声と表情から何かを思い出した事に気づいて、父も問い掛けた。
「お風呂よ!お風呂!すっかり忘れていたわ!」
うんうん、と頷きながら何故忘れていたのかと思う母。
「お風呂?」
御華は、なんでそこまで大袈裟に言うのだろう?と思いながら母に聞く。
「たまにあるよね」
「ああ、そうだね」
「御華に任せて見守る?」
「うーん……悪い気はするが、そうした方が良いかな」
コソコソと父と姉は話し合って、御華に母の対応を任せる事にして状況を見守る事にした。
「ふっふっふー!洗ってる間に、お風呂に湯を溜めれば一石二鳥でしょ!」
とても上機嫌なのか、当たり前の事を、新しい発見をしたとばかりに母は言う。
「確かに、そうだけど……」
御華は何とも言えない表情になり、言葉をつまらせる。
「よし!御華、お湯を溜めて来てくれる?」
その勢いのまま、話し相手の御華に顔を近づけて頼んだ。
「わ、分かった」
母の顔しか見えない程の距離で言われて、身体をのけぞらせながら返事を返した。
御華の返事を聞けた母は体勢を戻して、大きく頷いて言う。
「うん!頼んだわよ!」
こうして、御華はお湯を溜めに風呂場に向かって行く。
「それじゃあ、私達も始めましょうか」
御華が風呂場に向かって行くのを見送った母は、後ろに居る父と姉に振り返ってそう言った。
「え、えぇ……」
振り返った母の表情と声色がいつもに戻ってるのを見て、呆れ半分、驚き半分で、姉は返事を返す。
「……そうですね」
訳が分からないまま風呂場に向かった御華に、立った姿勢のまま黙祷を捧げてから、父も返事を返した。
「うん。それじゃあ、砂唯さんは私と一緒に洗う係りとして、砂樹は拭くのをお願いね」
返事を聞いた母は、ささっと役割を決めた。
「分かったわ」
「洗うのは久しぶりですね」
その言葉に、姉と父はそれぞれ反応を返して、必要な物を手に取り、位置に着く。
「始め「お湯を入れ始めたよ」
「始めましょうか」と言いかけた時に、お湯を溜めに言った御華が帰って来てそう言った。
「ありがとう、御華。戻って来てすぐで悪いのだけど、御華も拭くのを手伝ってもらえる?」
母は御華にお礼を言い、それからすぐに頼んだ。
「うん。分かった」
元々、手伝つもりだった御華は、二つ返事で台所に向かい、布巾を手に取り姉の隣に並ぶ。
「準備は良いわね。それじゃあ、お湯が溜まるまでの間に終わらせましょう!」
「「「おぉ!!」」」
母のペースに巻き込まれた御華達は、『お湯が溜りきる前に!』と言う謎の目標を掲げて、洗い物をし始める。
「これをお願いね」
洗い終わった皿を姉に手渡しながら母は言う。
「任せて」
母から受け取った皿を水滴が無くなるまで拭いて、横に置く。
「御華、これを頼みます」
箸等を全部洗剤をつけたスボンジで汚れを落とし、一気に水で洗ったのを御華に渡す。
「うん!」
洗い終わったのを渡されて、拭いて行く内に、御華のスイッチが入ったのか、父の言葉に力強く頷いて受け取る。
そこからはもう、ジャーとキュキュとする音と、掛け声だけが居間に響いた。
______________
「ふぅー。やっと終わったわね」
「えぇ……そうね」
「疲れました」
「疲れたー!」
洗い物が一切ない流し台と、棚に綺麗になった皿を見て、御華達は、疲労の色が表情に出ながらも、達成感溢れる声色でそう言った。
「私はお湯が溜まったか見て来るわ」
少し休憩した母は、お湯が溢れていないか気になり、そう御華達に言って見に行く。
「あっ……そうだったね~~」
洗い物をしている内にお湯を溜めていた事など忘れていた御華は、疲れて間延びした声でそう言う。
「……あの時の母さんの判断は正しかったわ」
洗い物をしたことで汗をかいた姉は、お風呂を先に溜める判断をした母に感謝した。
「ふぅー……今日はお風呂でゆっくりと疲れを取りたいですね」
仕事と久しぶりの家事で、だいぶ疲れた父は、寝るまでの予定をお風呂でゆっくりする事に決める。
「戻ったわよ~~」
御華達がお風呂に思いを馳せていた時に、母が帰って来た。
「あっ、ママ。お湯は溜まっていたの?」
お風呂に入りたい御華は母を見て、先程の疲れなど吹っ飛んだのか、ウズウズしながら問い掛ける。
「ふふ。えぇ、溜まっていたわよ」
その姿は微笑ましくて、母は笑顔になりながら溜まったと御華に伝えた。
「ほんと!先にお風呂入って良い!?」
お風呂に入りたくてウズウズしていた御華にとって、母の知らせは堪らなく嬉しくて、つい、大声で問い掛けると、
「ふふ。えぇ、良いわよ。ただし、砂樹と一緒に入るのよ?」
両手をグーにして胸の前で合わせ、瞳がキラキラとしてる御華の姿は、微笑ましくて、それでいて、可笑しくて母は笑い、笑顔になる。
「分かった!!」
入りたくて堪らなかった御華は、中学生になって以来、姉と一緒にお風呂に入るのを恥ずかしがっていた事など忘れたのか、あっさりと返事を返した。
「御華と……」
姉は久しぶりに御華と入れると理解して、嬉しさからその場で固まる。
「姉さん早く行こう!!」
一刻も早くお風呂に入りたい御華は、姉の手を引っ張って、行こう!行こう!!と促す。
「……ええ!!行きましょう!!」
嬉しさから言葉もでなかった姉だが、御華の催促する姿に、さらに嬉しさが溢れ、ついには限界を越えた感情は、周りに幸せオーラを可視かする程に溢れて、逆に御華の手を引っ張りお風呂に向かう。
「あっ……」
自分以上に楽しみにしている姉を見て、冷静になった御華は、恥ずかしさから姉と入るのを嫌がっていたのを思い出して、あっさりと返事を返した過去の自分に後悔した。
「いってらっしゃ~~い」
「手後れですよ」
姉と御華の背中に向かって、母は笑顔で送り出し。
父は苦笑しながら、御華にそう伝える。
__________________
「御華!!服を脱がせて上げるわ!!」
ここ数年で一番、上機嫌になってる姉は、普段言わない言葉を御華に言った。
「えっ!?……じ、自分で脱ぐから大丈夫だよ!」
その言葉と姉の瞳に、驚きと恐怖を感じた御華は、なんとかその魔の手から逃れようとするが、
「大丈夫よ、もう終わったから。それよりも……入りましょう?」
「えっ……」
急に落ち着いた声になって言われた言葉に、御華は慌てて自分の体を見ると、何も着ていない、無垢な姿が視界に映る。
「ぃ………いやぁーー!!」
ブルブルと体を震わせたかと思うと、あまりの恥ずかしさやら驚愕で、悲鳴を上げながら脱衣場……いや、姉から逃げようとする。
「ふふ。私、嬉しかったの。御華から入りたいと言ってくれた事が……だから、私が体を洗って上げるわ」
しかし、姉からは逃げられず。捕まった御華は、姉の告白を聞かせれながら、ゆっくりとお風呂場に連れて行かれた。
「じ、自分で入るから!!お姉ちゃん一人で入ってよーー!!!」
尚も御華は、必死に逃げようと言葉を叫びながら言ったりするが、姉に聞こえていないのか、止まること無くどんどんとお風呂場に入ってく。
「私が丁寧に洗って上げるから安心してね?」
そろそろお風呂場に半身が入りそうになった時に、姉の嬉しそうな声が御華の耳元で囁かれた。
「…………」
もう、抵抗しても無駄だと思っ……いや、思い出した御華は、驚く事とも抵抗する事もなく、姉に引っ張られるままお風呂場に入る。
御華の悲鳴が家中に響いた頃の父と母は、
「やっぱり、そうなりましたか……」
ああなる事を過去の経験から分かっていた父は、苦笑したまま呟いた。
「相変わらず、仲が良くて良かったわ」
あの……どう聞いても、悲鳴にしか聞こえない叫びを聞いて、仲の良さを再認識する母。
「はは……確かにそうですね」
母の言葉に、父も御華と似たような諦めの気持ちを抱き、渇いた笑いを上げて頷いた。
__________________
「ふぅ~。さっぱりした」
好き放題してお風呂から上がり、バスタオルで体を拭いた姉は、とてもすっきりした笑顔でそう言う。
「…………」
諦めて姉にされるがままに任せた御華は、恥も、何かを失った気持ちも、何もかも吹っ切れてしまったのか、その表情は凛々しかった。
「あら?興奮しすぎて、パジャマを持って来るのを忘れていたわ。御華、今からパジャマを持って来るから待ってて「大丈夫よ」ね……えっ?」
パジャマを取りに行ってる間、御華に待っていてもらおうとした姉だが、言葉の途中で、廊下に繋がるドアの向こう側から母の声が遮ったからだ。
「ママ?」
母の声が聞こえて凛々しい表情から、いつもの可愛いらしい御華に戻り、聞き返す。
「えぇ、御華と砂樹のお母さんよ。それよりも、パジャマ持って着たわよ」
母は御華の問いにそう返して、ここに来た用事を伝えた。
「えっ……」
「ありがとう!」
母の言葉に、姉は固まり、御華は純粋に喜んだ。
「どういたしまして。パジャマはここに置いておくわね」
母はそう言って、ドアの前に置いて居間に戻って行く。
「行ったかな」
御華も年頃の男の娘。母に裸を見られるのが恥ずかしくて、母が離れて行くのを音で確認してからドアを開け、自分の分と姉の分のパジャマも一緒に取り、ドアを閉めてから姉のパジャマを手渡そうと振り返ったが、
「う~ん……」
「?……姉さん、着替えないの?」
姉は何かを考え込んでおり、パジャマに気が付いていない。
それを不思議に思いつつも。御華は姉に話し掛けた。
「?……あっ、ありがとう御華」
その声に最初、なんだろう?と思い振り返った姉だが、御華に気が付き、次にパジャマに気づき、それを2回ほど繰り返してやっと理解した姉は、御華にお礼を言い、パジャマを受け取る。
「?うんうん、大丈夫だよ」
その様子に首を傾げたが、気にしない事にして、着替えを始めた。
着替え始めてから7分程経ち、着替え終わった御華と姉は、居間に戻って来た。
「母さん、パジャマ持って来てくれてありがとう」
居間に入ってすぐに、姉は母にお礼を言う。
「どういたしまして」
「砂樹はしっかりしてるわね」と思いながらも、お礼を返す。
「ママ!ケーキ食べても良い!?」
そんな二人の間に入り、御華は母に聞く。
「「ふふ」」
「良いわよ。椅子に座って待っててくれる?」
「母さん、私も手伝うわ」
「そう?それならお願いね」
活発で元気な御華を見て、母と姉は顔を見合わせて笑い、それから二人はケーキを取りに向かう。
「?」
二人が笑った理由が分からない御華は、首を傾げて悩む。
「御華、考えても答えは出ませんよ」
悩む御華に、二人が笑った理由を知ってる父は、御華では答えが出ないと分かっていたので、そう言う。
「ぅ、うーん……後もう少し……」
しかし、父に言われても自分だけが分からない事に納得がいかない御華は、熟考して答えを見つけようとし、後少しで何か分かりそうになった時に、
「御華、ケーキ持って来たわよ」
母の声と、『ケーキ』と言う単語が御華の耳に入って来たのだ。
「ケーキ…………ケーキ!!」
『ケーキ』の単語が頭の中に響き、思考の海から一気に戻って来た御華は、バッ!と瞳を見開き、母の声が聞こえた方に振り返り、母の手に持っている皿の上に堂々と乗っているケーキを見つけて、先程考え込んでいた事など忘れてケーキを取りに向かう。
「ケーキ!ケーキ!」
「ふふ。はい、御華の楽しみにしていたケーキよ」
キラキラとした瞳で、目の前に来てケーキを強請る御華を、慈しみの表情で母は見て、ケーキを手渡す。
「ママありがとう!!」
ケーキの乗った皿を大事そうに受け取り、お礼を言って、食卓にゆっくりと歩いて行った。
「ふふふふ」
ケーキを落とさないようにゆっくりと向かう御華の後ろ姿を見ていた母は、微笑ましく笑いながら見詰める。
「母さん。御華を見詰めるのも良いのだけど、お風呂に入らないの?」
自分が食べる分もこっそり切ってから戻って来た姉は、そう母に話し掛ける。
「う~ん……もう少し見ていたかったのだけど、お風呂が冷めてしまうから入って来るわね」
頬に人さし指を当てて、どうしようか考えていた母だが、チラリとソファーに座る父を見て、お風呂に入る事にした。
「分かったわ。ゆっくりお風呂に入って来てね」
「えぇ」
姉はそう返事を返して、手を振り母を見送る。
「?」
遅れて、母からの視線を感じた父は後ろを振り返ったが、その時にはもう母は居間を出る所で、視線を感じたのも気のせいかな?と首を傾げてそう思い、テレビの画面に顔を戻す。
「……行ったわね」
母がお風呂に向かったのを確認した姉は、小さく呟き、台所に置いたケーキを食べに向かう。
その頃の御華は、口に入れたケーキを堪能していた。
ゴク
「美味しい~~!!」
中々、食べれないケーキを久しぶりに食べて、御華の表情は蕩けきり、とても幸せそうな表情で、満足そうな声でそう言う。
「お風呂上がりのケーキも良い~~」
美味しさからか、間延びした御華の声は、その表情も相まって、頭を撫でたくなるような小動物めいた可愛さがあった。
「ふっふっふ~~……楽しみに残して置いた大粒のイチゴをケーキと一緒に食べる時が来たのだ~~」
胸を張って偉そうに言うが、間延びした声では、可愛らしいとしか受け取られない。
「この恐ろしい組み合わせで~~私の……」
ウトウトしながらも、最後の一口を口に運ぼうとしたが、皿から持ち上げる前に、御華は眠ってしまった。
ガシャン!
「な、何!?」「ッ!」
急に大きな音がなり驚いた姉と父は、慌てて音の発生源に目を向けると、そこには、皿の隣に倒れた御華が居た。
「えっ、御華?」
「大丈夫か!」
目を瞑りピクリとも動かない御華の様子に、姉はケーキを持ったまま呆然と呟き、父は慌てて駆け寄る。
「御華!!「すぅー……すぅー」……眠って、いるだけ?」
御華に駆け寄った父は御華の体を起こして声を掛ける。
すると、息を吸う音が聞こえて来て、何が何だが分からなくなり固まるが、少しして状況を把握した父は、御華の状況を端的にそう言った。
「……はっ!御華!!」
暫く固まっていた姉だが、呆然としてる場合じゃないと気づき、慌てて御華の元に向かう。
「砂樹!「ッ!!」……落ち着きなさい」
悲鳴を上げて、走って向かって来る姉に気づいた父は、わざと大声を上げて姉の足を止め、落ち着いた声で姉の心を宥める。
「すぅー……はぁー……父さんが落ち着いているってことは、御華は無事なのね?」
父のお陰で冷静になれた姉は、心を落ち着かせる為に呼吸を整え、父に問い掛けた。
「えぇ、寝ているだけですよ」
御華をお姫様抱っこして持ち上げながら、父は返事を返す。
「そう……なら良かったわ」
ホッと、胸に手を当てて姉は安堵した。
「私は今から御華を部屋に運んで行きますから、湯樹菜さんがお風呂から戻って来たら説明をお願いします」
「任せてちょうだい」
「それでは、少しの間頼みましたよ」
短いやり取りを終えて、父は御華を部屋に運んで行く。
「……はぁー。御華ったら、心配を掛けるんだから」
父と御華が見えなくなるまで見ていた姉は、安堵しながらも、先程の御華に何かあったんじゃないかと思った時の恐怖、苦しさや悲しさ、後悔等、色々心臓に悪かった事を思い出すと、姉の表情は悲しそうになり、そう呟いた。
__________________
御華をベットに運び終わった父は、疲れた溜め息を吐き出す。
「はぁーー」
(御華が無事で良かったけど、心臓に悪いですね)
姉と同じ様な事を父も思いながら、ベットで横になっている御華を見詰める。
「ふゃ~~……すぅー……」
何かを見つけたのか、幸せそうな表情で口をパクパクする御華。
「まったく……」
(砂樹と私が心配したのに、当の本人は呑気に幸せそうな表情ですか……)
その表情に、父は苦笑しながら、御華の頭を撫でた。
「ふにぃ~~~」
それが気持ち良かったのか、変な鳴き声を上げて、父の手に頭を押し付けて来る。
「ふふ。これじゃあ、叱れないじゃないですか」
嬉しそうに言う父に、叱るつもりは無さそうだった。
「……さて、私はそろそろ戻りましょうか」
十分撫でて満足した父は、御華の頭から手を離す。
「うぅ~~!」
それが嫌だったのか、父の頭を探すように体をゴロゴロし始める。
「はは……これで寝ているのですから、不思議ですよね」
ゴロゴロとする御華の姿はどう見ても起きてるとしか思えないが、経験がある父は渇いた笑いを上げて、独り言を呟いた。
「ううぅぅぅ~~~!!」
遂には、手と足をジタバタとしながら探す。
「御華、諦めてください」
父はそう言い残して、御華の部屋を後にする。
__________________
「ただいま」
居間に戻って来た父は、ソファーに座ってテレビを見ている姉に声を掛けた。
「お帰りなさい。御華は元気だった?」
先程よりも、表情が明るくなった姉は家族以外だと分からない質問を父にした。
「えぇ。私達の心配など知らないとばかりに元気でしたよ」
姉の隣に座りながら、姉に返事を返す。
「ふふ」
その言葉だけで、御華がジタバタする様子が思い浮かんだ姉は笑う。
「笑い事じゃないんですけどね……」
テレビに映し出された映像を見ながら、父は苦笑し、そう言う。
「冷徹と会社で言われる父さんが、苦笑するなんて家族以外だと無いものね」
父の方を振り向き、姉は楽しそうに笑いながらからかう。
「……それは今の話に関係ありませんよ」
図星だったのか、会社での二つ名を知らなかったのかは分からないが、少しの間が空き、そう言った。
「確かにそうね。それより、父さん、コーヒーは飲む?」
あっさりと姉は認め、話題を変えた。
「飲みたいですね。お願いしても良いですか?」
「分かったわ。少しの間待ってて」
姉はソファーから立ち上り、コーヒーを作りに台所に向かって行く。
「はぁー……今日は疲れましたね」
疲れた溜め息を吐いて、目を解す。
「お疲れ様」
そんな父の背後から、そう労いの言葉を掛けられた。
「……湯樹菜さんですか。驚かせないでください」
後ろから声を掛けられて、後ろを振り返ると誰も居らず。先程、姉が座っていた場所からポスッと音が聞こえて来て、そちらを見ると母が居り、とても驚いていない声でそう言葉を返す。
「あら?それを言いたいのは私よ?驚かそうと、背後から声を掛けたのにちっとも驚いてくれない砂唯さんに、私の方が驚いたんだから」
母も母で、「ふふ」と笑いながら、笑顔でそう父に言う。
「それは「あれ?母さん、もうお風呂は良いの?」
「石鹸の香りが漂って来たからですよ」と言い掛けた父の言葉を遮るように、コーヒーを待って来た姉が母に気づいて声を掛けたことで、言葉にする前に終わる。
「えぇ、今日はゆっくりとお酒を楽しみたくて」
ニコニコと笑顔のまま、後ろを振り返り、姉に理由を話した。
「母さんが酒を飲むなんて、珍しいわね。はい、コーヒー」
物珍しいと思いながら、姉は父の前にコーヒーを置く。
「ありがとう、砂樹」
父はお礼を言って、コーヒーを飲み始める。
「どういたしまして。それよりも、母さん、私の分のコーヒーを作りに行く次いでにお酒を持って来て上げるけど、何のお酒が飲みたいの?」
姉は母に問い掛ける。
「う~ん、そうね……いつも、冷蔵庫に置いてある青い瓶を持って来てもらえるかしら?あっ、後コップもお願い」
最初に、どんなお酒を飲みたいか考えた母は、気に入ってるお酒を姉に頼んだ。
「分かったわ。後、運び終わったら、私は部屋に戻るからね」
最後の言葉は父に向けて言い、姉はお酒とコーヒーを作りにまた台所に向かう。
「…………」
「砂唯さん、どうしたの?」
コーヒーをゆっくりと飲み、リラックスしていた父が、何が重大な事を思い出したかのような表情になり固まった姿を見て、不思議に思った母は問い掛ける。
「い、いえ……私、今から御華にクリスマスプレゼントを届けて来ます」
(砂樹に言われて思い出しました。湯樹菜さんは酒を飲むと、絡み方が凄いんでした……今は少しでも時間を稼ぐ為に……いえ、御華にクリスマスプレゼントを届けに行きましょう!)
そうとう、酒を飲んだ後の母が恐ろしいのか、『御華にクリスマスプレゼントを届ける』と言う、本音とも言える建前を使って、居間から抜け出す。
「?」
その何処か慌てる父の姿に、意味が分からず首を傾げる。
「ふふ。はい、お酒とコップ」
何度か目撃もとい、体験した事がある姉は、父に同情しつつも、お酒とコップを無情にも母に手渡した。
「ありがとう、砂樹。それと、おやすみなさい」
お酒とコップを受け取った母は、姉にお礼を言い、寝る前の挨拶をした。
「うん、おやすみなさい」
姉は笑顔で挨拶を返し、居間から出て行く。
姉が部屋に向かった頃、御華の部屋では。
「御華、すみません」
時間稼ぎと言う理由で、クリスマスプレゼントをベットの隣に置きに来たことに罪悪感を抱き、御華に聞こえていないと分かっていながらも謝り、少しの間、御華の部屋で時間を稼ぐ。
その後、少しだけでも時間稼ぎが出来たと思った父は、御華の頭を撫でながら、
「御華。明日はよろしくお願いしますね」
そう覚悟を決めた表情で寝ている御華に頼み、居間に向かう。
「ッ!……落ち着いて、すぅー……はぁー……すぅー……はぁー」
しかし、居間の前に着いた時点から、中から酒精の臭いが立ち込めており、それを嗅いだ時から体が言うことをきかなくなったが、何度も深呼吸をすることで硬直から抜け出し、意を決して居間のドアを開ける。
ガチャ
「ただいまもど「お帰りなさ~~い!」ムガッ!……もう手後れですか」
入った瞬間、言葉を遮るように母が抱きついて来て、横に押し倒された父は頭が理解するのを拒み固まったが、ギュ~~!!と抱き締められ続けてやっと、受け入れた父は、諦めにも似た気持ちでそう呟く。
「ふふふふ~~~」
これから父は、夜が明けるまで酔っ払った母に絡み続けらる事になった。
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朝、それは一日の始まりである
姉は起床し、父と母は夢に飛び立つ時間
そんな朝の時間に、家中に大声が響いた。
「やったーーー!!」
その原因である御華は、ベットの上で跳び跳ねながら、両手で持ち上げたプレゼントを上に掲げて、嬉しさの舞を踊っていた。
「ふっふっふ~!いったい何が入っているかな!?」
存分に踊り、満足した御華は、楽しみに取っておいたプレゼント開封をワクワクしながら決行する。
「ふんふんふ~……よし!袋を上手く剥がせた!つ、ぎ、は~~……箱だ~~!!」
袋を慎重に剥がし、綺麗に剥がした後には、クリスマスデザインが施されたブルーの箱が御華の目の前に現れた。
そのデザインと、箱の大きさに、御華のワクワクは止まらない。
「箱に入っているのは何だろうな~~!!」
御華はそう言いながらも、箱には手を出さずに箱の周りを動き続ける。
「ふっん!ふっん!ふっん~~!……今だ!!」
興奮が最高潮まで達した御華は、箱の蓋を思いっきり開けた。
箱を開けると同時に、御華が箱の中を見ると、そこにいたのは……黒色のウサギ、それも大きい箱にスッポリと入る程のウサギのヌイグルミだ。
「うわぁぁ~~!!」
御華は歓喜の声を漏らして、黒いウサギのヌイグルミに夢中になる。
「……よろしくね!クロちゃん!」
暫くの間、時間も忘れて蕩けた表現で見ていたが、我慢できなくなったのか、箱から黒いウサギのヌイグルミを持ち上げた御華は、ギュ~~~!!と抱き締めて、そう、とびっきりの笑顔でウサギのヌイグルミに言うだった。
読み足りないと言う者には!こちらをどうぞー!!
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