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自殺幇助、やっていました  作者: Huyumi
第一章
1/22

1-1 杉原健一

 この物語はフィクションです。

 自殺幇助は犯罪です。

 作者は自殺を推奨、否定する意図を持ちません。

 同様に犯罪行為を推奨、否定する意図を持ちません。


 どうか、心行くままを願って。

 今日という日がどんな意味を持つか、ここ一ヶ月ほど想像し続け生きて来た。

 冬は終われど寒さは抜けきらず、薄手のコートを着込み上着同様くたびれた革靴で地面を踏む。

 荷物は多くなく、鞄を握っていない空いた片方の手を手持ち無沙汰にポケットに浅く入れ、少し目線を下に向けたまま一歩、また一歩とただ目的地に向かうための足取りだけを意識しようとする。


 顔を上げれば誰かと視線が合ってしまう。

 何か印象に残してしまえばそこから空想してしまう。

 今の自分には一つ残らず毒でしかないと長い年月でそれは否応にも理解してしまっている。


 故に、ただ足元だけを見て、どこへ向かっているのかだけを忘れずに足を機械的に動かす。

 一歩。

 二歩。

 ――これは普段歩いている道程とは違う。

 三歩。

 四歩。

 ――これは断頭台への階段だ。

 五歩。

 六歩。

 ――これは自らが望んだ罪。

 七歩、八歩……。


 ……。

 ……罪?

 罪、なのだろうか。

 自分の命だ、はたしてそう終えると決めた事に他者に言われる筋合いはあるのだろうか。

 周りに迷惑はかけるだろう、ただここまで至らせてしまった事に一切周りは責任が無いと言い切れるのだろうか。

 そして、なにより。

 そう思ってしまう理由さえも罪になるのだろうか? そうするしかないと思うほど追い詰められた人間をそれは罪だと、悪い事なのだと責め立てるのは正しい事なのだろうか?


 渦巻き、渦巻き、行き所を見失いかけた時、何時(いつ)ものように思考に囚われていた事に気づいて一瞬放心する。

 あれほど考えてはならないと思った直後にも関わらずこの有様とは、我ながら未熟さ(はなは)だしく羞恥がこみ上げてくる。

 ただ頭は覚えておらずとも足は行き先を覚えていたようで、目的の寂れた公園に辿り着く。


 一度呼吸を整えるために浅い呼吸を繰り返し、一息ついた所でゆっくりと周囲を見渡す。

 住宅地に隠れるようぽつりと置かれた遊具達。

 公園の名前でも書かれていただろう看板はほとんどが錆びて崩れ落ち、残った箇所は下品な落書きでかき消されていた。

 日はまだ昇り始めたばかりだというのに公園内には子供はおろか、老人の影すらも見当たらず本当に町から、世界からこの場所は忘れ去られてしまったかのようで。

 ここに公園を作ると決めた人間も、実際に材料を揃えて設計した職人達も、もはや恐らくこの公園の存在を覚えていないのだとしたら胸が疼いた。


 約束の時間よりも早く辿り着けたことを腕時計で確認し、隅にあるベンチへ腰掛ける前に汚れを手で払うが、一体どこからどこまでが汚れなのか曖昧で、汚れを落とすための手がまるで使い捨てのスポンジのように色を変えていく事に気づいた時点で諦めて腰を落とした。

 思考を放棄し、無心を心掛け、何も考えてはいけないと考えていることに自責し空を仰ぎ、何も考えずにはいられないと諦めて一ヶ月近く前に起きた出来事、そこから今日という日を何度も想像し――想像よりも少し生々しかった現状に震えそうになり、どうしてここへ来たのかという理由を想起しどうにか震えを収めた。



「おはようございます」



 一瞬聞き逃しそうになり、遅れてそれが自分に向けられている声ではないのかという可能性に行きつき、慌てて下へと向けていた視線を上へと上げる。


「あぁ……」


 この女性が、


「おはよう、ございます」


 私の死神で、


「はい。メールでやり取りをしていた夢乃です、今日一日、よろしくお願いします」


 今日が私の命日なのだ。

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